本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「暁の密使」北森鴻
暁の密使
暁の密使
  • 発売元: 小学館
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2005/12


日本史学専攻だったくせに、能海寛という名前は知らなかった。
入試も日本史を選択していたから、すごくマニアックな人物とか覚えてたけど、
この人のことは知らなかった。
この男、明治の初めにチベットに行こうとした仏僧の男、能海寛の物語、が、この本。

なんでこの人を知ったかと言うと、同じ作家の長編、骨董の世界で生きる女が
主役の長編ミステリ「狐闇」に、この能海寛のエピソードが出てきたからだった。
「狐闇」で紹介されている能海寛の姿はとても謎に満ちてて魅力的で、
「狐闇」を読んでしまうとどうもむずむずして、これを読まねばいられなくなる仕掛け。
意図してるかどうかはともかく、いい宣伝よな。

ちなみに「狐闇」は、前作「狐罠」、そして蓮丈那智のシリーズも
一通り読破してから読んだ方が楽しめるから、
なんだったらもういきなり、これを読んでも大丈夫です。
逆に「狐闇」を読んでしまうと、もう既にこの本のネタは少し割れてしまうから、
ある意味、一からは楽しめない。
でも、別にネタが割れてたからといって、この本の魅力を損なうことはない、
ってことが、この作家の力量を示してると思う。
謎やネタも仕込んであるけど、結果だけでなく過程で充分楽しめる力作だ。
明治になって、日清戦争が終わった頃。当時、廃仏毀釈で仏教は危機的状況にあった。
東本願寺系統の僧の能海寛は、仏教の復興を目指し、西蔵(チベット)に行き
仏教の最高権力者ダライ・ラマと謁見し、経典を手に入れたいと希望していた。
ある日、あっさりとその希望が許可され、能海は結婚したばかりの
愛する妻を置いて中国へと旅だった。
能海は純粋にチベットを目指していたが、能海があずかり知らぬところで、
チベットにまつわる日本の対ロシア政策が密かに進行しており、
能海もその波にいつしか飲み込まれていくのだった。

能海が出会う中国人案内人の揚用も、彼のチベット行きに関わることで、人生を狂わせる。
そして謎の山の民、義烏や明蘭も絡み、日本の外務省の思惑や、
阿片戦争後、中国を蝕んでいるイギリス人たちの思惑も交差していく。

能海はまっすぐにチベットを目指しているが、日本で持たされた荷を
イギリス人達に狙われるようになり、もしや自分が密使なのではないか?
自分はチベットに何を運んでいるのか?と疑うようになる。
当時チベットは、シベリア鉄道敷設のための要地であり、ロシア南下政策には
欠かせない土地だった。でも、ロシアの勢力拡大を阻む勢力たちも
こぞってその土地を手に入れようと躍起になっており、日本も例外ではなかった。
そして、一人の男、能海寛は、そんな頃にチベットに向かっていたのだった。
果たして能海は密使なのか?能海の旅はどうなるのか?

難しそうだが、さくさくと読めて、エンターテイメント性は充分だ。
旅で出会うさまざまなトラブル、それを能海というより、中国人の
揚用や義烏達が察知し処理していき、能海はそれを知らずに歩いている、
そういう感じではあるけれど、手に汗握って読めるし、興味は尽きない。
能海の、まっすぐすぎる気性がとても魅力的で、彼が密使であろうがなかろうが
手を貸したくなる中国人たちの気持ちがこちらにもわかる。

能海のまっすぐすぎる気性がまた、その悲劇の哀しさを助長する。
能海が巻き込まれた運命は、著者が主張していることにすぎない、と思う。
能海はチベットでの旅をひたすら日記に記して祖国に送っているらしく、
彼の旅の軌跡は実際わかってるのだろうが、彼をとりまく陰謀は、著者の主張だろう。
そうはわかっていても、やりきれなさは消えない。
どうしてこの人が、こんなまっすぐな人が、よりによってそんなことに、
巻き込まれなければならないのだろう。
歴史の渦に巻き込まれてなすすべもなく人生を狂わせて行く人たちが、
今までどれだけいただろう。そう思うと、とても哀しくて、悔しい。

まあエンタメ性に富みすぎてて、難しい歴史ミステリがどうも、
冒険活劇になってるのは否めないのだが。好みの問題だろうけど。
一介の中国人にしか見えなかった人が、ある日突然不死身みたいに強くなったり、とか、
少々突っ込みたくなったりすることはあった。
この作家はいつも歴史的、考古学的テーマを描くけど、つい殺人をやってみたり、
冒険をやってみたり、と、読者サービスしすぎて、たまに安っぽく思えちゃうのが、
玉に瑕ではある。ワタシ的にはね。もっと格調高くても良かろうし。
でも、だからこそ、こんな難しそうな歴史モノでも、手にとって読んでもらえる、
そして興味をそそられる、それでいいのかもしれないね。

冒険活劇なんて書いたけど、普通に旅行記として読み応えありました。
凍傷の足が温まると激痛がくる、とか、やったことないとわからないような、
そんな記述にこちらまで痛くなったりした。
よく考えたら、あの中国大陸をあんなに歩いてチベットまで行こうとしたなんて、
しかも明治時代に、それも信仰心だけで、
・・・・すごいことじゃないですか。すごい人だよ。能海寛さんは。
今まで誰にも忘れられていたようだけど、こんな人が日本にいたことを、
忘れないでいようと思う、私でした。

そういえば、だいぶ昔に観てストーリーを忘れたけど、
ブラッド・ピット主演映画、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」って
この同時代のことを描いた映画だったっけな。違うかな。
えーっと(調べ中)、あ、全然違うや。
でも、これを読んでると、その映画をもう一回見てみたくなりました。
チベットの映像が、とても印象的な映画だったな。
| comments(0) | trackbacks(0) | 02:14 | category: 作家別・か行(北森鴻) |
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