本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「七姫幻想」森谷明子
七姫幻想
七姫幻想
  • 発売元: 双葉社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2006/02


奇しくも七夕の時期に読んで正解だったらしい。
七夕の七姫をモチーフに描かれる、7つの美しい短編。
歴史ミステリとも取れるし、恋愛モノとも王朝ロマンともとれる、
なんとも上質な一冊。なんか読んだだけで女のグレードが上がるような。
微熱のさなかに読んだが、微熱を忘れてめくるめくロマンを体験できた。
逆に熱が上がったかもしれん。

というか、多分、だからいろいろ細かいところは読み逃しているようで、
それが惜しいといえば惜しい。覚醒した頃にもう一回読みたいわ。狙いは文庫化か。

まあだからちょっと腑抜けみたいな感想。私の感想読む時間があるなら
この本をとっとと借りて(いや、買って)読んだが賢明かと。
第一話「ささがにの泉」では、いきなり大王(おおきみ、と読む)が崩御され、
大后(おおきさき)が泣き崩れる場面から始まる。
大王の横には、大后の妹、衣通姫(そとおりひめ)が。大王の体を気遣う大后が、
不思議な霊力を持つ妹を大王に与えたのだ。しかし大王は死んでおり、
そこは衣通姫を守る標(しめ)がしっかり張られていて、密室だった・・・。

なんかいきなり、古代なのに「密室殺人」っぽい流れになってしまって
一瞬「え、こんなところで本格ミステリ?場違い?」と驚いたが、それも一瞬のこと。
衣通姫と大王のはかなくも深い愛情、大后の歪んでいるけど深い愛情、
そんなものがどろどろと絡み合った、哀しい結末が待っていて、
濃厚で不可思議な、なのに品のある世界観は本格ミステリの乾いた感じとは無縁。
でもけっこう謎は本格だったりして、なんていうかなあ、
どういう目線で読んでもこれは楽しめるんだろう、という安心感も抱かせる1篇目。
そしてこのクオリティをさらに深く深く掘り下げつつ、物語は続く。

衣通姫の家にある、不思議な泉。その泉がルーツになった、もう一つの物語が、
この短編集全体に、一本の糸のようにぴんと、張り巡らされている。
その物語を紐解いていくと、どんどん深いところに連れて行かれるような、
そんな気がするのだ。「みづは」という謎の女。「とりひこ」という謎の男。
そして、ある謎の一族。彼らはどの短編にもほんの少しだけ登場して、
でも、全体を読み通しても一本の糸はちらちらと見えるだけで、その全容を
文章にして全部解き明かしてしまうような、無粋な真似はしない、そんな短編集。
あとは我々の想像力に託されるしかないようだ。

しかし私は微熱だったんだよなあ・・・。わかるようでわからない、そのもどかしい感じ、
それでずっと過ごしてしまった。もうちょっとわかってもいいんじゃないの、とか思ったけど、
多分覚醒してたら、いや、もう一回読んで細かいところをつないでいけば、
もうちょっと流れはつながったような、気もするし。
うう、そこは再度挑戦したいところ。でも、多分、はっきりとは答えは書かれていない、
でも何か奥底で確実につながっている、その不思議な感覚は
かなり好きなもので、それにたゆたっていてもいいような、それも粋なような気もする。

時代はだんだん下っていく。古代から、多分平安時代、最後は江戸時代まで。
わ、江戸まで下ると姫って感じでもないし雅じゃないよねえ、とか思ってたけど
(八丁堀とか、てやんでえ、こちとら江戸っ子でえ、とかそういうイメージだから)
最後までこの雅さは失われなかった。すごいことだ。
機織も、最初は神の領域で巫女がやってたのに、江戸までいくと武士の妻が
内職でするレベルにまでなっている。
歴史は移ろう。でも何か、移ろわないものがある。大事なもの。
そんな短編集だった気もする。何がどうって説明は出来ないけど。

どの短編も印象的だった。
古代ロマン溢れる兄弟の陰謀を描いた「秋去衣」も切なくてよかったし、
「薫物合」に出てくる、清原元輔がへたれだけど優しくていい男で、
その終わり方もなんか好きだったなあ。哀しいんだけど。

ああ、そうそう、どの短編でも最後に一句、和歌が添えられていて、
その(多分)実在の和歌に絡めて物語が作られてるってのもうまいんだよね。
実際、歴史に詳しいと随分楽しめるに違いないんだが、
歴史に詳しいはずの国史学専攻の私は何も知らずに楽しみましたとさ。
くそ。古代は知らないんだよな(どの時代も知らないくせに)
でもほのかにしか知らなくても、別に歴史の重要ごとにはそれほどこの物語は
頓着していないと思うし、いいのだ。

おお、今清原元輔をネット検索して気づいたぞ。
あの、「朝顔斎王」に出てくる「少納言」ってやっぱり歴史上超有名なあの人に違いない。
だって清原元輔の娘だもの・・・。
まさか出てくるはずがないと思っていたけど、そうかー。そうなのかー。

ほか、いろいろ調べたらいろいろ出てきてしまった。歴史的事実。
穴穂皇子と軽皇子のこととか・・・。事実を知るのは面白いけど、
やればやるほどこの本では興ざめな感じになってしまうのはなぜだろう。
なんか漠然と無粋な感じ・・。他の本ではせっせと調べるのにな。私。
この本が物語としてとても美しかったからだろうか。
あーでも調べれば調べるほど深いのかも。悩むわ。

「朝顔斎王」も好きでした。主人公の朝顔斎王が、恋を知らない無垢な少女で、
巫女であることに誇りと迷いを持っていて、「私に何が出来るのか」っていう問いが
すごく胸に迫ったので。なんていうか、雅な世界を描いているのに、
彼女達の抱く感情はとても共感できるし、近しいのです。
決して遠くはない、でも雅な世界。ステキでした。

「百子淵」までいってやっとこの連作短編の深さに気づき、
ラストの「糸織草子」でははっきりした答えは出ないまでも、やっと
ずっと糸がつながっているんだ、ってことに気づかされる感じ、でしょうか。
各短編が少しずつだけど確実につながっていて、その小さなつながりを見つけるのが
楽しかったけど、ああ時間がたったんだなあ。と、つながりに気づくたびに
思ったりしました。それも、何百年も、経ってたりしますから、
その時の流れにはちょっと眩暈がしました。

悠久の時を越えて織り成される姫たちの物語。
いつの世も、女は恋をして、美しくて、雅なのですよね。
そんな想いにとらわれるような、優雅で粋な短編集でした。

それにしても日本語って綺麗ですよね。こういう本を読むと思います。
最初の方は漢字の読み方がなかなかなじめなくて、振り仮名ふったあたりまで
何度か戻ったりしちゃいましたけど、ひらがなでちゃんと読むととても優雅に
なるのには驚きます。漢字があまり入ってこない昔ほど、優雅だった気がするなあ。
おおきみ、とかおおきさき、とか、いい呼び方だと思いません?
そとおりひめとか・・。そもそも、ひめ、って柔らかくていいですし。はたおり、とか。

そして、和歌の魅力を知るにも格好の一冊でしょうね。
これを読んで国史学専攻の授業を受けていれば、もうちょっといろいろ
実になったに違いありません・・・。金脈を目の前に無視して通り過ぎたような
妙な後悔が今よぎってます。めくるめく雅世界に入らず、私は大学の頃、
太平洋戦争なんぞを調べていたんでした・・・・。なんだかな・・・・。
| comments(9) | trackbacks(8) | 02:03 | category: 作家別・ま行(その他の作家) |
コメント
熱、下がりました?お大事に〜。
こんな湿った季節に、熱なんて、嫌ですね。
でも、この本を読むには、ピッタリでしたね!

私も、なんで大学を文学部にしなかったんだろう?ってこれ読んで思いました。
私は、一生使えなそうな経営学なぞを勉強していましたね。
ほとんど何も覚えてません(笑)

| ゆうき | 2006/07/12 7:45 AM |

おぉ!私もこの一週間ほど微熱が続いて鼻水も咳きも止まらずかなりふらふらしております。おそろいですねっ!(そんなに力を入れて言うようなことでもない。)

私も漢字が読めずに苦労しましたが(何度も戻りました、えぇ)、こういう自分の知識のなさのせいで物語りに入り込めないとものすごく悔しいです。リベンジしたい…!

私なんてちなみに大学のときはETCとかの研究やってましたよ。雅のみの字もない…。
| chiekoa | 2006/07/12 1:50 PM |

この時期に読まれるとは、タイムリーいえ・・雅ですね〜。

私、大学時代日本史専攻だったのに、乞巧奠なんて、
しつこいくらい何度も戻って確認しましたよ。
これってまずいですよね・・。
でも日本史専攻といっても、仏像やってたんで雅の世界からは遠いところにいました。
| june | 2006/07/13 11:14 PM |

ゆうきさん
経営学!かっこいいじゃないですか。太平洋戦争よりは実用的だろうし(笑)
文学部も古典をやれば雅ですが、古文書(こもんじょと読んでください)読むのが大変です。別の言語くらい読めないです。あっさり挫折する私でした・・・

chiekoaさん
おお、おそろいですね!(って・・・)私もまだ微妙に眩暈がしますが、ちえこあさんは快方に向かってますか?お大事に。
私もこの本はいつかリベンジしたいです。ええ。文庫化されたときにでも一緒にどうですか(って、いつだよ)
それにしてもETCって車のETCですよね・・。大学の頃ってそんなもん巷にはなかったですよね。実用化に一役買ったりしたんですか?雅じゃないですけど(笑)カッコいいですー
理系教科全滅だったんで、理系ってだけでカッコいいんですが。

juneさん
乞巧奠ってなんて読むんでしたっけ・・?ああ・・・私も何度も戻ったのに・・・。七夕のことですよね?うん、わかればいいんですよ(苦笑)
仏像かあ。それはいいなあ。観るのけっこう好きですよ。女の人の仏像(いや、仏様だから)ってたおやかで雅ですよね。
| ざれこ | 2006/07/14 12:34 AM |

> なんとも上質な一冊。

そうそう、そうですよね。
細かいところまで緻密に織り上げられていて素晴らしい作品だと思いました。
文庫化されたら手元に置きたいです。
そして図書館の貸し出し期限を気にせずゆっくりと読み返したいです。

体調はいかがですか?お大事になさってくださいね。
| tamayuraxx | 2006/07/14 7:19 PM |

ざれこさん、こんにちは。
「七姫幻想」、素敵でした。
こんな雅な物語にミステリーを絡ませるなんて、この作家さん上手いですね。
ついつい、「千年の黙―異本源氏物語」を図書館に予約してしまいました。

TBさせていただきました。
あと、私の記事上にざれこさんの書評へのリンクを貼らせて頂いたのですが良かったでしょうか。
事後報告になってすみません。
| 読書猫 | 2006/08/18 5:34 PM |

読書猫さん
「千年の黙―異本源氏物語」私も気になってます。また近いうちに借りたいなあと思ってます。この雅な雰囲気で、でもミステリ、って、今まであまり読んだことない感じで、とても魅力的でした。古典は知らないけど、きっと大丈夫でしょうし。
リンクもしていただいてありがとうございました。この支離滅裂感想がちょっとでも参考になったのなら嬉しいです・・。
| ざれこ | 2006/08/21 11:06 PM |

ざれこさん、こんばんは、
私も読みました。
この本は雰囲気なんかも含めて良かったです。
森谷さんという作家をこれで初めて知りました。
 デビュー作の源氏物語のも気になりますね。
平安調の世界観も、凄いです。 

| indi-book | 2006/09/10 10:04 PM |

indi-bookさん
私も森谷さんはじめてで、気になる作家さんの一人になりました。デビュー作、気になりますよねー。
この本の雰囲気は私もとても好きでした。しっとりと雅ですよね。
| ざれこ | 2006/09/13 12:57 AM |

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