本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< February 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 >>
<< たらいまわしTB企画第36回「少女の物語」 | main | 「果しなき流れの果に」小松左京 >>
# 「秋の花」北村薫
秋の花 (創元推理文庫)
秋の花 (創元推理文庫)
  • 発売元: 東京創元社
  • 価格: ¥ 504
  • 発売日: 1997/02
  • 売上ランキング: 136688
  • おすすめ度 4.5


北村薫、直木賞落選の知らせを聞き、キーッ、ってなったあと、
久々に北村薫を読みたくなって再読。
なんだよやっぱりうまいじゃないの、いいじゃないの。
落とした奴ら何考えてけつかんねん、いてもたろかわれ。と町田康風にキレてみる。

<私>シリーズは「朝霧」だけ未読で、「朝霧」が文庫化された頃に全部まとめて
再読しようと思っていて、そして最初の2作品読んで止まってしまっていた。
直木賞受賞作発表前には積読段ボールから「街の灯」をごそごそと出してきていて、
受賞したら読もうとスタンバイOKだったんだけど、受賞しなかったからなんとなく
円紫シリーズにしてみる。意味不明。
しかし、読みたい、と思ったらその本が既に手元にある今の積読状態、極楽なのかなんなのか。

<私>シリーズで初の長編、そして、日常ミステリというには少し重い物語。
<私>の出身高校で、学園祭が中止になる。学園祭準備中に、真理子という女子高生が、
屋上から転落して亡くなったのだ。
真理子と小学校からずっと親友だった利恵は、先輩であった<私>の近くで不安定な
行動を取るようになり、<私>は事件の真相を知ろうとするが・・・

<私>の友達、江美ちゃんや正子ちゃんももちろん健在。大学生のたわいない会話、
「野菊の墓」にちなんだ小旅行でのあれこれ、若くして結婚した江美ちゃんと、
まだ本当の恋を知らない<私>とのやりとりも微笑ましく、大人になる寸前の
微妙な時期を生きている彼女たちがとても羨ましい。

リアリティはないんだけどね。リアルな女子大生はなんかもっと生々しいし、
もっとぎらぎらしている気がする(すいません女子大生の方々。)
私もある意味そうだったと思うけど、いい意味でも悪い意味でも怖いものなしだった。
顔がどうとか美しいとか関係なく、若さが故の痛々しさも荒々しさも内包してる、そんな感じ。

北村作品の女子大生は穏やかで純粋で、女性の純粋な部分を抽出して
結晶化したみたいな(大げさか)、ファンタジー的な魅力があって、
そこがなんかすごく好きだ。
男の人ってこういう女性が案外理想なのかもと思うと、可哀想でもありかわいらしくもあるなあ。

なんて、日常的な微笑ましい大学生活も満載で話は進むが、事件は暗い影を落とす。

ここ以降、もしかしてネタバレかもしれんので未読の方ご注意。
すいません、これ書かずにはいられない。

ミステリとして読めば、解決は鮮やかなものでした。
で、真相がわかって立ち現れてくるものに、私は絶句してしまう。

いい人しか出てこない。善意しかない。ちょっと鼻白むほどにみんないい人で、
真理子と利恵も女同士でこんなに純粋に仲が良いなんてちょっとあり得ない、って
否定したくなるくらいに仲が良い。普通、昔から仲のいい女友達って、
案外複雑な感情を持つことが多いと思う。良いところも悪いところも知り尽くしてるし、
長いつきあいの中では大げんかしたり冷戦したりすることだってあったし、
仲がいいだけ争いも起こるし、近いからこそ嫉妬もする。そういうもんじゃないのか、
とつっこみたくなるほど、彼女たち二人にはそういう波はないように見えた。

でも、だからこそ訪れる、残酷な結末。呆然とした。
誰も悪くないからこそ、その残酷さは美しく尖った何かのように私を刺した。
ちょっとたまらなかった。読み終わってしばらく心が沈黙した。
どこかにほんの少しでもいい、悪意があった方がまだ救われると思った。

死んでしまうのも哀しいけれど、それでも生きていく方がもっと大変だ。
死をどう受け止め、どう歩いていくか。喪失をどう埋めるか。
ラストシーンは本当に染みた。失った者同士、寄り添う。言葉はなくとも、伝わる何かはある。
しばらく頁を止めるほどにぼんやりとした。

そのあと、円紫さんと<私>が喋るシーンでもじんわりと。
まだ若い<私>の言葉に、人生を長く過ごしている円紫さんがやんわりと返す。
二人の年輪の違い、人生の重みを思った。若さも尊いが、年を経たことも尊い。

こんなラストシーンを描ける北村さんの年輪も経験も尊い。小説の技術としても
最高に美しいのだけれど、技術以上のこころがこもっている。素晴らしい。

再読してより深く読めたような気がし、私も少し年を経たかなと嬉しくなった。
| comments(0) | trackbacks(0) | 17:25 | category: 作家別・か行(北村薫) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/698539
トラックバック
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links