本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん
まほろ駅前多田便利軒
まほろ駅前多田便利軒
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2006/03
  • 売上ランキング: 675
  • おすすめ度 4.0


東京と神奈川の間にあるまほろ市のまほろ駅前で、便利屋稼業をしてる多田。
いつもどおり年末の仕事を終えたら、預かっていたチワワがいなくなり、
それを抱いて座っていた男に出会った。その名は行天。
彼は多田の高校時代の同級生だった。行くあてがない行天は、多田の便利屋に転がり込む。
哀しい過去を持ち、一人で生きていこうとしていたはずの二人が出会ってしまい、
そこで起こるささやかな事件、ささやかな波乱を描く連作短編集。
うーん、どうやらさまざまな色眼鏡が今回の読書を邪魔したような気がする。
例えば「直木賞受賞」とかいう色眼鏡。
普通に読めば三浦さんの作品ということで普通に楽しめたのに、
「直木賞受賞作品」となると、少し違う目線でどうしても読んでしまった。
客観的に読んでも絶対面白いんだけど、でもさ、・・・・受賞前に読んだほうが
楽しめたと思うんだよなあ。この微妙な心理。どう説明したもんやら。
三浦さんと直木賞については「月魚」感想に熱く語ったけど、
三浦さんにはまだ早いと思ってたけど、読み終えてみたら
これで直木賞もありかな。って思うようにはなりました。

もう一つの色眼鏡。先に同じ三浦さんの「月魚」を読んでしまったから、
同系統の話だとつい思ってしまった。だいぶあれなのよ、「月魚」は、
BLぎりぎり路線なんだよなあ。古書店主の男二人の話なんだけど、
やばい描写はないにしても、もうねえ、心は結ばれてるわけ、最初から。
三浦さんのBL好きは知ってるし、この本にもどうやらそれらしき
挿絵が入ってるしさ、ついそういう期待(不安?)も持って読んでしまったわけです。

ま、かなり微妙なところなんだけど、でも違った。
単純に、愛だの恋だのとは違いましたね。多田と行天の関係は。
なんか、ものすごく複雑。

多田のキャラがすごく複雑なんだよね。屈折しまくってて。
なんか、コロンビア人の娼婦と嘘をつく女の子に「大事な犬はやれん」とか
すごく意固地になっちゃうとことか、ちょっと嫌な感じやなあ、とか思ってしまったけど、
(嘘つきは嫌いだって言うのはわかるけど、娼婦ってのに必要以上にひっかかりすぎてる気が)
まあそれは行天によってあっさりほぐされたから、いいんだけどさ。

元妻と子に対しての後悔が、彼の中に暗く根を下ろしている。
元妻に対して考えてるあるシーンでぞっとした。同じ罪を元妻も背負っているという、
暗い喜び。でもそう思う多田自身の苦しみもぞわぞわと伝わってくる。
ずっと飄々とした展開だったので、いきなり現れたその悪意とその哀しさには本当にぞっとした。
人間とは得体が知れないものだ。

で、多田は行天についても、実に複雑な罪の意識を持っていて、だからいきなり
乗り込んできた行天の面倒を見ているのか、それだけではないのか、
すごく複雑な心理が、淡々と暮らす二人の間には交錯している、ような気がする。
行天の存在に多田は少しずつ救われているのだけれど、それでもこの二人は、
まだ始まったばかりではないか、そんな気がした。
多田は過去のしがらみから、ほんの少し、楽になれただけじゃないか。
行天の過去にももっといろいろありそうだし、これはシリーズ化か、せめて続編とか、
あるんじゃないのかな。なんて気がしたり。

いろんな関係の親子が出てくる。血のつながりのある親子、ない親子、
行天にも複雑な経緯で子どもがいて、そして親との確執も抱えている。
便利屋の二人が遭遇した別の親子の問題で、自分たちの事情も身に染みて、
そして、全く問題解決のベクトルが違う二人が、対立したり寄り添ったり。
多田がとても追いつめられているのがわかるがために、行天の自由さが救いだった。
やっぱりこの二人はセットでないとな。愛だの恋だのという安っぽい次元ではなく、
もっと深くていい関係に二人がなっていくのが、すごく良かったというか、
いい意味で予想を裏切ったというか。
行天の天下一品の飄々っぷりがなんだかとっても好きだったな。
誰に対しても一切色眼鏡なくつきあえる彼。誰の痛みも何気に知ってる彼。
彼もいっぱいいろいろ抱えてるんだけどね。

基本的には、街の便利屋が依頼を受けて事件に巻き込まれる式の、肩肘張らない話。
なのになんかけっこう深読みして、見当違いの感慨を持ってしまった気もする。
人と人とが共に生きていくのは家族であれ親子であれ難しいけど、
それでもやっぱり、誰かと一緒に生きていくのはステキだなあ、という感慨。

なんかこんな挿絵だらけの軽いタッチの小説にしては感想が真面目すぎるかな。
けっこう、多田のキャラにやられたんだよなあ、共感というのとは違うんだけど、
人間後悔だらけで生きてる、まさにそれを体現してるのが多田なんじゃないかと。
私にも行天がいてくれたらいいなあと。あ、男性としていてくれても
もちろんかまいませんけど(本音)、ただいてくれたらな、と。
なんかあんまりまとめきれてないけど。うん、いい本、でした。

まほろ市の現代の風俗的事情も描かれ、ちんぴらなのかヤクザなのか、
怖いお兄さんに絡まれたり、ヤクがらみの犯罪に巻き込まれたり、
20分2000円で身体を売ってる娼婦がいたり、と、なかなか凄惨なんだけど、
そこらへんの殺伐とした空気はあまり感じなかったなあ。
既存でこういう世界はいくらでも描かれてるから、どうしても比べたりしてしまいますけど、
三浦さんとヤク、三浦さんと娼婦、三浦さんとヤクザ、・・・なんか違和感感じました。
でも、娼婦達もいきいきと普通に生きてて、そういう生活感みたいなのは、
すごく伝わってきました。みんな雑多にいろんな事情を抱えて生きている、
そんなまほろ市はステキな街です。
| comments(9) | trackbacks(20) | 01:59 | category: 作家別・ま行(三浦しをん) |
コメント
勝手ながらTBさせていただきましたm(__)m
(ついでに小生のブログのブックマークにも。)
すばらしいブログにあえてすごく感動中!!
次の1冊の購入の参考にさせていただきます。
| naoky | 2006/08/22 12:53 AM |

こんばんは。私は直木賞の候補にあがる前に読んでしまったのですが、ハードボイルドかくあるべしとでもいうように、三浦さんの妄想炸裂、楽しんで書いてるなあって感じました。
ちなみにドラックは小道具っぽくて生々しさが足りない気もしました。
| たまねぎ | 2006/08/23 6:54 PM |

naokyさん
はじめまして。ブックマークありがとうございますー。また遊びに来て下さいね。

たまねぎさん
そうですねえ、しをんさんの妄想がばりばりで楽しんで書いている様子が浮かぶようでした。きっと挿絵にも狂喜乱舞したであろうと(笑)
でもまあ、ハードボイルド的要素はちょっと、違和感だったのが残念かなあ、と。新境地ですけどね。
| ざれこ | 2006/08/24 10:04 AM |

こんにちは。
私もこの作品はシリーズ化あるのかなぁなんて思いました。
この陰のある男二人の関係が素敵で、個人的にはぜひシリーズ化希望です。
| ひろねこ | 2006/08/24 10:39 AM |

こんにちは。
私はふたりのコンビネーションと、予想のつかない展開をそのまま楽しみました。
そうですね。行天と多田を始め、キャラクターたちの生活感がよく出ていました。
多田への思い入れの深さが伝わってきました。
トラバしました。
| 藍色 | 2006/09/19 11:20 AM |

ひろねこさん
ですよね、続編希望ですよね。三浦さんお願いします(ここで言っても)。あの二人にもう一度会いたいなあ。

藍色さん
確かに絶妙なコンビネーションでしたよね。お互いがお互いのないところを補い合ってる気がしました。続編希望で(しつこい)。
| ざれこ | 2006/09/21 1:18 AM |

 はじめまして。こんにちは。
 友達が本を貸してくれたので、はじめて三浦さんの本を読みましたが、とても楽しく読めました。複雑でしたが、読みやすかったですよね。
 まほろ市のモデルと思われる市に住んでいます。一つ教えていただきたいのですが、私は住んでそれほど長くはないのですが、それでも、その市での言い換えというか、「ああ、○○のことだな」や「それって△△だ」というのをたくさん感じたのです。その点で、そこに住んでいない方でも楽しめたのかな、というか、じゃまではなかったのかな、と思ったのです。いかがでしたか?気になりませんでしたか?
 これから読書する本選びに参考にさせていただくためにも、またおじゃましますね。
| けい | 2006/10/02 12:09 AM |

けいさん
はじめまして。
まほろ市のモデルの市にお住まいですか。書いている感じをみると、かなり本当の町に近い感じみたいですね。そうなのかあ。
私は住んでないし行ったこともないですが、楽しく読めましたよ。知ってる人ならより楽しめるんでしょうけど、知らなくても、街の雰囲気がわかるような気がしました。そこがまたしをんさんのうまいところなんでしょうね。
しかし、あの20分2000円なところは本当にあるのかしら・・・、とか思ったり・・・。
| ざれこ | 2006/10/05 1:29 AM |

TBさせていただきました。
行天の天下一品の飄々っぷり、素敵でしたねー。
無駄なことにお金使うわ、無駄にお客さんの信用失うようなことするわ、
冷静に考えるとそばにいるだけでかなり損失があるような気がする行天ですが、
多田の重みをうまく緩和してくれてる気がします。
どっちも、単品だとかなり重いと思うんですよねぇ。
絡んでコミカルになってくれてよかった(謎
| 斎藤れい | 2007/06/14 3:51 PM |

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