本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「夜中に犬に起こった奇妙な事件」マーク・ハッドン/小尾芙佐訳
夜中に犬に起こった奇妙な事件 新装版
夜中に犬に起こった奇妙な事件 新装版
  • 発売元: 早川書房
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2007/02
  • 売上ランキング: 53057


近所の犬が、夜中に殺された。自閉症のクリストファーは捜査をはじめる。
クリストファーのお母さんは心臓発作で死んだ。彼はお父さんと、ネズミのトビーと暮らしている。
記憶力が抜群にいい彼は、本に事件を記録しながら、事件を調べ、いろんな人に会い、
そして、ある真相にたどりつく。
そこから彼の冒険が始まる。

あれ、なんか落ち着いて粗筋も書けないくらいやわ・・・
これを読んだ夜はもうねえ、泣いてねえ。読み終わってもまだしばらく泣いてて
なかなか眠れなかったってくらい泣いたのよ。ここまで泣いたのは久しぶりだ・・・・。
読んでる間、ぐらんぐらんに心揺さぶられまくってすんごい動揺して、ある時から
ばーっと涙腺決壊、みたいな。
最初は気軽に読んでた。クリストファーが隣近所に聞き込みしたりして、
それを本にしようと文章にしたりしてる。
なんか彼が書いた挿絵がふんだんについてあって、本当にクリストファーのノートを
見ているみたいで、心和みながら読んでいた。
章ごとに番号がふってあっていきなり2から始まってぽんぽん飛ぶので、ん?と思っていたら
素数ばかりらしい。素数ってこんなにあるんだ、とか、クリストファーが素数の見つけ方を
提案してるところとかは「簡単?」とか思ったりもする。でもクリストファー的には
簡単なだけであって、私達にとっては簡単じゃない。
でもこの本はクリストファー的視点に常にいる。そこにいつのまにやら、私は入り込んでいた。

自閉症って、テレビドラマの知識くらいしかなくて、いろんな症状あるんだろうし
一概には言えないと思うけど、クリストファーの場合は、曖昧なことがわからない。
なんとなく態度で示したりとか、言葉を濁したりとか、空気で察したりとか、
そういう人間と人間の間に横たわる、人間関係を円滑にする「雰囲気」みたいなものを、
クリストファーは一切察知できない。言葉は言葉通り受け取るし、だから世間は彼から見たら
嘘つきばっかりになっていく。
クリストファー視点に徐々に入っていくと、なんて世の中変なんだ、って私は思ってしまった。
すんごく曖昧な態度や言葉ばかりの世界で私たちは生きてるんだなあって、
その不安定さに驚かされて、心許なくなった。

私もさ、職場とかで気を遣う場面はすっごいあるし、「いいよ」って言ってても
全然目が笑ってない人とか、逆に「それ、あかんやろ」と言われても顔が笑ってる人とか、
言葉や空気や表情やあらゆるものを読み取って、わりとびくびく暮らしてる。
「あ、今ちょっと気分を害しちゃったかな?」「うーん、怒ってないみたいだし、気のせいかな?」
一見日常的会話が繰り広げられる中で、私たちは小さなことで戦々恐々としているわけで、
それは私がびびりなのじゃなくて、誰でもごく自然に受け入れているストレスだろうと思う。
クリストファーにはそんなものはない。言ったことが全てだ。裏も行間も読めない。
彼は幸せなのか不幸なのか、私には最初少しわからなくなった。
何も憶測しないでいいだなんて、ある意味幸せなの?もしかして。

その感想は後半違うものになる。彼が不幸だとは言わないけど、お父さんとか、
他の大人達とかの、彼への愛情が、有形無形の愛情が、彼には見えないのだ。
大人達は確かに彼にひどいことを言う。そんな残酷な事実知らせなくてもいいのに、と
思うことでも「彼にはわからない」と思うのか、あっさり手紙に書いたりしてしまう。
でも彼はその残酷さにも気づかないけれど、手紙や言葉から溢れる愛情にも気づいていない。
大人達が、クリストファーにどうやって接したらいいのかわからないけど、
クリストファーを知ろうと努力して、クリストファーが喜ぶように接して、
そしてクリストファーが哀しむことは隠して・・・、大人は大人で不器用だけど懸命に、
クリストファーに愛情を注いでいた。彼は気づかないけれど・・・・・
そのことに気づいた後半から、怒濤のように涙が溢れてきた。もうこうなったら理屈じゃない。
お父さんの些細な言葉に愛が溢れている。そして私はクリストファーに伝えたくて仕方がなかった。
お父さんは怖くないんだよ、こんなにも君を愛しているんだ、ってことを。伝える言葉はないけれど。

子どもが犬殺しの犯人を見つけて、ちょっと冒険に出る、ミステリ仕立ての微笑ましい話かと
思っていたけれど、そういうほのぼの要素もありつつ、これはただの親子の物語なのだな、と。

自閉症でもそうでなくても関係ない、伝わらないものは伝わらない。親子だろうが夫婦だろうが。
人と人ってそういうものだしそれは覚悟してやってかなきゃなんない、私たちは本当に生きづらい。
そんなことをしみじみと感じさせる作品で、本当に切なかった。

でも大冒険をした彼は少し成長していて、周りの大人達の愛をほんの少しだけど
受け取ったような気がした。そんなラストもすごく良かった。

クリストファーの蘊蓄も精神世界も楽しく読みつつ自閉症への無知がみるみる
消えていく描き方には著者の自閉症の人達への深い理解と温かい目線が感じられて、
その姿勢にも感涙。豊かな能力と記憶力を持った彼は私より豊かな世界を生きてるんだな。

っていうか、便宜上仕方がないからこう書いてるけど、なんつうか、自閉症とそれ以外、って
分けて考えるのってそもそも違う気がしたんだけど、これを読んでいたら。
そういう考え自体をしちゃいけないような。クリストファーはクリストファーだし、
どこかにカテゴライズするってのはなんか違う気がした。うまく言えないけど。

とにかく、いろいろ考えさせられて、私の頭をぐらんぐらんにやっつけてくれた、
感動の1冊です。もう手放しでオススメ。読むときは、後半は電車では読まない方がいいです。
翻訳は「アルジャーノンに花束を」の人。クリストファーの人柄が本当に良く出ている日本語訳。
そのおかげで、少し読みにくくはなってるけど、さすがにうまい訳だと思います。
そういえば「アルジャーノンに花束を」にも似ているな、この作品。

装丁もすごくかわいいので、本棚にあったらステキかも。
| comments(0) | trackbacks(2) | 16:35 | category: 海外・作家別ハ行(その他の作家) |
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