本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「夢を与える」綿矢りさ
夢を与える
夢を与える
  • 発売元: 河出書房新社
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2007/02/08
  • 売上ランキング: 745
  • おすすめ度 4.0


綿矢りさの待望の新刊。そういや金原ひとみが精力的に活動しているのに
綿矢さんはどうかな、大学忙しいのかな、私の憧れのW大学やし(関係ない)とか思ってたら、
新刊出たらすごい話題になった。
あー待ってる人たくさんいたんだなあ。当たり前か。

文壇のアイドル扱いですけど、確かに顔はかわいいし若いですけど、
最初の作品「インストール」から思ってましたが、作品は全然可愛くない。
私にとってはいい意味で、だけど。
前は文章からも棘がちくちく感じられましたけど、文章は素直になって、
読みやすくなったと思う。
とても丁寧に一文一文書いてる、という印象。

若いのに「諦めてる人」というイメージのあった作家ですが、
この作品でその印象は更に強くなりました。
何をどう諦めているのか具体的に説明できないけど、とにかく諦めている。
過去の2作品を読んだ時には、オトナになるのを諦めている印象があった。
死にたい、とかじゃなくて、大人なんて所詮そんなもん、と先の人生を諦めてるというか。
この作品ではなんていうか、絶対に手に入らないものがある、
手に入れたものもいつか離れていく、永遠なんてない、そんな諦めが
根底にあったような気が私にはした。若いのに。
32歳の私ですら、もっといろいろ楽観してます。
順風満帆にやっていってる風にしか見えない綿矢さんが、自分の現在の状況を、
いつか終わるものと捉えてるのかと思うと、それはとても虚しくもなるけど、
だからこそ、今いい作品を書いて欲しい。この作品みたいに。

幹子は、年下の男性でフランスとのハーフであるトーマを失いたくなくて、
別れ話をなかったことにして子どもを作り、結婚する。
女の子が産まれ夕子と名付けられ、かわいらしい夕子はチャイルドモデルになり、
その後チーズのCMに抜擢される。
そのCMは一人の少女の成長をとり続けていくというもので、
夕子の顔は徐々に世間に知れ渡っていく。

粗筋を読んでもなんかあまり興味を示せなくて、綿矢さんじゃなかったら
読まないなあ、って感じやったんやけど。
アイドルの成長物語なんて興味ないわ、みたいな。
でも、これは徐々に入り込んでいって、食い入るように読んだ。
とてもすこやかで、芸能人とは思えない純粋さとかわいらしさを持っている夕子が、
だんだん汚れていく様子に、こちらもずぶずぶとどこかにはまりこむような感じ。
男性との関わりも増えていくんだけどそういう汚れ方じゃなくて、なんていうか、
普通の女の子だったのに、特別な女の子になっていって、それを自分が自覚していく、
その感じがあからさまでもないけど言葉や雰囲気の端々に感じ取れてしまって。
ああ、汚れていくな、と。
清らかな少女の成長物語なんて、ちゃんちゃらおかしい。でも全然そうじゃなかった。

仕事は山のようにやってきて、夕子は何も考えられなくなる。
ただ毎日を商品として過ごす日々。自己紹介で「夢を与える女優になりたい」と
言わされる夕子は、夢を与えるってなんだろうと思いながらも、
ただ殺人的なスケジュールをこなし続ける。そして少しずつ、何かが壊れ始める。

夕子は母のようにはなりたくないと思っている。父とうまくいかなかった母、
娘のことを生きがいにして、娘のためだけに生きる母。
母に反発しつつ、でも友達みたいに依存してしまう。母しか味方がいない夕子。
私も母子家庭で母しかいないから、母と娘のその、依存してしまうけど、
純粋に好きになれない嫌な感覚がすごく伝わってきてしまって、痛々しかった。

夕子はそして恋をする。母みたいになりたくないと自制しつつも、
やっぱりのめりこんでしまう。冷静になろうとしてなれない、
周りが全然見えない、その感じ。やはり痛々しい。

夕子が友達の多摩の家にいきなり行くシーンがあった。
中学の、唯一心を許せた男友達。彼に会えたらあの頃に戻れるかもしれない。
その思いが切なかった。かわいい赤ん坊だったあの頃、美しかった中学時代、
全て知ってる読者の私には、その思いはとても哀しく映った。

諦めだけがそこにあった。なんていうんだろう、美しいときは一瞬だから、
だからこそその時間は輝いている、そんなよくある慰めは通用しない、
ただ通り過ぎていく何かがあって、そして絶対的な諦めがある。
なのに、なんでだろう、私は続きが読みたくなって、仕方がなかった。
彼女のこれからが知りたい。誰かの夢でしかなかった彼女は、
きっとこれから自分を生きていくのだろうから。その人生が知りたい。
どれだけ人気がなくなっても、むしろここからの彼女の演技が、私は見たい。

続編なんて書く気の全くない、小説として完全に終わっているこの物語で、
私は未来を渇望した。ただ通り過ぎていく絶望のその先にある、更なる絶望を、
ただ過ごしていく彼女を見たいと思ったのだった。
きっと彼女はたくましく生きていくんじゃないか。何故か、そんな気がする。
どれだけ汚れてても、美しくなくても。

絶対的な諦めの中に残る図太さというか強靭さというか、
どうしようもない世の中でも生きていこうという強さというか・・・、
このはかない物語に、私は少しそういうことを思った。それが不思議だった。

こんな作品を出してくれるのなら、2年に1冊でもいいな。
私も夕子を見守るように、ちょっと年上の視点で、綿矢さんを見守ってみよう。
えらそうだけど、そう思った。
| comments(4) | trackbacks(9) | 18:43 | category: 作家別・ら、わ行(綿矢りさ) |
コメント
こんにちは。
読後に同じことを感じました!
このあと立ち上がっていく夕子の姿が見えました。
でも幻覚かも(笑)。
| しんちゃん | 2007/03/03 5:20 PM |

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| JB女性ブログランキング | 2007/03/05 2:04 PM |

綿矢さんすごいの書いたなぁ!と圧倒されっぱなしでした。
もっとこう軽やかなものを想像していただけに
この暗澹さはどうしても拭いきれずずっと澱のように
沈んだままです。
早くも次作が待ち遠しいです!
| リサ | 2007/03/09 4:16 PM |

この解説って言うか感想読んで、ぜひ読みたいと思いました。
綿屋さんの「インストール」「蹴りたい背中」は読んだのですが実を言うと、あまり意味が自分ではわからなかったです。
ただ、「文藝賞は若い子を出せば売れると思っている」という感想が他のサイトに載っていたので、それを鵜呑みにしていました。馬鹿です。あほです。首を絞めます。
ぜひまた読み返したいです。
| 薊 | 2007/10/07 7:00 PM |

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