本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ/小川高義訳
停電の夜に
停電の夜に
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 620
  • 発売日: 2003/02
  • 売上ランキング: 54920
  • おすすめ度 4.5


私はよくお風呂で本を読みます。短編だったら、ひと風呂で一作品読んだりします。
この本はここ1ヶ月ほど、お風呂の脱衣場に置いてあって、気が向いた時に
手にとって、一編一編大切に読んでいました。
ゆっくり読めて幸せだったなあ。そんな、短編集でした。

もともと翻訳は苦手で、事件とかがわらわらと起こるエンタメならまだ読めますが、
しっとりと味わうような文芸ものとなると、翻訳文の不自然さが気になるかも・・・、とか
思ってたのですが、この作品は全然いけました。美しい文章で読みやすい。
小川高義訳は私には相性がいいようです。
ジュンパ・ラヒリはインド系アメリカ人の女性。余談ですがむちゃくちゃ美人です。
その彼女が綴る物語では、アメリカにやってきたインド系の人々達が多く描かれます。
遠く故郷を離れてアメリカにいる彼らが故郷を思う。故郷は、内乱があったりして
荒れているようなのですが、その故郷を思い、遠くにいる大事な人達をいつも
心の片隅に置きつつ生きていってる彼らの思いが、ふと行間からたちのぼってきて切なくなる。
そんな物語達。

でも、主眼は近くにいる家族に置かれる。妻と夫の微妙な関係が主に描かれる。
表題作「停電の夜に」では、一週間、毎晩停電が来るようになり、心が離れた夫婦が
暗闇のろうそくの中、お互いの秘密を一つずつ話していく。子どもを死産してから
二人の心の距離は何となく遠くなっていってて、それが停電の夜に秘密を明かすことで
距離が近くなっていくように思えたのだが・・・。温かく、そして哀しい物語が心に染みた。
近くにいるからわかりあえるわけじゃない、小さな溝が大きくなるときもある。
そんな切なさに満ちた表題作だが、だから読後感が悪いというわけでもない。
時間は経ってしまって戻れない時もある、それでも生きていく、そんなしみじみとした
情感を感じたのだった。なんつうか、全然うまく言えてないけど。

遠くを近くに思ったり、近くを遠くに感じたり。地球規模の遠さにいても近いひともいる、
直ぐ傍にいても遠いひともいる。人と人との距離って、本当、難しい。そんなことも思った。

1ヶ月かけてじっくり読んだわりにはどの短編も記憶に残っていて、それが映像的な
記憶だったりする。風に舞い散る紙片とか、夫のサイズより少し小さな手編みの青いセーターとか、
ドレスを纏う女性とか、ハロウィンのでかいかぼちゃとか、古ぼけたマリア像とか。
そういう映像の断片が頭をよぎることがよくあって、あ、今の情景はどの小説のだったかな、
と思ったらだいたいはこの本だった。それがすごく不思議だった。
インドにもアメリカにも行ったことないのに、映画のように記憶にとどまっている。
どの物語も、劇的な展開を迎えるわけでもなく、淡々としたものなのに、その欠片は
確かに、私の中に残ったのだった。不思議だ。

インドでほとんど交際せずに結婚し、夫だけアメリカに渡って、ほとんど知らない夫のために、
アメリカは寒いだろうと青いセーターを編む妻が出てくる物語、「三度目の最後の大陸」が
とても好きだった。セーターは夫に届くが、脇のあたりがちょっときつかったりする。
そんな、お互いどうしていいかわからない初々しい夫婦が、100歳近くまで生きている
アパートの管理人のおばあさんを媒介に近づいていく、その姿がとても温かくて。
些細なきっかけで人は簡単に近づくことが出来る、そして離れることもできる。
そんな不安定なものだからこそ、人と人とのつながりって大事だなあと思う。

シュールな物語もあり、悲しい物語もあったのに、全体の印象はほのかに明るい、
そういう短編集でした。翻訳好きにも翻訳嫌いにも、オススメです。
「その名にちなんで」も読んでみようと思いました。
| comments(5) | trackbacks(4) | 12:02 | category: 海外・シリーズ別(クレストブックス) |
コメント
私もこの本読みましたが、
表題のように、ろうそくのぼんやりとした柔らかい灯りが似合う短編が多いですよね。
しっとりといい気分になった本でした。
| momo | 2007/04/12 4:03 PM |

初めまして・・・だと思います。いつも拝見させて頂いているのですが、コメントさせて頂くのは初めて・・・だったかと。

海外作品は翻訳が気になったり、かといって原文でスラスラ読むほどの語学力もなく・・・で敬遠しがちなのですが、これは素敵な物語集でした。
| ふくちゃん | 2007/04/12 10:51 PM |

わたしも翻訳物は文章の不自然さになかなか馴染めなくて敬遠しがちなのだけれど、この作品はしっとり馴染んで好きでした。
遠さと近さのことを改めて思わされました。
| ふらっと | 2007/04/13 7:20 AM |

momoさん
そう、私もろうそくの光をよくイメージしながら読んでましたー。しんみりするいい作品集ですね。

ふくちゃんさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
私も海外ものは翻訳が・・・でも小川さんのは大丈夫です。ステキでしたね、これ。

ふらっとさん
近くにいても遠かったり、なんかそういうのが切ない話が多かったですね。切ないけど温かいみたいな。
| ざれこ | 2007/04/14 12:41 PM |

ざれこさん、おはようございます。
SNSでのコミュご参加ありがとうございました。

本当に訳者がいいですよね。
今、少しずつ講談社英語文庫で原書読んでますが、かなり忠実に訳されててやはり巧いですわ。
まだ4編目ぐらいですが。

中島京子さん、読まれたのですね。
私も感想まだ書いてないけどかなり注目してます。

SNS本当に感謝しております。
それではこれからもよろしくお願いします。

| トラキチ | 2009/03/13 5:15 AM |

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