本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「長崎くんの指」東直子
長崎くんの指
長崎くんの指
  • 発売元: マガジンハウス
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2006/07/20
  • 売上ランキング: 89047
  • おすすめ度 5.0


短歌の人なんですよね、東直子さんって。短歌の人って言い方、変か。歌人か。

文章がね、体にしみこんでいく感じでした。
多少気の合う作家さんでも、ひっかかりを感じる文章とかあるけど、
この人の文は、なんか、イオンウォーター飲んでるみたいだ。
ミネラルウォーターとかでも、体になかなかしみこんでいかないのってあるけど、
浸透圧を体に近いものにした、イオン系飲料をごくごく飲んでるみたいに、
この本の文章はすうっとしみこんでいきました。とても心地よい読書です。
コキリコ・ピクニックランドという、さびれた遊園地を中心に繰り広げられる、
ゆるーいつながりの連作短編集。
「長崎くんの指」ってタイトルだし、最後の方に「長崎くんの今」も
収録されているので、長崎くん中心のお話かと思いきやそんなことでもない。
時系列も多分ばらばら。ただ、そこにはコキリコ・ピクニックランドがある。

「長崎くんの指」は、わけあって家に帰れない女性がさびれた遊園地の
従業員になって、そこにいた長崎くんの綺麗な指に一目ぼれしてしまう、そんな物語。
ただそれだけなんだけど、そこはかとなく官能的な空気が漂ってて、
そしてさっきも書いたけどすうっと浸透する文章。
この短編集はこのあとどんな風に広がっていくのか、とても気になる序章だ。

次の短編では蝶がたくさんいるバタフライガーデンで寝袋に寝そべる女性がいて、
その次の短編「アマレット」では、透明な車が1つだけある
美しい観覧車を操縦する老人と、またふらっとやってきた女性の物語があって。
そして家出していきなり我が家にやってきた「道ばたさん」と一緒に
ピクニックランドにやってくる母と子の話、
それからピクニックランドに出てくる幽霊話を取材に来た女性が出会った
人形達とのお話。印象的な物語が淡々と続いていく。
なんか書いていることはけっこう奇抜で、いきなり太極拳を踊りだす道ばたさんとか、
幽霊譚とかだしびっくりはするんだけど、例の文章でまたすんなりと、
その世界は私の中に入ってくる。夢のような現実のような、
どこかで観たような夢の中で観たような。不思議な世界。

最初の短編で、もうコキリコ・ピクニックランドはいつか閉園してしまう、
ってことは私にはわかっていたので、それ以降の短編はどれもこれも、
コキリコ・ピクニックランドの思い出、といった感じに読めてしまって、
結局どれもこれもいなくなってなくなってしまうのだなあ、なんて、
はかなさを感じてしまっていた。

最後、なくなった遊園地に忍びこむ長崎くんの目に留まる、
バタフライガーデンの蝶々の死骸。
寝袋でたくさんの蝶々を、従業員の岩山さんと彼に惚れてしまった女性が、
ずっと観ていたのはついさっきだったのに、もうそこにはそれだけ、
時間が経ってしまった。あの観覧車ももう止まっているし、
洞窟の人形ももういないだろう。

はかないもの、はかなくてすぐに消えてしまう、でも美しい時間や場所を、
ぎゅっと凝縮したような、そんなステキな小説だった。
どの短編もとてもよかったから、彼らの思い出を胸に朽ち果てていく、
コキリコ・ピクニックランドがとてもいとおしい。

いくつかの謎とかが放置されるし、その後どうなったんだろう、とか、
あの人の正体は誰だろう、って思うことも多々あったけど、
連作短編でありがちな、最後に全て明らかになる、なんてことは全然なかった。
わからないことは余白のまま、最後に残ったのは廃墟になった遊園地、それだけ。
気にはなるけど、その余白がなんだか短歌っぽいと思った、とか書くと、
こじつけみたいだろうか。そこにある世界をほんのすこし切り取って、
全体をぼんやり見せて、それだけ。あとは読者がいくらでも想像を広げられる。
そんな風に物語を切り取れる、それってすごく粋なことで、ステキだった。

「アマレット」って短編が実のところ一番好きだ。
透明な観覧車。怖いけど美しいんだろう。乗ってみたいな。
こんなさびれた、でもステキな遊園地、私も行ってみたい。
あ、でも、地元にはさびれた遊園地は山ほどあるんだけど、
どうしてこんな風情が出ないかなあ。詩的には寂れてないからなあ。
物質的に、寂れてる。なんか、字がはげてたりとか・・・。微妙。

あとがきがわりの「夕暮れのひなたの国」もなんか、いいです。
「夕暮れのひなた」って言葉だけで、なんかやられました。
こんな風に感じて夕暮れに立ってみたい。
| comments(4) | trackbacks(4) | 02:39 | category: 作家別・は行(東直子) |
コメント
わ〜ざれこさんの感想素敵だー!!
うっとりしちゃいました。
こんな感想書けるざれこさんに惚れ惚れです。

東さんの小説、是非また読みたいですよね。
短歌のほうも機会があったら手に取ってみようかな、と思ってみたりしてます。
| リサ | 2006/10/12 5:38 PM |

「しみこみ」系の短歌歌人だそうです。あらすじなんて書いてないで、きちんと感想を書くべきだったと、変な後悔をしています。
妙なゆるさ、ぬるさですよね。
でも、ぼくは追いかけないなぁ・・たぶん。
| すの | 2006/11/09 1:42 PM |

こんばんは。
ざれこさんのレビューを読んで、この本を手に取りました。
すごく心に浸み込む文章でしたね。
少し不思議な世界ですが面白かったです。
| しんちゃん | 2007/07/08 5:51 PM |

リサさん(今更・・)
短歌も良かったですよ。ちょっと官能的で。私が読んだのは「回転ドアは順番に」穂村さんとの合作でした。感想かけてませんが。

すのさん(今更・・)
しみこみ系ですか。なるほど、確かにしみこむ文章でしたねー。

しんちゃん
そですか、気に入っていただけたのかな。良かった。新刊も出たようなので、読もうと思ってます。
| ざれこ | 2007/07/11 2:00 AM |

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| ひなたでゆるり | 2006/10/12 5:35 PM |
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「長崎くんの指」東直子(2006)☆☆☆★★ ※[913]、国内、現代、小説、連作、短編、遊園地 ※少しネタバレあり。未読者は注意願います。 よく遊びに行く幾人かの本読み人のブログで見かけ、ちょっと気になった作品。読み終わってみれば、それほど、気になる作品
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長崎くんの指東 直子 (2006/07/20)マガジンハウス この商品の詳細を見る すごく不思議な作品ばかりでした。だけどリアルであったりもする。ほんと不思議。 それでいて文章がするすると浸みこんでいくし、後味の良いモノも悪い
| しんちゃんの買い物帳 | 2007/07/08 5:47 PM |
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