本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「夜をゆく飛行機」角田光代
夜をゆく飛行機
夜をゆく飛行機
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2006/07
  • 売上ランキング: 209297
  • おすすめ度 4.0


角田光代の家族小説と言えば「空中庭園」のイメージが強くて、
私はこの小説にかなりのダメージを食らったので、以降この作家の作品は
おそるおそる手に取る傾向がある。ましてや家族小説なんて、鬼門である。
でも手に取ってしまうのは私がマゾなのか、ダメージを受けるほどにすごい小説だと
自分がわかっているからだろう。確かに「空中庭園」は傑作だったのだ。
自分の内部のドロドロを見てるみたいでダメージを食らった、そんな小説滅多に読めない。

今回読んだ「夜をゆく飛行機」は、ドロドロから目を背けたいと思いつつも
期待しないでもない、という複雑な心境で読み進めたのだが、
そのドロドロとした部分は表面化せず、穏やかに話は進んでいった。
うん、それでも、よかった。だからこそよかったというべきか。
昔の作品にあるとげとげしい鋭い感じが徐々に丸くなってきているのを感じる。
そして深みがより際立つというか。じっくりと味わい深い読書だった。
若草物語みたいに、四姉妹の物語だ。長女の有子(ありこ)は結婚していて、
次女の寿子(ことこ)は家でごろごろしていて、三女の素子(もとこ)は
大学生で合コン三昧、そして四女の里々子(りりこ)は物干し台で
飛行機を眺める、普通の高校生。
家は普通の酒屋だが、セレブ好きな母親に私立女子高に全員入れられて、
四女りりこだけカミングアウトして普通の高校に通っている。そんな家。
りりこ(変換が面倒なのでひらがなで通す)の下には男の子が生まれるはずだったが、
結局産まれなかったその子を、りりこ以外の皆が忘れている。
りりこはその子に「ぴょん吉」と名をつけて、その弟に常に語りかけている。
そんな家で、次女の寿子が作家になった。しかし、その作品は家族のことを
赤裸々に書いたものだった。その小説が世に出てから、家族は変わっていく・・。

女4人だからもっとどろどろしてるかと思っていたら、女のやな部分も
しっかり描きつつ、ほのぼのと物語は進んでいく。
典型的女の子って感じの素子は物干し台のことを「ルーフバルコニー」って言って、
それがりりこの感性に合わないとか、りりこがカミングアウトすると突然
善人ぶって電話してくるクラスの友達のいやな感じとか、
なるほどわかるわかる、と思わせる女の部分は多々出てきて、そういうリアルさは
やっぱり作品を色濃く彩ってはいるが、それでもほのぼの。
りりこが傍観者だからだろうか。恋を知らない、これから恋をしようとしている、
そして恋をする、そんな少女と女の過渡期にいる彼女が語り手だからだろうか。

みはるという女性が登場する。りりこの父の妹で、生涯独身。
一度ダメな男に騙されそうになって家族全員で反対して、という経緯があるらしく、
家族全員で後悔している節があって、遠巻きにその独身人生を見ているといった、
そういう女性。母(りりこの祖母)は、多分自分が反対しなければ、
みはるの人生がもしかしたらもっといいものだったんでは、という後悔を
もって生きている。みはるさん自身も、きっと母にわだかまりがある。とてもある。
そんな二人の人生が、傍観しているりりこ視点からでも、私ら読者に訴えかけられて、
切なくなったりもした。家族というのは、家族に干渉しあえるようにできている。
「好きに生きたらいいよ」とあっさり突き放せてしまう家族というのは、そうはいない。
心配で、その人を思っての行動でも、家族の思いが枷になることもあるだろう。
でも、枷がなくなって完全に自由になるのが幸せか?私はそうも思えなかった。
枷がはまったままだったみはるさんも、きっと幸せだったんだ、
それをりりこは、ちゃんと感じている。

ことこが家族を小説にしたことで、家族からは何かがどんどん失われていく、と
りりこは感じるようになる。例えば有子に胡乱な動きがあったり、とそういったこと。
でも多分、ことこが書かなくても家族というのは変わっていく、いや、時は
移ろっていくといった方がいいか。そういう無常さもりりこは知っていく。
でも、りりこは例えば新しい猫が我が家にやってきたとしても、
その猫がその後いなくなった時のことを考える家族の話に反論するのだ。
でも、今は猫はそこにいるじゃないか、増えてるじゃないか。と。
大切なものが増える=失うものも増える、という図式に、まだりりこは至ってないけれど、
でも失うからとおびえてしまう大人たちも、それじゃ寂しいよね。
りりこのその、何も知らない強さが、弱い大人たちを励ましていく、その構図もステキだった。

りりこは恋をする。どうやらこの四姉妹は、男を見る目がないらしい。
どうだかなあ、って男にばかり家族全員でひっかかっているが、それもまた愛嬌か。
恋をして、大事な人の不在を知って、母の思い父の思い、そして四姉妹の思いを知り、
最後にはずっと語りかけていた「ぴょん吉」の存在を忘れて、現実に生き始める、
少し大人になった、変わってしまったりりこがまたいとおしかった。
もう少女じゃない、弱さも知ってしまったけれど。
でも家族と過ごしたあの日々はずっと残る。寿子の作品に。そして皆の心に。

そこに皆がいる、その一瞬一瞬を大切にしたい。そんな風に思える作品。
深くすがすがしい、ステキな本だ。

そういや、母がもうすぐ入院し、その間祖母は施設に行く。
もうすぐ、1ヶ月くらいだけど、家族は別々になる。多分、お正月はまた合流できるが、
今までになかったことだ。私もいつまでもここで独身を貫くわけにもいかないし、
この家も少しずつ変容していってるんだろう。寂しいような、仕方のないような。
| comments(2) | trackbacks(7) | 01:07 | category: 作家別・か行(角田光代) |
コメント
失っていくもの、変わっていくこと。
家族って、時にはわずらわしく、うとましさが気になることがあっても、ほんとは愛しい。
そう感じさせてくれる作品でした。
家族それぞれの思いや、つながりが伝わってきて良かったです。
| 藍色 | 2006/12/03 5:14 PM |

藍色さん
そうですね。今ちょうど母が入院していて、普段はいなくなっちまえ、と思っているのに、いないならいないで、ついぶつぶつと犬に話しかけたりしてしまう私なのでした(笑)この本もそんな、うざったいけど家族っていいなって素直に思えるいい作品でしたね。
| ざれこ | 2006/12/07 12:21 AM |

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