本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「蒼穹の昴」浅田次郎
蒼穹の昴(1) (講談社文庫)蒼穹の昴(2) (講談社文庫)蒼穹の昴(3) (講談社文庫)蒼穹の昴(4) (講談社文庫)





一週間どっぷりはまって、読み終わってあまりの感動にちょっと喪失状態、
もう感想とか書くのやめよう、この作品に私ごときが感想を書くのは
「不敬である、控えよ」って感じやし、うまく書けそうにないしな、と、
読んだあともしばらく呆然としていた。私にとってそのくらいの作品でした。

正直浅田次郎をなめていた。ヤクザものとか人情喜劇とかちょっといい話、的な
ものを小器用に書くオヤジ作家だと見切っていたところがある。
すいませんでした。これを読まずに浅田次郎を語るべからずでしたね。

19世紀末の中国。西太后が政権を掌握しており、日本は維新を終えたばかりのそんな時代。
田舎で糞拾いをして生活している貧しい少年李春雲、愛称春児(チュンル)は、
村の占い師白太太から、「おまえには天下の富が集まる昴の星がついている」と予言される。
同じく「おまえは皇帝を助ける存在となる」と予言された豪族の次男坊梁文秀は
春児の兄の幼なじみで、長男を差し置いて科挙の試験に合格し、本試験を受けるために
都に上ることになり、春児もお付きでついていく。そこで春児と文秀は、宦官に出会い、
本試験を受け、そしてそれぞれの、別々の道を進んでいくこととなる。

最初は、やっぱりなめてた。
「全て占いババアの言ったとおりになって、「運命だったんだ!」って話?」とか思って、
それがひっかかってたんだけど、全然そうじゃない、むしろ天命だの宿命だのなんか糞食らえだ、
自分の人生は全て自分で切り開いていくんだよというのを力強く示すすごい小説であることに
気づいたのは2巻になってからだった。それに気づいた時のショックはかなり大きかった。

これが日本の明治維新と同時代の話ということにひたすら驚く。
科挙制度も、宦官も、ものすごく昔の時代の気がするのに、ついこの間まで中国では
こんなことをしていたんだ。弁髪も。私たちも丁髷結って切腹してたんだから、
全く人の国のこと言えないんだけど。たった100年ちょっと前に、
貧乏のあまりに自分の一物を切り落として立身をはかる男性達がいたなんて、想像を絶する。
男性は二極分化し、金持ちは科挙試験を受けて役員を目指し、貧乏人は学問をする
金すらないから一生底辺をはいずるか、一物を切って宦官としてお勤めするか、
それだけしかなかった。そんな時代が、ちょっと前にあったのだ。
その現実が1巻からもろに私に突きつけられた。あまりに貧乏だから宦官になりたい、と
言った春児を、文秀は知り合いの家に連れて行く。その知り合いは、男の大事なものを
切り落とす仕事をして稼いでいて、そこでモノを切られて3日間水も飲めずに苦しむ
子どもの姿を目の当たりにする2人。
この中国の底辺を渦巻くあまりにも深い絶望を目の当たりにし、私まで吐きそうだった。
切らなければ希望すら見えやしない。普通にやっていったら底辺のまま、
夢さえ見ることも許されない、そんなところから春児は這い上がっていく。

そして長男をさしおいて科挙試験に合格してしまった破天荒な風来坊の次男の文秀と、
結局は袂を分かつことになる。第1巻でみられるこの文秀と春児のやりとりは、
現実の厳しさを見せながらも牧歌的で、ほほえましい。特に文秀がとても魅力的な人物。
頭はいいが、全く型にはまっていないその感じがとても好きだった。

後半、彼らの出番はどんどん減っていき、新聞記者等の客観的視点で描かれることが多くなるが、
この前半で描かれた彼らの人となりや、彼らが何を望んでいるのか、読者はそんなことを
既に知ってるから、どれだけ描写が彼らから離れて大きくなろうと、
やっぱり彼らに思いをはせて読むことができた。構成もとてもうまい。

そして、這い上がる二人は、西太后のもとへ。私は西太后の登場が待ち遠しかった。
私の西太后のイメージは、女の手足を切って壺に放り込んでご飯を食べさせて生かせておいて、
たまに話しかけに行って楽しむっていう拷問をやった人。だった。
こんな拷問酷すぎるよね。どこで読んだかわからないし事実かどうかもわからないけど。
いっそ殺してくれっていうようなこんな拷問を思いつく非道極まりない女帝、のイメージ。

さて登場した、さてどう出るか。彼女はいきなり側近にわめく。子どもみたいに。
・ ・・・ただのおばちゃんやん。「私がどうしてここまでしないといけないの?
私、もう疲れたよ」乾隆帝の霊に愚痴をこぼす彼女はただの弱々しいおばちゃん、に見える。
でも彼女は知っているのだ。自らが、大清帝国を滅ぼす使命を担っているということ。
新しい時代を作るために、今の時代を壊さないといけないということ。
・・・こんなスケールのでかいおばちゃんには私は会ったことがない。すごい、すごすぎる。
西太后の人間としての魅力にいきなり参ってしまった。とても大きな人間だけど、
駄目なところもたくさんある、普通の人間なのだ。歴史上の人物だしとても偉大なのに、
とても近くにいるようで親近感がわく。泣いたり笑ったり怒ったり、血肉が通っている。

出てくる人達はほぼ8割方、実在の人物。
主役2名は架空の人物。文秀にはどうやらモデルらしき人物がいるらしいが。
西太后とか李鴻章とか袁世凱とか、歴史の教科書でみたことあるような人々、
それから光緒帝とか歴代皇帝とか、まあつまりそういう「歴史上の」人達が、
それぞれ人間として苦悩し、喜び、怒り、哀しみ、ただの人として活写され、
架空である春児や文秀もまるでその中で実際にいたと言われても不思議じゃないくらい
皆がそこでは息をしていて、必死で生きていて、そして彼らが歴史を作っていく。

偉大なる伝説の皇帝、乾隆帝の頃に、清の歴史は方向付けられたかのように見えた。
実際、この偉大な皇帝の足跡はあちこちに残り、彼の思想も残り続け、
そしてそれを持つ者は天命を得ることができるいう龍玉(ロンパオ)の存在も伝説になっている。
そして最後まで読むと、この物語が、西太后や春児の物語というより、
中国そのものの物語であって、過去から未来へ確実に受け継がれていく何かがある。
次の中国を担う少年が出てくる最後の場面で、私はそれに気づいてしまったのだった。
なんてスケールがでかいんだ。

歴史の流れ、宿命とか運命とかいう、どうしようもない大きな流れの中で、
小さな人間達はそれでもうごめいていて、そして彼らが作る流れもある。
必死で抗って人々がつかんでいくその人だけの歴史、でもその小さな流れが、
大きな流れを変える力にもなりうるのだと、人間達は天命に負けないのだと。
・・・ああなんかどんどん話がでかくなってきて興奮してしまったが、ちょっと落ち着こう。

ああもう、だから結局、運命なんて糞食らえ、なんだよ。
生まれも育ちも宿命も星も関係ない、人はその人の力で生きていけるのだ。
そんな当たり前のことが、なんでこんなに力をくれるんだろう。
人生必読の書だ。

私は所詮底辺の人間だから、底辺からのし上がる春児を見守り、
列強からきた新聞記者達の気持ちになって外から紫禁城を眺めているような読み方だったけれど、
もう一つどーんと流れているテーマ、歴史を担う者は人に施しているという気持ちではいけない、
万民から与えられて自分たちがいるのだということ、そんなテーマは今の政治家達に
読み取って欲しいなあ。こんな風に気づいてくれたらいいのに、と思うことがいっぱいありました。

と、えらそうに書いて終わりにしておく。とにかく必読ですよ必読。
私が今更言うことでもないんでしょうけど。読んでる人は10年前にとっくに
読んでるんでしょうけど。「はっ(鼻で笑う音)何を今更こやつは」、って感じでしょうけど。
とにかく、今まですいませんでした。・・・・って何がだ。
なんか、これを読んでなかった自分がちょっと申し訳なくて、謝りたくなったのでした。

9月25日から、続編に当たる「中原の虹」全4巻が、毎月1巻ずつ刊行されます。
読みたい、今すぐ全部読みたい!とまだ全部出ていないのに思ってるわけですが、
図書館でどうやって順序よく予約しようかとか、そういやまだ友達4人から誕生日プレゼントを
もらってないから(夏でしたが)、1冊ずつ買ってもらおうか、とか、いろいろ考え中。
普通に買えよ、ってな。
| comments(9) | trackbacks(7) | 18:05 | category: 作家別・あ行(浅田次郎) |
コメント
こんにちはっ。はじめましてーっ。私も本大好きなので、最近、愛読させて頂いてます〜っ。

「蒼穹の昴」はすんごい名作ですよね。浅田次郎さんが「この本を書くために作家になった。」って言ってました。いやーもう一度読みたくなりました。

ブログとは別に、レビューを書いてるのでもしよければご参考までに〜っ。

http://dora.boo.jp/book/index.html

ではではっ!
| Dora | 2006/10/03 8:24 PM |

こんばんは〜。
ざれこさんの感動がひしひしと伝わってきますね。
私も4年前くらいに浅田次郎にはまりまして、そのときにこの作品を読みましたよ。
今でも春児が連れて行かれた宦官になる少年たちがアレを切られる小屋の様子をさまざまと思い起こすことができます。
底辺に生きていた人々の狂気と野望と絶望が渦巻いていたように思いました。

とは言いつつも、浅田次郎のヤクザモノや人情話も大好きで、『プリズンホテル』『王妃の館』『歩兵の本領』なども、『蒼穹の昴』のようにスケールの大きい作品ではないですが大好きな小説ですね。
良かったら読んでみてください!
| tomekiti | 2006/10/03 9:52 PM |

ども。SNS「本を〜」に登録させていただいてます。
改めてよろしくお願いします。

「蒼穹の昴」、熱いレビューに読みたくなりました。
浅田次郎はそれほど読んでいるでもないですが、
史実ベースの群像劇といったストーリー、
激しくハマってしまいそうです。

>読んでる人は10年前にとっくに
読んでるんでしょうけど。

いや、良い物語はいつでもフレッシュでしょう。
森羅万象すべてを網羅している人などいないわけだし。

とにかく「読みたい」と思わされ、コメントです。
ありがとうございます。
| シノブ | 2006/10/04 4:17 PM |

Doraさん
はじめまして。浅田さんそういうこと言われてたんですよね。すごいなあ。でもこれ書いたら作家として本望ですよねー。
「中原の虹」も楽しみです。

tomekitiさん
私は浅田さんのヤクザ系のをほとんど読んでないのですが、「椿山課長の7日間」がなんかギャグセンスとかが合わなかったので、それだけで見切っちゃったのです(苦笑)もったいないですよね。もっといろいろ読んでみます。でもこの作品を超えるのがあるのかどうかはもう疑問ですが・・・。相当すごいですもんね、これ。

シノブさん
あ、読みたくなられましたか?それは嬉しいです。是非。しかし、私の感想今読み返したらテンション高いだけで意味わからんじゃないですか。(苦笑)
すいませんな感じですけど、テンションが伝わったのなら私も本望です・・・。
| ざれこ | 2006/10/05 1:49 AM |

ざれこさん、こんにちは。
「蒼穹の昴」のリキ入った感想を読んで、俄然、読んでみたくなりました。
正直言って浅田さんは食わず嫌いだったのですが、良い機会なので手を出してみようと思います。
でも四冊読みきるのにはそれなりの時間がかかりそうですね〜。
| きつね | 2006/10/06 10:40 PM |

はじめまして。わたしが「蒼穹の昴」を最初に読んだのはもう4年ほど前ですが、つい最近再読しました。実は「蒼穹の昴」を最初に読んだとき、いったい作者はどんな知的な人なんだろうと、あれこれ想像していました。それなのに・・そのご尊顔を最初に拝見したときのわたしの驚きを、いったい何と表現したらわかってもらえるのでしょう。軽くショックを受けました。いや、これ以上は作者に失礼にあたるので申しません。とにかく、作者の作品の中で「蒼穹の昴」だけがずばぬけて出来がいいので、真の作者は誰か他にいるのではないかとマジで疑いました。

これこそわたしが待ち続けていた中国物でした。スケールが大きくかつ緻密な小説。吉川英治や司馬遼太郎は日本史物は面白いものの、中国史物は大ざっぱにしか感じられず(スケールが大きいと表現する人も多いが)、わたしはどうしてもなじめませんでした。わたしを救ってくれた浅田次郎先生、本当にどうもありがとうございました。「中原の虹」も楽しみに拝見させていただきます。
| アキレス | 2006/10/23 8:38 PM |

あけましておめでとうございます。

ざれこさんが激しくお薦めしてるのを読んで、この作品を2006年最後の作品にして締めくくりました。

凄く良かったです!私も浅田次郎を誤解してました!!
お薦めくださり有り難うございました。

ただいまは「壬生義士伝」を読書中です♪
| もりちえ | 2007/01/04 2:03 PM |

いやー、ざれこさんなしには出会わなかった一冊(四冊)でした。ありがとうございました。あまりに今気持ちがいっぱいすぎて、とても『中原の虹』が入りそうもないくらいのものです…!
| chiekoa | 2007/03/20 12:18 PM |

『蒼穹の昴』四部作をこよなく愛する者です。

「不敬である、控えよ」…ってわかります!!

言葉では言い尽くせない作品ですよね。


| ギンタ | 2012/06/19 7:43 PM |

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