本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「凍りのくじら」辻村深月
凍りのくじら
凍りのくじら
  • 発売元: 講談社
  • スタジオ: 講談社
  • 価格: ¥ 1,040
  • 発売日: 2005/11
  • 売上ランキング: 79276
  • おすすめ度 4.5


辻村深月の作品を読んでいると涙腺が壊れる。
ミステリ色が濃かった「冷たい校舎の時は止まる」では泣かなかったが、
「ぼくのメジャースプーン」、そしてこの「凍りのくじら」では、
私はどうしようかってくらい号泣した。本に涙を落とすところだった。
なんでこんなに泣けてしまうんだろう。あとで客観的に考えれば、
けっこうベタな展開やったりもするんだけど。
でも何故か泣けてしょうがない何かがあるのだ。なんだろう、それは。
自分が泣く理由なんか考えても仕方がないんだけど・・・。
全体的に流れている痛々しさが原因だろうか。

私は、全く自慢ではないが、成績のいい子だった。
小学校でテストの点を言ったら「自慢してる?」って言われるので、点をひた隠しにしたり、
わざと間違った答えを書いたこともあった。子供心にも「それはやったらあかんやろ」と
思ったのですぐやめたけど、そのくらい困った時期があった。
中学時代には油断していたら学年1位になってしまい、その後も特に勉強もせず、
むしろ積極的に授業中遊んでいたが、中学卒業するまで「点数は言えない」立場には
変わりなかった。中学時代に微妙に感じていた疎外感はそこにあったような気が、
今となってはしている。勉強が多少できなくても、スポーツができて明るくてオシャレで
恋愛モードで騒いでいて友達がたくさんいる、平均的な女の子達が羨ましかった。
勉強ができるから誰かをさげすんでいた記憶はないのだが、
都合良く記憶を消してるだけかもしれない。
だって当時は勉強ができるってことしか自分のよりどころがなかったはずだから、
それにすがってたとしてもおかしくないのだ。
高校に入って、下から数えた方が早い成績を取るようになって、私は平均になった。
たった一つのよりどころを無くしてずたずたになるかと思いきや、私はそこからやっと、
のびのびやっていけるようになったような気がする。

なんでこんな嫌な感じのことを書いてるかと言うと、この小説の主人公の理帆子が、
自分より頭の悪い人を軽んじていて、自分と話が通じない人達ばかりで自分は孤独だと
そう思っているからだ。でも彼女は自分より頭が悪い、でも社交的でかわいらしくて単純な
友達とのつきあいをやめないし、クラスのいじめられっ子とも仲良くしている。
でも「誰も自分をわかってくれない」と当然のように思っている。
藤子不二雄先生がSFのことを「少し(Sukoshi)不思議(Fushigi)」と表現してるのを
マネして、誰かの特徴を「少しナントカ」で表現する癖がある理帆子は、自分のことは
「少し不在(Fuzai)」だと思っている。どこにいても、どこか不在。そんな存在だと。
でも彼女は、単純に生きていける彼女たちが羨ましいと思っている。その中に入りたい、
必要とされたいと。

その疎外感があまりに痛々しくて、同じ立場を過ごしたことを思い出して、
でも共感出来ない部分の方が強かった。こんな風には思ってなかった、私は。
「どうしてこの子はこんな風に思ってしまうんだ」と、目をつぶりたくなりながら読む。
理帆子の父、芦沢光は理帆子が小学校の時にいなくなってしまう。
理帆子はずっと1人で家族を支えていた。「少し不在」な彼女の孤独。

彼女は似たように現実を生きていない司法浪人生の若尾と昔つきあっていたが、
「少し・腐敗」してきている彼の本質に今は気づいている。
それでも若尾との連絡を絶たない彼女は、連絡を絶てないほどの孤独を抱えている。
若尾の痛さ、壊れ具合もつらかったが、一見まともそうに思える主人公が
実はどれだけもろく壊れやすいか、それを感じるのがつらかった。

そんな痛々しい彼女だが、別所あきらという高校生と出会って、話をしていくうちに、
少しずついい方に変わっていくように思えたが、若尾との関係が危うくなっていき・・・。

痛くて痛くてたまらない彼女の孤独が突き刺さるこの作品、後半は劇的な展開を迎えて
ぐいぐいひっぱられていきながら、私は本当に泣きまくってしまった。
母や郁也、そして別所あきらとの関わり、それから若尾との苦しい関わりを経て、
彼女は少しずつ、自らの寂しさを自覚していくのだ。
頭がいいから疎外されてる、そんな言い訳が通用しない本当の寂しさ、孤独を理解し、
そして、少しずつ救われていく。その過程に涙する。

ドラえもんというモチーフが非常にうまく使われていて、著者自身が相当のファンだと伺えるが、
藤子F不二雄先生の人生と父の人生をなぞらえ、失踪せざるを得なかった父の切なさが
私たちに伝わったりとか、「かわいそメダル」の比喩とか、本当にうまい。
そんなドラえもん好きな主人公を通じて、藤子先生のドラえもんに向けた想い、優しさが
こちらにも伝わってくるようだった。見事なオマージュだと思う。

ラストにどんでん返しが待ち構えていて、なるほど「少し・不思議」な
物語であったのか、と気づくと、痛々しい世界が一転して全体を温かい何かが
包むような、そんな読後感がやってきて、その変化には驚いた。
そして、ちょっと泣けた。
途中で「あれ?」って思うところは少しあったし、読み返したら
そのどんでん返しって・・・、って思うところもあるんだろうけど、
そんなの全然気にならなかった。
それが、この作品を少し・ステキにしてると思うから。(これじゃSSだな)

案外難しいんだよね、SFごっこ。少し・何とか。
最後に彼女が言いたかった少し何とか、は、なんだったんだろう?と、
ちょっと考えてしまった。

「ぼくのメジャースプーン」のふみちゃんも出てきて、
こんなすごい話を書きながら、メジャースプーンの構想もばっちり練ってたなんて
この女、恐ろしき才能よの・・・!なんて驚いてしまう。
とりあえず全作品制覇を目指して読んでいきます。

でも少し・不思議なのが(しつこい)、どうしてこの作家ノベルスでしか
本を出さないんだろう?どうしてもミステリって印象が強まってしまって、
もったいない気がするなあ。普通に単行本を出していたら、
直木賞候補くらいには軽くなれそうなうまさだと思うんだけど・・・。
まあいいんですけどね、どこから出してでも、書いてくれればそれで。
| comments(9) | trackbacks(12) | 00:21 | category: 作家別・た行(辻村深月) |
コメント
こんにちは。
たしかにメフィスト賞作家はノベルスが多いですね。
それに文庫化も遅いし。
| しんちゃん | 2007/03/22 6:20 PM |

ざれこさんこんばんは。辻村さんの作品には私も泣かされっぱなしです。新作もきますよ。『凍りのくじら』に感じる所があるなら必読です。今年の読者大賞にエントリーしたいと思ってます。
そうそうノベルズでの刊行はちょっと勿体ないなあとも思ってました。メフィスト賞は編集者の強い後押しで決まる賞だから、そこでの付き合いというか編集者と作家の結び付きが強くなったりするのかもしれませんね。
| たまねぎ | 2007/03/22 8:12 PM |

この作品は、ぼくも思わず涙ぐみそうになりました。決して満点ではないのですが、心に沁みるような作品でしたね。
「すこし」がとても巧い作品。ほかの彼女の作品も読みたいと思いつつ、なかなか二分冊には手が出せない忙しさよ、です(苦笑)
| すの | 2007/03/23 1:13 AM |

ざれこさん 今晩は。

“子供たちは夜と遊ぶ”“凍りのくじら”“ぼくのメジャースプーン”“スロウハイツの神様”全ての作品で泣かされてしまいました。
ボキャブラリーが少ないのでうまく説明出来ない自分が腹立だしいのですが…

この作者の身を切るような切なさの表現、伏線の回収の仕方には本当に素晴らしい才能を感じます。

このまま、コンスタントに作品を書き続けていって欲しいなぁ。
| kazumi | 2007/03/24 11:34 PM |

驚きました。すごくうまい...
彼女の作品は装丁がきれいなんだけど、そこから想像して若者向けな内容だと敬遠してました。

言葉もわかりやすく、けど中身はしっとり深い
まだ“凍りのくじら”と“僕のメジャースプーン”だけですが
これからも楽しめることが嬉しいです

| ちえ | 2009/03/18 6:24 PM |

はじめまして。

私も辻村さんの本大好きです。
凍りのくじらと僕のメジャースプーンをお読みになられたのなら
次は名前探しの放課後がおすすめです。
前の2作にとてもリンクしていて、私としてはとても嬉しい1冊でした。
辻村さんが仕込んだ嬉しい仕掛けに、ラストで気付かされるはずです。
| かぼちゃ | 2009/07/26 8:20 PM |

はじめまして

最近この本を読んで、検索したらたどりつきました

いまさらですがコメントしても大丈夫でしょうか^^;

辻村さんの作品はいくつか読みましたが、どれも最初は不自然さがあるんですよね。なんか若いだけあって書くの下手なのかなぁ?と思ってたら最後はびっくりさせられます。

たくさん小説を読まれてるようなので、これからも参考にさせてくださいね〜
| moto | 2011/03/31 5:51 PM |

はじめまして。
ホシの清峰という辻村深月ファンの一人でございます。

此処のところ辻村作品に目覚めて立て続けに乱読しております。子どもたちは夜と遊ぶから冷たい校舎の時は止まる、凍りのくじら、ロードムービー、スロウハイツの神様、名前探しの放課後、太陽の座る場所、ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。、ツナグと読み終えて現在はオーダーメイド殺人クラブを読んでおります。

何度も辻村さんに泣かされている中年オヤジであります^^

途中、スティーブ・ジョブズ自伝や佐藤泰志も挟みつつ読書を楽しんでおります♪

一番記憶に残っているのが「ツ ナグ」の日向キラリさんの待ち人の心得だった気も致します^^

もう帰りの電車で・・・不覚にも号泣でしたwww

| ホシの清峰 | 2012/01/18 9:05 PM |

はじめまして。
この『凍りのクジラ』を読んでから辻村さんの大ファンになりました。
少し違うけれど、私も、理帆子のように周りに壁を作っている性質だったのですごく共感できました。そしてすごく救われました。
辻村さんは何でこんなにも私たちのことが分かっているのでしょうか。
| とろちま | 2013/01/18 3:29 PM |

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