本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< June 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 「シュミじゃないんだ」三浦しをん | main | 「エバーグリーン」豊島ミホ >>
# 「広重殺人事件」高橋克彦
広重殺人事件
広重殺人事件
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 650
  • 発売日: 1992/07
  • 売上ランキング: 73729
  • おすすめ度 4.0


浮世絵三部作、「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」に続く完結編である。
この「広重・・」が泣けるというので、三部作を手に入れて順番に読んでいったのだが、
それぞれ別の事件を扱いつつも、登場人物も経緯もつながっているので、
やはり順番通り読むのがいいと思う。

浮世絵師、広重が天童市で残した肉筆の謎を探っていた津田だが、クリスマスイブに
妻の冴子とその東北へ旅行に行く。病を患っていた冴子は崖から飛び降りてしまい、
津田は失意の中、同じく浮世絵研究に携わる塔馬と、美術雑誌記者の杉原とともに、
広重の謎を追う。天童市にたびたび訪れていたはずの広重だが、東北地方の風景画が
ほとんど残されていないのは何故か?広重と天童のつながりに深い意味はあるのか?
発見された広重の絵日記を基に調査は進められるのだが、事件は意外な方向に・・・。
なるほど泣けるかあ、確かにな。私は泣くほどは至らなかったが、うっ、とくるとこはあった。
文庫版の裏表紙に既に書いてることだからばらすけど、主人公と思っていた人物が、
この作品では死んでしまうのだ。本当は文庫版あらすじに書くようなことではないと思うが、
あらすじを読んで「はあ?あの人主役やんな」と思った私が俄然興味を持ったのも事実なのだが。
このミステリはミステリの体裁を取りつつ、主人公津田と、その妻冴子の物語でもある。
そこらへんに読者は泣けるのだろう。なるほどだ。

今まで、血肉の通った人間があまり描けていないような気がしていたこのシリーズだけど、
今回はそうは思わなかった。3冊読んだから、彼らにもなじみ深かったのもあるだろうが。
でもだからこそ、人を殺しすぎなんじゃないか、あっさり死なせすぎなんじゃないか、
そういうやりきれなさは残る。生きていてもやり直せるだろうに。いくらでも。

津田の研究をついだ塔馬は、広重の絵日記、更には天童で新たに発見された広重の肉筆を
巡る謎を突き止めることになる。
この作品が面白いのは、現実の事件と歴史上の事件がうまく絡み合い、なおかつ歴史解釈が
斬新なのにも関わらずみっちりと考証された、説得力あるものであるというところだろう。
歴史好きにはたまらないし、浮世絵及び美術に関心がある人にも興味深いシリーズである。

広重は私は作品をちらっと知ってる程度、他の知識は何もなかったが、現代に広重が
よみがえったかのように、まざまざとその姿が浮かんできた。そういう人だったのか。
火消し職にいたなんてそもそも意外。しかも城の警備役で有事に備え、鉄砲隊だったそうな。
穏やかな絵からは想像もつかない姿が浮かんできて意外だったし、それがとても面白かった。

読んでからいろいろ調べたけど、書かれてることの大筋は事実だ。
歴史的事実と現実の事件とを本当にうまく絡めていて、
なんか、広重は本当にこんな人だったのか、と書かれたとおりに信用したくなってくる。
かなり前に発表された作品だが(まだ女性は肩パットをしている)、研究的な価値は
なかったんだろうか?当時、天童広重にここまで迫った人っていたのかなあ?
私が知らないだけかなあ。いつもこういう歴史が絡んだフィクションを読んでると、
どこまで事実でどこまで嘘か、わからなくなるんだよね。うまいこと書いてくれるから。
興味はわくけど事実はつかめない、受験勉強(してないけど)には害も益もある読書だけど、
ま、そもそも歴史なんて教科書通りにはいかないのが面白いんだから、いいんだよね。

この作品で発見された広重肉筆については見ることができないが、
またうまいこと描写してくれるので、偽物でいいから誰か描いてくれ、と思ってしまう。
赤が印象的に使われたこの作品、一度見てみたいですねえ。

あ、このシリーズで妙に浮世絵に詳しくなって、肉筆なんて言葉を普通に使えるように
なってしまった。浮世絵は普通は版画なんだけども、浮世絵師が版画ではなく
実際に描いた作品を肉筆というそうです。
本来一枚しかないから価値は高い筈なんだけど、専門家でも見分けられない
偽物がたくさん出回った時期があったらしくて、(これを書かれた当時では)
版画の浮世絵より価値は低く見積もられてるらしい。
もったいないよね。そんなので価値が下がっちゃうなんてね。芸術を正しく
評価できるようになってほしい、とこの作品の関係者同様憤る私でした。
すっかり、似非浮世絵通です。たちが悪い。

調査していく内に、天童藩ゆかりの人物、山県大弐という人の存在が浮かび上がってくる。
いろいろ歴史小説を読んでるつもりでいたけど、初めて知る人物。
尊皇論者で、明治維新のかなり前に、激烈な幕府批判を行い、処刑された人物だ。
彼については高橋氏も思い入れがあったのか、かなりのページ数を割いている。
維新のずっと前に抹殺された歴史のうねり。その波は小さくくすぶって、そして幕末へ向かっていく。
ちょっとしたことが歴史を変えたり、停滞させたりするんだなあ。感慨深い。
こういう新たな発見もあったり、面白く読みました。

次は「ゴッホ殺人事件」でも読むかな?謎は世界を駆けめぐるのだ。

| comments(0) | trackbacks(0) | 00:13 | category: 作家別・た行(高橋克彦) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/614095
トラックバック
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links