本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「墨攻」酒見賢一
墨攻
墨攻
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 380
  • 発売日: 1994/06
  • 売上ランキング: 31808
  • おすすめ度 4.5


アンディ・ラウ主演、映画「墨攻」を見に行った。
10万人対一人の対立と聞いて面白そうと思い、見に行ったのだが、
そういや酒見さんの小説にも「墨攻」ってあったなあ、同じタイトルかなあ、
これってマンガが原作らしいしなあ、とか思っていたら
思いっきりエンドクレジットで「原作 酒見賢一」とあった。
おお、私が今一番注目している作家なのに、映画化されてるって知らなかったとは迂闊。
マンガがそもそも酒見原作で書かれてるのですよね。

しかしすごいなと思うのは、日中韓の合作なわけよ、この映画。
日本からは役者は出ていなくて(エキストラは知らんけど)、
音楽と原作なんかを提供したみたいで、役者は中韓から、撮影は明らかに中国でやってる。
中国人が酒見原作を認めたってことよ。これはきっとすごいことだよね。
「さゆり」を日本で映画化するみたいなもん?まああの原作は、外人が書いたにしては
日本のことよく調べてるなあと思ったけど、でも多分日本で映画にしようとかは
あんまり思わないと思うんだよな。
でも今回はいかに日中韓合作とは言え、日本の原作が中国作品で採用されている、
酒見氏が中国に認められた!なんて、勝手に思ってるわけです。ファンとしては。

次は「泣き虫弱虫諸葛孔明」を輸出して奴らを愕然とさせてやろうぜ。
なんて思うわけですが、さすがにそれは採用されまい・・・。
映画「赤壁」構想が進んでるようですが、諸葛孔明は金城武らしいしね。
孔明=カッコいいインテリ、ってイメージらしいからね。夢を壊しちゃ悪いよね。
と、映画のことばかり語って申し訳ない。映画は、女も絡むし二転三転するし
エンタメ性が高く、でも深い内容で、アンディもかっこいいし、すごく面白かったです。

それを思いながらこの原作を眺めると、薄い。あまりに薄い。
380円というありえない値段もついている。
もちろん映画よりはるかに単純な物語だった。でも、読み応えがあり、
ほんの少しの時間である一族の栄光と衰退を読んだ気がした、というのは大げさか。

春秋戦国時代、墨家と呼ばれる集団がいた。
彼らは兼愛を説き、平和を説く、戦国時代には異端と呼ばれる存在。
でも彼らは優れた戦闘集団でもあった。彼らの戦いはただ、守ること。
平和を説くがために国を守らねばならず、そのために戦闘に秀でなければならない。
その自己矛盾を抱えた集団。

革離という墨子の者が、梁の国に出向く。そこは強国に今にも攻められそうで、
風前の灯だった。そこに一人で乗り込んだ革離。
王は妾のことばかり考え、王の息子は墨家を蔑んでいる。
それでも革離は城を守るため、自分に全権を委任させ、たった一人で立ち向かう。

彼は一人で立ち向かったのではなく、まずは人望を得、民の力を結集させた。
人望を把握し民の心をつかむため、信賞必罰をモットーに、平等に褒美を与え
平等に罰する。そして人々を適材適所に配し、ただ戦闘のプロとして昼夜問わず働き、
地面を掘ってくる敵のルートを見抜き、さまざまな優れた武器を開発し、城を守る。
戦職人とでも言おうか、あらゆることに長けた革離は、淡々と彼らを用い、
そして彼らを守る。もちろんボランティアだ。私利私欲はどこにもないのに、
彼は3日も4日も一睡もせず、王が差し向けた女も抱かず、淡々と働く。
(アンディ版では革離につきまとう女がいて次第にその女に惹かれるが、
原作はあくまでもストイックである。ちなみにその女は邪魔ばかりしてうざかった)

なんでこんなに働くのだろう。
彼が人望を集めえたのは人の心をつかむ戦略によるところもあっただろうが、
彼がただ淡々と黙々と働いていたからだろう。そんな気がした。
自分の仕事に誇りを持って、それをただひたすらこなす。
そういう彼の姿を読んでいると、こちらも姿勢を正したくなる。

死刑囚を一人わからないように殺して「敵に殺された!」と触れて回り、
人民の戦闘意欲を奮い立たせるほどの狡猾な人心掌握能力を持っていた彼だが、
最後にただ一つ間違いを犯す。
映画とは全然違うそのあっさりとしたラストに私はものすごく驚いた。
そして、その皮肉に酒見氏の味を強く感じた。なんて皮肉なんだろう。
人の心を全て人がつかめると思ったら大間違いだね。

南伸坊氏のイラストが、深刻な内容なのにほのぼのしていていい。
この本や酒見氏の作風とも通じるものがあった。

墨家はとても進んだ集団だったようで、脱線描写に詳しく書かれているが、
こんな兼愛主義の人達は、たとえ現代に現れても淘汰されてしまいそうで、
それがなんとなく怖い。
春秋戦国時代以前から、私たち人類はずっと戦い続けているのだ。
それにしても、こんな短い作品で、物語性にも優れ、なんか知識まで得たような
気がしてしまうのは、さすがといわざるをえない。無駄のない文章、簡潔な描写、
でも綿々と時代をさかのぼり中国の歴史、人類の歴史にまで触れた気になる壮大な感覚。
映画も見てしまった私は、映像的にも想像できて楽しめた。
いやあ、これで380円はお買い得。
| comments(4) | trackbacks(1) | 03:21 | category: 作家別・さ行(酒見賢一) |
コメント
まさに。
これで380円はほんとにお買い得。
これだから関西人はさーとか、結局世の中金かい!とか言われようが、お得なものはお得なのだからそれはもうしょうがないと私は言いたい。

となると、やはり次は「泣き虫弱虫諸葛孔明」に期待したい。
無理だとわかっていても期待したい。
めっちゃ人任せですが、期待したい。
したいったらしたい。
もちろんこっちの孔明も金城武で文句はあるまい。
| ロケット | 2007/05/23 4:25 PM |

ざれこさんこんばんは。この本は後宮小説の後に読んで、一気に酒見さん好きとなるきっかけになった本です。薄いけど面白いし中国史に親しみやすくしてくれるし、本当にその値段はお得です。
周公旦という作品も面白いから機会があったら読んでみてください。陋巷の前に読むと、陋巷で孔子が説く「礼」を理解するのに役立ってくれます。
私も孔明を読む前に頓挫した陋巷を読み切らなくてはと、一から読み直すのを計画中です。
| たまねぎ | 2007/05/25 9:21 PM |

アンディ・ラウ&アン・ソンギ好きの僕は
もちろん映画は観たんですが、
どうもメソメソ系の主人公と、
単なるアホにしか見えないヒロインに納得いかないし、
あと演出描写の大雑把さも気になったりと
あまりいい印象がありません。
で、絶対いつか原作(小説かマンガか)を読もうと思った
…のを今の今まで忘れてました(笑)。
ほほう、そうですか、いやこれは是非読まねば。
| ふゆき | 2007/05/27 12:59 PM |

ロケットさん
なんか関西人って、「この服いくらやと思うー?千円やってーん」「えー、みえへーん」っていう、「いいものを安く買った自慢」をついやってしまいがちな人たちですから、私だって安くておもしろい本はつい値段のこととか書いたりしちゃうわけです。

「泣き虫弱虫」映画化は是非本場中国で!孔明は金城、劉備はトニー・レオン連れて来い、ってな感じです。黄氏はこうなったらチャン・ツィイーで!(笑)やってくんないだろーなー。(あれ、トニー・レオンって香港?国がわかりません。ま、いいやどこと合作でも。笑)

たまねぎさん
うー「陋巷に在り」は6月ごろから読み始めるつもりでしたが「周公旦」が先ですね。だいじょうぶです、手元にありますので先に読みます(用意周到。笑)
私も「孔明」でやられてから酒見さんは全部制覇するつもりでいますが、この作品は孔明と違って硬派でシンプル、でも力強くてさすがでした。

ふゆきさん
ま、アホなヒロインが主人公を窮地に陥れるパターンは映画の常套手段ですが、あの女は酷すぎましたね(笑)。積極的に邪魔してるとしか思えないので一瞬敵のスパイかと思っちゃいました。あんな女を助けに行くアンディにすら呆れてしまう酷さでしたね。
アン・ソンギって革離と碁を打ってた敵の大将でしたよね?いい俳優さんですよねー。私も好きです。

原作には女は出てきませんよ、少なくとも革離は女にゃ手をつけず、期待どおりストイックです。是非お読みくださいな。
| ざれこ | 2007/05/28 1:03 AM |

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墨攻 酒見賢一
カバー装幀・挿画は南伸坊。1989(平成元)年、『後宮小説』で第1回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。主な作品『墨攻』、『陋巷に在り』(中島敦記念賞)、『周公旦』(新田次郎文学賞)、『聖母の部隊』、『ピュタゴラ
| 粋な提案 | 2007/06/14 3:55 PM |
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