本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< June 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「カンバセイション・ピース」保坂和志 | main | 「いつか、僕らの途中で」柴崎友香・田雜芳一 >>
# 「失われた町」三崎亜記
失われた町
失われた町
  • 発売元: 集英社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2006/11
  • 売上ランキング: 4377
  • おすすめ度 3.0


30年に一度消滅する「町」。町の人々は突然に失われ、
町の記録は消滅管理局に全て消される。人々は町の消滅を悲しむことも許されず、
悲しんだものは町に「汚染」される。ある日、突然消えた月ヶ瀬町。
そこに住んでいて消滅を免れた者、回収者として町に関わった者、
町にいた大事な人を失った者、管理局の人々・・・彼らがそれぞれに月ヶ瀬の消滅と対峙し、
そして、それぞれが出会ったりすれ違ったりしていく、群像劇。

うーんと。三崎さん本領発揮ってとこなんでしょうか。前2作についても話題性は高いけど、
なんか惹かれるものと「うーん?」と納得いかない部分とが普通に共存して
どう評価していいかわからない作品群でしたが、これもまさにそんな感じ。
もともと、繊細な部分とシュールな部分を普通に同時に持っている変な作家、というイメージですが、
「バスジャック」では各短編がそれぞれの持ち味をうまく出してて
ぶれがなく、私はけっこう好きだったのですが、
この作品はどっちも融合しちゃって何がなんだかになった印象があります。
変なSF的設定に普遍的でベタな人間ドラマの融合?まだ方向性が定まってないような。
そして、どちらの要素をとっても、突っ込むところがあって、惜しいなあという。
でもここまで書いてて変だけど、嫌いじゃないんですよね。魅力はある。
だからどう書いていいのか、わからない。今ちょっと困ってます。
SF的な面だけで書くと、町の消滅。昔から30年に一度町が消滅し、
「町」自体が心、意志を持って消滅へと向かって行動を起こしてる。
それは誰にも止められないし、そのメカニズムはまだ解明されていない。それはええねん。
・・・・じゃあそもそも町って呼び方やめて全部村や市にすればどうよ、とか、
町が意志をもって自ら消滅するのはなんでなん、とか、科学的なのか非科学的なのか?とか、
そりゃ突っ込むところも山ほどあるんだけどさ、もうあえて、町が消えるなら消えるでいいから、
誰からも突っ込まれないようにそのシステムを徹底的に構築したら良かったと思うねん、私は。

なんで別体とか本体とか、西域とかまで出しちゃうかなあ?
特に西域のくだりは、乱暴に言うとまるまる全部省いても、話は成り立つと思います。
いや、桂子さんと脇坂さんのくだりも面白く読んだし、あの短編だけだといいんだけど、
全体から見ると、あれがまるまるなくても話は通じるような。
ちょっと、分散しすぎたんじゃないかなあ、そんな気がするのです。
実際、最後まで読み終わって、話の本筋じゃないから思い出さないエピソードもあったくらいで、
あとで「ああ、そういやあの話も」とか思ったり。
単体で読むと全部読ませる話だし、じんわりきたりもするので、読んでる時は楽しめるんだけど・・・
全体を俯瞰するとなんか変やな、と思ったりして、だから評価が難しいのです。

それから、出てくる登場人物たちに最初ちょっとひきました。茜です。
初対面の年上の男性にタメ口使ったらあかんやろ、って。
いやー小さいこと気にするなあ、私、って感じですけど、なんかけっこうそのわだかまりが
尾をひいてしまい、人間浅く描かれてるんじゃないのー?っていう先入観を持って
読み進めてしまって、人間ドラマもちょっとのめりこめなかった感があるのです。
読んで行くと、最初浅い感じに登場した人々にもみんな、いろんな過去や思惑があって
深みが増してくるし、茜ですらそうだったから良かったのですが、最初にそれでひいちゃうと、
なんか感情移入がしづらいというか・・・。だから、細かいけど、そういうリアリティは大事だと思う。

最後ののぞみちゃんにもちょっと大人げないものを感じたし(つうか、高校生だし仕方ないのか)、
由佳と潤のエピソードにも由佳の側から共感するのは難しかったです。
あれ?結局女性描写が微妙なのか?桂子さんにはそんなに違和感なかった気もするけど・・・。

男性陣ですが、脇坂さんと勇治くんのキャラクターが秀逸、特に勇治には非常に好感を持ちました。
でも最後まで読んで最初に戻ってエピローグを見ると、勇治は・・・?と思っちゃったり。
由佳、ちょっとひどくないっすか。ま、個人的感想ですが。
ちなみに、全員が読み終わると最初にもどると思います。

あと、三人称なのに「桂子さん」「中西さん」と書いてみたり、呼び捨てにしてみたり、
呼び方が気になりました。小さいことかもしれないけど・・・そう書かれると、
なんか、どこかで第三者的大きな存在が見ているような、落ち着きの無さがあって、
それが狙ってたらすごいことだけど、そうでもなさそうだったし・・・。

各短編が魅力的であり、そしてベタだけど最後に人々が集まってきて、各個人だけの話だった
それぞれの物語が、なんだか一つの大きな力になったかのような、そんなラストは少し感動したし、
大きく包み込まれるものを感じました。例えば和宏の古楽器の音色が、皆を包んでくれるように。

なので、最終的には悪くないのですが・・・、
最後のプロローグは、潤のくだりだけでよかった気がします。
統監が出てきてからのくだりは・・・。あれは正直読みたくなかったな。やりきれなさが残りました。

そして、何度も出て来た、明日失われるかもしれないからこそ、
今を大事に生きる。それには普通に、共感しました。
町がなくなることなんて、普通にあるのです。地震がきたらおしまいです。
私はあられもない格好でこれを読みながら、今地震がきたら嫌だなと素で思ってました。
こんな格好で死ぬのは嫌だ、ってのもあるけど、私は一瞬一瞬を大事にせずに、
ただ殺してきたので、まだまだ失われる心積もりも出来ていないし、
そんな資格すらありません。ええ、しぶとく生きたいですね。まだまだ。

しかし、「回収員制度」って、すごく公務員的発想ですよね。なんか笑っちゃいました。
裁判員と一緒やん。ありがちー。

これだけ評価が微妙なのに出たら読み、全作品コンプリート中の私です。
次も出たらまた読むんだろうな・・・。まだ私の中でも位置づけの決まらない、不思議な作家。
普通、三冊読んだらわかるんだけどな、見切りをつけるか、全部読むくらいのめり込むか。
この人も、本体と別体がいたらいいんじゃないかなー?「バスジャック」を読んだときに、
筒井康隆と村上春樹の夢の競演、的イメージを持ったけど、筒井班と村上班、
二人に分かれて別々に小説書いたら・・・?みたいな。
それじゃただのパクリか。どっちつかずがまた魅力なのかなー。
| comments(10) | trackbacks(9) | 00:01 | category: 作家別・ま行(三崎亜記) |
コメント
こんばんは★
私もコレを読むのは大変時間と労力を要しました…
私も西域のくだりはかなり読み飛ばした感があって、
(図書館の返却期限が迫っていて焦っていたのです…)
なんか読者にそうさせてしまうというのは、
非常にもったいないなぁ、と思ってしまいました。
しかしながら大切な何かを失った人たちが、
今という瞬間を大切に生きると言う姿勢には、
ジ〜ンときてしまいました。
あとことばのひとつひとつがとても美しく、
心が洗われるようでした。
| Rutile | 2007/01/29 12:23 AM |

これが「三崎流」ということなんでしょうか。
まだいまひとつよくわかりません。
この作品も、どういうスタンスで臨んだらいいのか、
もう少し読めば落ち着けるのか?まだもう少しなのか?
と思いながら読んでいて、とうとう落ち着けなかった気がします。
その不安定なブレ感が狙いなのでしょうかねぇ。
| ふらっと | 2007/01/29 7:01 AM |

あの「○○さん」おかしいですよねぇ?私ああいうのほんとだめなんです。自分が読み手として立ってた位置が間違ってた?!ってなると、途端に集中できなくなるので。まぁ、集中できていたところでこの本は難しかった気がするのですが…。でも直木賞、最後まで残ったんですよね。選評、早く読ませろー。(あ、お言葉使いが)。
| chiekoa | 2007/01/29 12:32 PM |

ざれこさんこんばんは。私も見極めが出来ずにいます。突っ込み所は多いけど気になるんですよね。町の消滅に関する設定はSFとしては詰めの甘さはあると思います。
ここからは私の推察なのですが…市町村大合併によりここ数年で地方自治体の総数は1000近く減っていってるのですが、その中で市は微増しているのに対し町が激減しているんです。村も減ってますが町はその比じゃない位。
お役所出身の三崎さんの着想の原点としては、そこら辺もあるんじゃないかなって気がするんです。そこにノスタルジーな意味合いでの町並みの消失も兼ね合わせたのかなって。
うーん考えすぎでしょうか。
| たまねぎ | 2007/01/29 11:27 PM |

ざれこさん、どうもです。
私もナンダカンダ言いながらも楽しめたのですが、皆さん同じような部分に消化不良を起こしているように感じます。
「○○さん」は最後まで意味不明でした。
これが初読みで、続けて「となり町戦争」を読むつもりですが、
そこで私の中の評価が決まるのかもしれません。
| きつね | 2007/02/11 9:11 PM |

感想らしい感想のない、あらすじだけのレビューとなってしまいましたが個人的にはよかったです。あれはジャパニメーションです。それもかなりわかりやすい一冊。
つっこみはじめると、色々ありますが、人智を超えた「町」の存在に拍手。それも敢えて理解を超えて、「抗う」ことのみを描いたことに徹したことも良しだと思います。手段は別ですが・・。
| すの | 2007/02/25 7:10 PM |

>Rutileさん
西域は確かに難しい設定で私も戸惑いましたけど、
最終的には皆大切に生きていて、ステキな作品でした。
文章もそういえば、美しかったですね。あまり気づいてなかったけど・・

>ふらっとさん
まだこの作家さんは私もつかみきれてません。次はどんなので来るでしょうか?

>chiekoaさん
○○さん、なんでだったんでしょうね。なんか意図はあると思うんだけど・・・。
茜とか呼び捨てだったですもんね。舐められてたのか?(笑)

>たまねぎさん
ああ、市町村統合。なるほど。私の周辺でもいくつか市に統合されて、町名すら消えていて、
「あの町で住んでいた人は寂しいだろうな」と思ったこともあります。
そこから得た発想かもしれませんね。となるとすごいところに着地したもんです・・・。作家はすごいな。

>きつねさん
「となり町戦争」もう読まれましたか?私は3冊読んでも三崎さんの評価は定まりません・・・。苦笑。

>すのさん
ジャパニメーション?どこがどんな風に・・・・?日本アニメ・・・?
| ざれこ | 2007/03/03 1:37 AM |

こんにちは〜。
私はこの作家さん初めてでしたけど、当たりかなと思いました。
確かに「○○さん」は違和感ありましたね。
作家が物語にはまりすぎて、キャラに思い入れが強いせいだったらウケますね(笑)。
| chiro | 2007/04/24 3:52 PM |

chiroさん
全部「○○さん」なら、それはそれで味のある書きぶりですのにねえ。なんか中途半端でしたね。そうか、桂子さんは作家が好きだから桂子さんなのか、とか思うと面白いですね(笑)年上だからとか・・・。
| ざれこ | 2007/04/29 12:49 PM |

こんにちは。
自分もすごく納得いかない部分がいくつもあって、
いろんな感想探して、ここに辿り着きました。

>なんで別体とか本体とか、西域とかまで出しちゃうかなあ?
こういう世界設定の凝った造りは好きです。個人的には。
でも、どれも物語の事象全体に紐づいてないせいで、
物語からすごく浮いちゃってる感じがするんですよね。
勇次の病ものぞみを助けるためだけに作られた設定、
西域も脇坂さんと圭子さんの関係性を深めるためだけの設定、
という感じで、世界そのものに浸透していないっていうか。

だからこその日常と非日常の境界線にあるようなこの人のお話に
魅力があるんでしょうけど、でも、非日常に踏み越えすぎた感じですかね。

>初対面の年上の男性にタメ口使ったらあかんやろ、って
確かに小さいことかもしれないんですけど、私もこれはすごく感じました。
それだけ人見知りしないって設定なのかもしれないけど、
あまりにもそれが気になって気になって……ww
「そういうリアリティは大事」おっしゃる通りかと。

と不満を持ちながらもこの人の作品は基本的に面白いし、
よく出来ていると思うんですよね。史学科出身の歴史好きだけあって、
社会的な世界設定はしっかりしてると思うし。
(この物語の西域と「この国」の関係や居留地の成り立ちとかの
 背景は割と好きです。「となり町」もよかったし)
少しずつ、三崎さん、追いかけていくかと思います。
長文失礼しました。TBさせていただきました。
| むさ | 2011/07/14 10:46 AM |

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/637089
トラックバック
『失われた町』三崎亜記
シェアブログ1152に投稿 町の消滅によって、大きな喪失と対峙する人々の物語。 まるで彼ら彼女らの抱えた心の穴を覗いているようでした。 穴は底が見えなくて、ただひたすらにぽっかりと空虚で、 その様をこの緻密な文章から切
| 道草読書のススメ | 2007/01/29 12:19 AM |
失われた町*三崎亜記
☆☆☆・・ 失われた町三崎 亜記 (2006/11)集英社 この商品の詳細を見る 30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った
| +++ こんな一冊 +++ | 2007/01/29 7:02 AM |
失われた町 [三崎亜紀]
失われた町三崎 亜記 集英社 2006-11 30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運
| + ChiekoaLibrary + | 2007/01/29 12:30 PM |
失われた町  三崎亜記
三崎亜記さんです。私は三崎さんこそ一発屋で終わっちゃうんじゃないかと思っていた男です。デビュー作『となり町戦争』がかなりの反響で、売れすぎたんじゃないかって感じていたのですよ。 儀礼的な戦争というのは目新しいわけではないのだけれど、そこに役所的なカラ
| 今更なんですがの本の話 | 2007/01/29 10:23 PM |
失われた町 三崎亜記
30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」
| きつねの本読み | 2007/02/11 9:02 PM |
三崎亜記【失われた町】
30年周期で起こる「町」の消滅を未然に防ごうと、調査・研究をつづける「管理局」。しかし局員たちの努力も虚しく、新たな町の消滅が起こった。 消滅のプロセスは解明されつつある。まず住民の大半が何の予兆もなく瞬時に消
| ぱんどら日記 | 2007/02/14 11:31 AM |
「失われた町」三崎亜記
「失われた町」三崎亜記(2006)☆☆☆☆★ ※[913]、国内、現代、小説、SF、近未来、町、消失 ※あらすじ、ネタバレあり。未読者は注意願います。 30年に一度、「町」は意志を持ち、消失する。消失とは、その町の住民が忽然と失われること。「消失した町」に関わ
| 図書館で本を借りよう!〜小説・物語〜 | 2007/02/25 10:52 AM |
本「失われた町」
失われた町 三崎 亜記  集英社 2006年 11月 ? ? 町の消滅は、何百年御前から起こっていたと言われている。原因がわからず、本当のことが何ら知らされぬ中で、町の消滅に関わることや話題にすることを忌み嫌う「穢れ」の意識が、国民の中に広く浸透
| <花>の本と映画の感想 | 2007/03/15 11:21 AM |
三崎亜記「失われた町」
(集英社文庫)クチコミを見る  「となり町戦争」が名作だったので、もう少し三崎氏の本を読んでみようと思って、この作品。  現実の中にある見事に形作られたファンタジーに期待 ...
| 日々のんぽり | 2011/07/14 10:33 AM |
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links