本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦
新釈 走れメロス 他四篇
新釈 走れメロス 他四篇
  • 発売元: 祥伝社
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2007/03/13
  • 売上ランキング: 725
  • おすすめ度 4.5


いやーおもしろかった、おもしろかったのだ、これは信じて欲しい、
森見がおもしろくないわけがない。私は彼が大好きなのだ。
もう顔を見ただけで「かわいい」と思うくらいなのだ、最近じゃ。やばいのだ。

しかし、大好きだからあえて苦言を呈す。
読み終わって最初に思ったのは「惜しい・・・・。」だった。
さて、何が惜しいのか。私はつらつらと考えることにした。
原典と比べて惜しいのではない。そもそも私は原典をほとんど知らない。
全部読んだような気もするし、読んでない「百物語」もなんとなくはわかるが、
昔に読みすぎて忘れている。「山月記」なんぞ教科書で読んで以来だ。
原典をなんとなくにおわせつつ、森見風味付けでさくっと独自世界に持ってきちゃう、
その力技はすごいなと思う。
全部違うしね、色合いが。原典にあわせたのかもしれないけれど。

特に「走れメロス」があんなんなっちゃうなんて!
桃色ブリーフ!爆笑である。
私は「厚い友情」とか信じてないくちで、小説とかで声高に友情の美しさを
叫ばれても、「けっ」とか思ってしまう子だった。
だから教科書の「走れメロス」もなんら心に響きやしなかったが
(太宰は「人間失格」の方が圧倒的に響いたな、メロスに比べたら)、
森見さんはそんな私の「メロス」観をいい意味で裏切ってくれた。
人のために自分を犠牲にするなんて、そんなの友情じゃない、
お互いがやりたい放題やってそれを許容できないなんて友情じゃない、
なんてことを桃色ブリーフで見事表現してくれたのだった。

と、思うんだけど。なんか踏み込みが足りないんだよなー・・・・
メロスは一番よかったけど、他がね、なんか。
それが私の「惜しい」と思った原因だと思うんだ。

例えば「藪の中」、恋人と昔の彼氏との映画を淡々と撮り続ける映画監督の男、
その歪んだ愛情。描こうとしていることはすごくわかるし、
すごく私の好みのところを突いてきているのだけど、なんていうかな、
目の前に大きな穴があって中を覗き込みたいけど素通りさせられてしまった、
そんな印象だった。なんか、その歪んだ彼の心の奥底まで踏み込んでほしいのに、
そうでなく終わってしまった印象がある。
「桜の森の満開の下」もそうだ。女を愛しながらも結局一人でいることを
選んでしまう男の哀しみ。伝わるんだけど、伝わるんだけどあと一歩、
私にも踏み込ませて欲しかったんだけどなー。

斎藤秀太郎という特異なキャラを主人公にした「山月記」は本領発揮というところか、
人生を脱落したエリート達を描くのは彼は本当にうまいな、とは思うんだけど、
これもまたもう一歩、って思ってしまった。
(斎藤があとで登場した時にはかなり笑えたけど。斎藤、ダメすぎないか?)

「百物語」も、あの不気味な男の存在はもう少し掘り下げられなかったか?
他者、客観的な存在が外から私たちを見ている、そういう不気味さは感じられたけれど。

私が行間読めてないだけかもしれないんだけど、とにかく私には少し惜しかった。

「きつねのはなし」の不気味さと「太陽の塔」の妄想ぶりとを掛け合わせたような作風、
文藝作品みたいな端正な文章でとんでもないことを書いてる森見さんだけど、
今回はどっちつかずというか、今作風に迷ってますか?という印象も受けた。
これも惜しい原因。全部違う作風にしちゃったのは、すごいんだけどね。
そういう意味でもなくって・・・なんか迷ってる気が・・気のせいかな・・

「夜は短し歩けよ乙女」風にいってくれたらそれは全部ファンタジーで、
あの黒髪の乙女がいかに架空の人物風であって実際にはありえない人でも、
私はぜーんぜん気にならなかったのに、急に「人間の深さを掘り下げて」欲しくなったのは
この中途半端さにも起因しちゃってるんだよな。多分・・・。

エリートだけど社会になじめないダメ男の悲哀を描かせたら、
町田か森見か、ってくらい私は彼を認めてるんだけどな。
町田康も相当きてるけど、森見さんは別な意味でいっちゃってるし、
町田さんにはない魅力はもちろんあって。
さらにそこに「夜は短し」とか「四畳半」とかのファンタジー要素が加わって、
本来世間に受けないはずのその作風が実にポップに彩られてて、
それが大好きなんだけど。

でも今回は一歩踏み込んだな、という手ごたえは感じた。
だからこそ物足りなかった部分もあるんだけど、彼が見せたかった世界、
彼が描きたい不気味さはきっと私が待ち望んでるもので、
だからこそ手ごたえを感じたい。私はそう思った。

ああ、なんか(年下だと思って)手厳しいぞ自分。あー。
おもしろかったのにー。ごめんなさいー。
見切ったわけじゃないの。ほんまに、次の作品が楽しみです。待ってます。
| comments(4) | trackbacks(4) | 23:03 | category: 作家別・ま行(森見登美彦) |
コメント
こんにちは、ざれこさん。

私はこの「新釈 走れメロス」を「原典」→「新釈」と並行して読んでいます。まだ山月記だけなんですけどね。

ひとつだけしか読んでないのにこう言っちゃうのもナンなのですが「ちと薄い?」という気が…。目論みは面白いのですが、原典が素晴らしすぎるので、どうしても対比すると「踏み込みが足りない」というざれこさんの感想に1票。何だかその才能は違う形で発揮して欲しかった、勿体なかったなという印象です。うん、次に期待したいです。
| 京丸 | 2007/05/29 10:32 AM |

はじめまして。はじめて書き込ませていただきます。
僕も今日、森見作品を前作コンプリートしました。ざれこさんとは異なり、メロス→乙女→太陽→きつね→四畳半でしたが。。
確かに、この作品は他と比べると見劣りはするかもしれませんね。
「きつねのはなし」の不気味さといったら、夜寝るのが少し怖かったくらいですからね。
「夜は短し、歩けよ乙女」も爽やかというか、ほっとするような感じで、「ふくふく」とかかわいい表現がふんだんに取り入れられあったかい小説でしたよね。
なかなかこの二作を超えるのは大変なのでしょう。森見さんはこれらを超えるために作風に迷ったりしているのかもしれません。
僕も自作に激しく期待しています!いい作品ができるのを祈って待ちましょう!「なむなむ!」
| おもしろぱんだ | 2007/05/30 11:58 AM |

ざれこさんこんばんは。
私はとりあえずの変化の兆しとして受け取ったのですが、それが逆にざれこさんには物足りなさへと繋がってしまったようですね。
ただこれは企画があっての短篇集ですし、現在執筆中のたぬきのはなしを待ってみるとしませんか。
森見さんのブログを読んでるとかなり苦しんでいるようですが、その分期待もつのるってものです。
| たまねぎ | 2007/06/01 11:14 PM |

京丸さん
私は原典を覚えていないので比較してるわけじゃないですし、原典をうまく森見風にアレンジしててそれはいいなあと思うのですけど、森見さんの小説として物足りなかったというか、過渡期というか、そんな印象でした。

おもしろぱんださん
はじめまして。
「夜は短し」は私にとってどまんなかストライクゾーンだったので、どうしても比べてしまうのかもしれませんが、この本でまた更に一歩踏み出している感じを受けたので、これからが本当楽しみです。

たまねぎさん
そう、変化の兆しが見えたのです。先がずーんと見えるから物足りないのですよね。でも森見さんはまだまだいける、と偉そうに思ったりして(笑)もちろん次回作はそりゃもう、よだれたらして待ってますよー。
しかし、「たぬきのはなし」って(笑)
| ざれこ | 2007/06/01 11:56 PM |

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