本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「太陽の塔」森見登美彦
太陽の塔
太陽の塔
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 420
  • 発売日: 2006/05
  • 売上ランキング: 10470
  • おすすめ度 3.0


華のない大学生活、唯一出来た彼女であった水尾さんにあっさり振られてしまった私は、
それから「水尾さん研究」にいそしむ。しかしこれは崇高なる研究であって、
未練だとかそういうものではない。けして私は恋だのにかまけているわけではない。
世間は間違っており、クリスマスは憎き行事で、そして私は正しいのだ。
しかし水尾さんの周辺に遠藤という男が現れ、私に卑劣なことを試みてくる。
憎き遠藤を懲らしめるためあれやこれやと愚策を講じる私だが、うまくいかない。
そんな私と、私と同じくクリスマスを憎み、憎しみのあまり毎年熱を出す飾磨や、
高薮、井戸といった仲間との男汁溢れる生活を活写した、日本ファンタジーノベル大賞受賞作品。
この本は女子は褒めるべきではない、と漠然とだが私は思う。
何がジョニーやねん、あほか、とつっこまなあかんと思う。
思うのだが、いや、私には大変面白かった。私は女子失格だ。はい、それが何か。

私は華の20代前半、もてない時期を6年ぐらい過ごした。
クリスマスイブはもちろん私の大敵であったが、ついクリスマス前に百貨店の
アクセサリー売場に出向き、横で無垢な男が女性店員にまんまと騙されてるのを横目に、
ネックレスを買っては「プレゼントですか?」と聞かれたりしていた。
「はい、自分へのご褒美ですが、何か?」と睨み上げればよかったがそれもできず、
「い、いえ・・・・」と俯く私であった。自虐としか言いようがない。

そうやって日々合コンにいそしみ、自虐ネタを仕込むのに忙しかった頃、
私はある研究をしていた。いや、この物語の主人公の「水尾さん研究」みたいに、
特定の男研究ではない。「勝ち組女」研究だ。
勝ち組女がどんな特性を持っているか、覚えてないがあちこちの記事でネタにしているし、
ここでは無関係ゆえ割愛する。私は日々そんなことを考え、自分が勝ち組では「ない」ことを
日々確認しては、むしろ「負けていること」を誇りに思ってしまうくらいには成長してしまった。
今でもその根性は染みついていて、谷○章介の妻に勝手に怒りを燃やし、
「あのタイプはあんな卑怯なことやこんな卑劣なことをして彼をものにしたに違いない」と
(書くのもはばかられる)下品な妄想を繰り広げ、更に勝手に怒っている有様である。
そして思うのだ、「正しいのは私だ、あんな卑怯な女にはならない!」
これぞ負け犬の遠吠えである。あほである。
むこうは知ったこっちゃないのである。幸せなんだからそれでいいのである。

こんな私にも合コン友達が過去にたくさんいた。私たちは合コンする機会を虎視眈々と狙い、
嫌がる男友達をねじ伏せては男を調達させ、いそいそと出かけていっては
ハムスターオタクだのモーニング娘。の追っかけ(30代前半、全員オヤジメガネ)だの
無趣味の三人衆(ずっと無言)だの、とんでもない人達と不毛な2時間を過ごして、
「私たちの選択肢はもうあれしかないのか?」と、自分のことを棚に上げて
クリスマスでもお正月でも関係なく鍋とかお茶とかしながら、熱く語り合っていたのだ。

この本の彼らとどう違うのか。私は彼らの女版であった。それは間違いない。

そんな私が読んで面白くないはずがないのだ。この「太陽の塔」。
これから失恋する人、失恋しまくってる人、クリスマスやバレンタインが憎くて仕方がない人、
でも彼女とか出来てもクリスマスプレゼントがわからなくて招き猫とか買っちゃう人、
そういう人は全員読めばいいと思う。そして「同志よ!」と涙ぐむも良し、
「こいつらよりはましや」と思って自らを慰めるのも良し、同じような妄想を繰り広げる
自らを猛省してあいたたた、とダメージを食らうもよい。
私は爆笑しながらダメージを食らい、「笑いながら怒る人」(竹中直人)状態だった。

しかし、面白い。
文学的匂いに溢れる文体なのになんとも言えない地味ネタがこれでもかと集められて、
電車で読んだが常ににやにや笑いが止まらない。
ゴキブリキューブ(おぞましすぎる・・・)には大笑いした。
普通気づくやろそれー。ってつっこみまくったけど。

明らかにストーカー行為をしてるにも関わらず文学的高尚な言い訳を繰り返す主人公、
そしてそれと似たような思考回路を持つ友達、彼らの一見高慢に思える言い訳が
なんかかわいらしいんだよねえ。彼は自分を正当化してるけど、自分が見えてないとか
そういうわけじゃないんだよなあ。一種の開き直り?それがまた面白かったり。

友達達の個性豊かなキャラクター、そして水尾さんの不思議なキャラクターも魅力いっぱい。
誕生日に「人間臨終図巻」(これって山田風太郎の本なんや。今知った)を
くれたりするのよ、水尾さん。
そんな女子大生渋すぎる・・・。いい感じ・・・。

途中からファンタジー要素も少し入って(ファンタジーノベル大賞だしね)
雰囲気が出てきたのはいいけど、それまで一本筋が通ってたのが散文的になった、
そんな気もした。それを少し惜しいと思ったが、でもいろんな変な友達の
人となりがわかってきてそれもまた笑いを誘い、悪くないと思った。
うん、全くもって悪くない。

爆笑のうちに読み終わり、切なさと温かさが不思議と満ちてきて、そして妙に元気になる。
そして、無駄に終わった自分の大学生活を思い起こして、あいたた、と反省しながらも、
無駄な青春の何が悪い、と開き直ったりする、そんな本だ。
あの時の大量の無駄が今の私を作ったのだ。きっとそうだ。
ろくな私じゃないけれど。
| comments(8) | trackbacks(19) | 16:10 | category: 作家別・ま行(森見登美彦) |
コメント
私も1番笑ったのがゴキブリキューブです!
個人的には私も大学に通うとき、叡山電車を利用していたので懐かしい感じもしました。
「あぁ、あそこね!」って。
| フジタマ | 2007/02/07 9:56 AM |

うわっ!私も女子失格です!
なんかもう彼らが愛らしくなっちゃたんですけど・・。
>あの時の大量の無駄が今の私を作ったのだ。
ざれこさんのそのセリフ、じんとしました。
| june | 2007/02/16 11:51 PM |

こんにちは 私も女子失格のくちです 面白いですね 文体とかも好きだし かなり気に入りました 自分の感想でゴキブリキューブを書き忘れたことに気づきました
たしかに あ〜気づかんのか〜って思いました 
| きりり | 2007/03/03 2:45 AM |

涙しながらアイタタタタタ。ジョニーは馬鹿ですよね。
私は先に夜は短し〜を読んでしまい、そこでジョニーっていうのを見て、みんなこの本を好きっていうけどジョニーの意味は分かってるのかなあと疑問に思っていました。
そしたらこの本ですから…とことん馬鹿だなあと思いつつ、夜は短し〜はいい感じに薄味といいますか、濃〜い原酒を飲みやすく甘いカクテルした作品で、そら人気も出るわなあと再確認しました。
| たまねぎ | 2007/03/31 9:48 PM |

フジタマさん
ゴキブリキューブ笑えましたよねー。おぞましい・・・。(笑)
フジタマさんは大学は京都ですか。森見さんを読み始めてから、京都をよく知ってる人が羨ましいです。

juneさん
そうなんですよね、彼ら愛らしいですよね・・・。
私も無駄なことばかりして生きて来てますけど、愛らしかったかと言えば微妙(笑)

きりりさん
文体も格調高く下品でステキでしたよねー。面白かったです。

たまねぎさん
あ、私も思いました、「夜は短し」に出てくる「ジョニー」、みんなわかってんのかな、って(笑)。
この「太陽の塔」は濃かったですけど、夜は短し・・は味わいを残しつつ万人向けに薄めたって感じでしたよね、確かに。これはちょっと薦めるのあれですけどあれならみんなに薦められますもんねー。
| ざれこ | 2007/04/06 4:18 PM |

ざれこさんの体験談を読んでいて、「あ〜なるほど」と思いました。
そういえば、私も大学時代は無駄なことに時間を費やしたし、合コンはしなかったけど、まぁ似たような経験もあるし。
それを思い出せば、この作品にも多少は共感できるかなと思いました。
でも、やっぱり共感という完璧なラインには行けなかったです…。
先にこっちを読んでから「夜は短し〜」を読めば良かったかも…と思います(笑)。
| chiro | 2007/07/29 4:06 PM |

chiroさん
いやあむしろ共感できないほうが幸せなんじゃないですか・・・?(笑)「私の男版だ!」と思ってしまった私は悲しかったですよ。とほほ。
| ざれこ | 2007/08/01 8:51 PM |

めっちゃくちゃおもしろかったです!!


大学生のうちに読んでおいたほうがよい、という感じの本でしょうか。


京大に行きたかった!!ってかんじです
| かにお | 2009/11/02 9:45 AM |

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