本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「赤朽葉家の伝説」桜庭一樹
赤朽葉家の伝説
赤朽葉家の伝説
  • 発売元: 東京創元社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2006/12/28
  • 売上ランキング: 9665
  • おすすめ度 4.0


私の母方の祖母は惚けてはいるが、今も同居し元気にやっている。
祖母が元気だった頃、よく昔話を聞いた。祖母は戦時中に母を産んだが
祖父は母を見ることもなく戦死し、祖母は働きながら母を育てた。
そんな大河ドラマ的な昔話や祖父が死んだ時の心霊めいたエピソードも聞いたが、
祖母の時代の、近所の風俗のすごさの方が印象にある。

祖母がまだ若かった頃のある夏、祖母が近所を歩いていたら、
近所のおばちゃんたちが上半身裸でパンツ一枚で縁側に並んで座っており、
「おお、○○ちゃん、暑いのにそんな着こんで、脱ぎいや」と薦められて
逃げ帰ってきた話とか、近所のおじいちゃんの病気が末期でもうどうにもならんって時に
「先生、頼みます」と医者に言ったら医者が心臓に注射を打ち、翌日にじいちゃんが死んだとか、
そ、そんなことあるかいな、と言いたくなるようなことが語られた。本当かどうかはわからないが。
一種の都市伝説(いや、田舎なのだが)だよなあ、とか思いながら聞いていた。
ほんの何十年か前のことやのに、ものすごく昔の話のような気がする。
戦後、ものすごい勢いで近代化した日本からは、いろんなものが消えていった。
そんなことを漠然と思ったりしながら、この昭和の一代記「赤朽葉家の伝説」を読み進めた。
祖母、万葉、母、毛毬、そして語り手のわたし、瞳子(とうこ)、彼女たちの目からみた昭和。

たたら製鉄が盛んな鳥取の町。赤朽葉家はだんだんの上に赤いお屋敷を建てていた。
それを見ながら育った、山の人に捨てられ、多田家に拾われて育った少女万葉は、
未来が見える不思議な能力を持っていて、空飛ぶ一つ目の男を未来視したりする。
そしてある日、赤朽葉家の奥様に出会ったことをきっかけに、万葉は赤朽葉家に
嫁として入ることになり、そして空飛ぶ一つ目の男その人に出会う。
彼はまだどちらの目も見えていて、そして製鉄の職人として働いていた。

万葉はたくさんの子を産むが、姑のタツがとんでもない名前を付けるのが面白い。
長男は泪(なみだ)、長女は毛毬(けまり)、そして次女は鞄、次男は孤独。
孤独ってのが名前とはどうしても思えず、出てくるたびに文脈の意味が取れなかったりした。
長男の泪には暗い運命がつきまとい、長女の毛毬の章になり、毛毬が暴走族になって、
派手にやっている時でも、赤朽葉家には暗い影が宿る。
読者は知っているだけに、その暗さは痛々しく映る。

そして毛毬は友情を一つ無くし、娘を産む。それが瞳子だった。

私は瞳子の時代とも毛毬の時代ともずれていて、暴走族とか不良とかのブームが
終わった時代の子だったし、瞳子ほど無気力な時代でもなかった(気がする)から、
どの人にも時代的な共感は得られなかったけど。
万葉の時代なんかは本当に神話の時代みたいで、昭和だなんて思えないくらい、
昔の話のような気がしながら読んでいた。山の民とかと共存している村、
でも電車とか通ってるし電話もあるし、どの世界にいるんだろう、とすごく変な感じがした。
そういう違和感は感じつつも、不思議なその世界にいつのまにかのめり込んでいくのだった。

桜庭さんの語りは軽いが、独特の雰囲気があって、じっとりとした空気感に呑まれる。
それは、女のにおいかもしれない。「少女七竈と七人の可愛想な大人」を読んだ時に
強く思ったことだけど、女が女であることのにおいや空気、そして抗えない女の運命、
そんなものを感じるのだ。結婚し子どもを産み育てる、そして家を守る。
それを淡々とやってきた万葉と、暴走族だのマンガだのうつつを抜かしつつ
最終的にはその運命を受け入れた毛毬、そしてこれからその流れに乗ろうとしている瞳子。
女が女であり、女で居続けること。その当たり前のことをじっとりとじっくりと、
描いているような気がする。同じ女として、それにぞっとしたり、共感したり。

毛毬は特に異端で無邪気すぎるきらいがあって、この作品中では真ん中の章だけが
すごく浮いている気がしたんだけど、最後に毛毬のある秘密が明らかになったときの
衝撃は、少し忘れがたい。何故嘘を吐いたのか、何故無視し続けたのか。
毛毬の暗い一面を見たようでぞっとした。

そういう風にミステリ的要素も強くて、最後は特に孫の瞳子が、祖母の万葉の謎と対峙するのだが、
謎がだんだん解けてみると、またこの作品の味わいががらっと変わるのに驚いた。
恋愛とは縁遠い、結婚、家庭を描いたものかと思っていたら、ああこれは恋愛小説だったんだ、
なんてことにふと気づかされたのだ。じめじめと書かないのに、人の想いを強く伝える、
その手腕にとても長けていると感じた。桜庭作品にはそういう印象が強くなった。

二段組でページ数も多く重厚、桜庭さんがライトノベルから本格参入、本領発揮、
そんな風に宣伝されている気がするけれど、「少女七竈」のあたりから、
この雰囲気は確立されてたと思う。現代的感覚と、なんとなく古風な雰囲気が
うまくミックスされた独特の作風で、今後も期待したい作家の1人になりました。
| comments(5) | trackbacks(10) | 15:43 | category: 作家別・さ行(桜庭一樹) |
コメント
うちの地元では、未だに夏におっぱいポロリのおばあちゃんが道に座ってる。
男なら捕まるけど、おばあちゃんは性別を超えてるのかな(笑)。
| しんちゃん | 2007/05/10 5:03 PM |

こんにちは。りょーちと申します。
私も本書を拝読いたしましたが、かなりよかったです。桜庭一樹おそるべしです。
どういう話かもわからず、所謂「装丁買い」だったのですが、独特の世界観がなんとも言えず居心地がよかったです。
そういえば、先日紹介されていた「陋巷に在り」はかなり面白そうですね。
「サイキック孔子」の文言が謎です(^^;
ではでは。
| りょーち | 2007/05/16 12:25 AM |

こんばんは。
三世代にわたって繰り広げられる、怒涛のようなそれでいてなんとも濃ゆ〜〜い物語でしたね。
しかし決して重苦しくなく、読後はほわぁと放心してしまいました。
文章の隅々にまで山陰地方の歴史や風土が感じられ、
女性たちの生きたみちを鮮やかに彩っていたのが印象的でした。
何回でも読み返したい…うぅ、買っちゃうか!?

これを読んでから頭の中で「ぱらりらぱらりら」が響いております。
個人的に流行語大賞です。
| Rutile | 2007/05/17 11:54 PM |

TBさせていただきました。

三世代の物語をたっぷり味わった感じで、何とも不思議な魅力のある本でした。
| タウム | 2007/07/15 11:18 PM |

http://fornsk5.blogspot.com非常によい場所
| air fare | 2007/09/12 6:37 PM |

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