本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「スロウハイツの神様」辻村深月
スロウハイツの神様(上)スロウハイツの神様(下)

畜生、また泣かされてしまった。やられたー。
辻村さんの本は私の涙腺をいとも簡単にぶち壊すのだが、
今回もやられましたな・・・。降参やわ。
「凍りのくじら」でもおいおい泣いたんですが、これにはそれほど、
涙は出なかった。でも、「凍りのくじら」とどっちが好きかと聞かれたら、
私は圧倒的にこちらが好きだと答えます。涙の量と作品のよさは比例しません。

最終的にすごく好きです、この物語。
圧倒的な愛、温かさ、そんなものに包まれて、いい涙をもらえました。
辻村さんの作品の中に確かにある、ある決定的な痛さはそのままなんですが、
その棘が少し丸くなってきたというか、和らいだというか、
そういう手ごたえが確かにありました。ステキでした。
売れっ子脚本家の赤羽環は、ひょんなことから手に入れた元旅館の建物を、
自分の気心の知れた人たちに部屋貸しすることに。
「スロウハイツ」という名前になったそのハイツには、画家の卵のスー、
映画監督を夢見る正義、マンガを書いている狩野なんかが集まってきて、
でもその中で一番輝いているのは、チヨダ・コーキという作家。
伝説の「トキワ荘」の手塚治虫のような圧倒的な存在感を持つコーキは、
実際の生活では不器用で、いつも敬語を使ってるような、子どもな男性。
コーキには10年前の事件が影を落としている。コーキの小説のまねをして、
15人もの自殺志願者が殺しあった、あの事件の影が・・・

群像劇なんだ、なんだ、がっかり。
最初の感想はそれでした。10年前のコーキの事件はもうここでは過去の話に思えて、
サスペンスフルな展開を期待した私をあっさり裏切ることになって。
彼らスロウハイツの住人達の抱える夢と、自らの才能への諦めとあがき、
そんなものが丁寧に痛々しく描かれる上巻は、いつもの辻村さんのものでした。
成功しているけど人をたやすく蔑む環に「え?」と思ったり、
それを甘んじて受け入れてしまう狩野や正義、うまくやれなさすぎなスーにも
疑問を感じたりもしました。そして彼らにあまりに生活感がないことにも。
ニートすれすれの夢を追うフリーター、彼らの存在はもっと現実的に、
痛々しいはずで、でも彼らの感じる痛々しさはそれとはちょっと違いました。
ひたすら夢を追い諦め挫折する彼らに、現実の生活はのしかかってなくて、
そこには彼らとスロウハイツの住人との関係性だけがあって、
ナンバーワンだとかナンバーツーだとかそんなんだけがあって、なんか違和感。

あれ、なんでこんなけなしてるんだろ、私。
まあしかし上巻は、漠然とそんなことを感じながら私は惰性で読んでいたんです。
下巻に入る前に、不穏な変化が訪れる予感があって、彼らのこの微妙な力関係が
変化して、環の精神が壊れていくような話かなあ、続きは読むけど・・・、と
思いながら、下巻を手に取りました。ストーリーの持って行き方が
すごくうまい作家さんなので、慌てて読み進めて。

えー、全然思ってたのと違うやん。
最後まで読んで唖然とすることになります。
そんな、どろどろした、痛々しい話では全然なかった。そうか、そうなのか。
最後まで読んで最初からまた読みたくなりました。
ま、ここからは語りませんが、一つ言いたいのは、
上巻で「あれ?」と思った人がいても、絶対最後まで読んで欲しいってこと。
保証します、あなたが思ってる話とは、多分違いますから・・・。

辻村さんの物語は、びっくりするほどの痛々しさの中に、いつも、
びっくりするほどまっすぐな愛情がこれでもかと入り込んでるんですよね。
最初はひそやかなそれが、徐々に大きな音をたててこちらに容赦なく迫ってくる、
そういう印象です。溢れるその温かい洪水に、あっさりやられちまう。
今回はその愛が、よりダイレクトにこちらに届いた気がしました。
いや、ほんま、やられたわー。

こないだ読んだ「アイの物語」でも感じたことですが、物語、フィクションが、
現実の辛さをかみしめてる人間に与える力と言うのは、多分、本読みの私の
想像すらもはるかに超えて、深いものなんだな、そんな風に思いました。
物語には確かに、人を救う力があります。それは間違いのないことで、
私もきっといろんな作家やいろんな物語に、少しずつ救われているのでしょう。
そのことを忘れないように、これからも本を読んでいきたい、
これを読んでそう思いました。
そしていつか、私にとってスペシャルな一冊に出会えますように。

最後まで現実感のなかった登場人物たちにも、最後には愛着がわいてきました。
現代の御伽噺、それでいいと思います。そういう位置づけでいい、
現実感なんていらない、最後にはそう思いました。

上巻で挫折しないで読んでみてください。
| comments(9) | trackbacks(4) | 01:31 | category: 作家別・た行(辻村深月) |
コメント
今晩は

“スロウハイツの神様”後半はもう涙無しには読めませんでした。
本を読むスピードはかなり速いほうなのですが、あのノベルス上下巻を一気に4時間で読了した時には、自分にあきれてしまいました…
翌日の様子は推して知るべし。

辻村さんの作品で、カメオ出演を見付ける事を楽しみにしているのですが、今回も“凍りのくじら”から出演者を見つけてにんまり。
我ながら少し歪んだ楽しみ方をしています。

昔読んだ漫画で、マンガ家を目指している女の子が持込の原稿のラストを迷い続け、自分が失恋したことを引鉄に、アンハッピーエンドにしました。
すると、編集者に「恋愛マンガはハッピーエンドではないと」と注意されます。彼女は『でも、現実にはハッピーエンドなんかほとんど無い。もっと現実的にしたほうが良いと思い、この結論にしました』と反論します。編集者は「現実には、ハッピーエンドが少ないからこそ、少女漫画ではハッピーエンドが必要なんです」と、彼女を諭すのです。
辻村さんの作品は、とても優しく、繊細で痛々しい登場人物ばかりです。
登場人物に現実感が無くても、ラストがご都合主義でも、それでも彼女の本は読み続けたい。
そして、彼女の作品を読みながら泣くことが出来る自分でありたいと思うのです。
| | 2007/04/14 8:25 PM |

えっと、どなたかわからないのですが、熱いコメントありがとうございます。

カメオ出演してましたね、私も嬉しくなりました。

そしてそのマンガ、どこかで読んだようなと思いましたが、豊島ミホさんの「エバーグリーン」に出てくる女の子がそんなことを思っていたような気がするので、それと混じっているようです。アンハッピーでいいことがあんまりない現実だからこそ、辻村作品は読み続けたいですね。痛々しいけれど、ラストはとても幸せになれる、そんな作品ばかりですよね。
| ざれこ | 2007/04/15 10:50 PM |

ざれこさんも読みましたか。私は下巻の途中からは涙なしでは進めませんでした。
コーキの事件がどう絡んでくるのかと期待して肩透かしくらったと思ったら、終盤の展開とコーキの章でああ来られて完全KOでした。
これまでの作品もよかったけど、これはまたさらにいいですよね。
| たまねぎ | 2007/04/16 11:01 PM |

こんばんは。
私も下巻は涙をこらえながら読みました。
コーキのいろんな意味での凄さに唖然としました。
次回作がすごく待ち遠しいですね〜。
| chiro | 2007/04/19 7:11 PM |

たまねぎさん
読みましたよ。たまねぎさんがネタバレはダメだから、みたいなコメント下さってた気持ちがよくわかりました。
私も肩透かし食らってたんですけど、まさかこうくるとは。泣きましたねー。

chiroさん
コーキも環も最初はあまり好きじゃなかったんですけど、最後はもう、すごいな二人とも、みたいな。ステキでしたね。
私はまだ辻村さんの既刊を1作品読めていないので、それを読みつつ新作を待ちます。待ち遠しいですね。
| ざれこ | 2007/04/19 11:27 PM |

こんばんは。
やっとこさ読みました。
同じくこの人の最後には必ずやられてます。
若いのにすんごい作家ですよね。

みんな同じところで泣かされているのは、ちょっと笑える。
| しんちゃん | 2007/06/22 5:29 PM |

しんちゃん
すいません長々とお借りしちゃって。すごく良かったですよね、ありがとうございました。
確かにみんな泣かされてる・・・(笑)
| ざれこ | 2007/07/02 3:50 PM |

ヤフーでスロウハイツを検索したらこのブログが出ました。見つかって嬉しいです。
約2ヶ月に渡って帰り道の電車でスロウハイツの神様を読み終えました。久しぶりに胸がいっぱいになる本でした。日本語能力が足りなくて逃した部分も随分あるのでもう一度ちゃんと読みたいです。
| ジョンミン | 2007/07/18 11:41 PM |

はじめまして。わたしは本のタイトルが気になっていて、でもあらすじみたら痛そうだったので今まで読まず嫌いだったのですが、凍りのくじらで知って、メジャースプーンではまって、スロウハイツで泣かされて、そして名前探しの放課後でまたはまりました。メジャースプーンの彼らが高校生になってます。
ここまで一気に読んだので土日はひきこもり状態。月曜日は寝不足で仕事に行く感じです。他のも読みたいけれど、ちょっと一休み。全部読んでしまうと、楽しみがなくなりそうなので(^^ゞ
| haruri | 2009/02/22 5:04 PM |

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スロウハイツの神様(上・下)
 辻村深月さんのデビュー作にして第31回メフィスト賞受賞作(ちなみに第1回受賞作は森博嗣・著『すべてがFになる』)、『冷たい校舎の時は止まる』を買ったのは、装丁がとても良かったから(書店で上・中・下巻を並べてみよう!)。  ミステリとしては反則ながら、
| 読書狂日記 | 2007/04/15 6:52 PM |
スロウハイツの神様  辻村深月
基本的にはハッピーエンドが一番好きです。 もっとメチャクチャに。突き抜けるところまで突き抜けてほしい。こんな甘っちょろいお涙頂戴は××!これまで何度もそう書いておいて今更ですが。もちろんそういう内面を抉ってぐちゃぐちゃに掻き回す話もかなり好きです。
| 今更なんですがの本の話 | 2007/04/16 10:47 PM |
「スロウハイツの神様」辻村深月
スロウハイツの神様(上)辻村 深月 (2007/01/12)講談社 この商品の詳細を見る スロウハイツの神様(下)辻村 深月 (2007/01/12)講談社 この商品の詳細を見る また泣いた。辻村さんの上手さには弱い体質みたいです。だって毎回
| しんちゃんの買い物帳 | 2007/06/22 5:19 PM |
「スロウハイツの神様(下)」辻村深月
「スロウハイツの神様(下)」 辻村深月 講談社 2007年1月 勝手に評価:★★★★★  『スロウハイツ』二〇二号室。そこには、わたしたちの神様が住んでいる。  人気作家チヨダ・コーキが暮らす『スロウハイツ』の住人たちは、平和な日々を送っていた。新たな入居者
| Chiro-address | 2008/01/03 9:35 AM |
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