本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「その日のまえに」重松清
その日のまえに
その日のまえに
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,500
  • 発売日: 2005/08/05
  • 売上ランキング: 1078
  • おすすめ度 4.5


先日、家の犬小屋に蜂の巣があって(犬はその小屋に滅多に入らず玄関先に入り浸っている)、
おかんがそれを発見して、ゴキジェットをぶしゅーっとぶっかけたところ、
中から黄色と黒の縞々のむちゃくちゃでかい蜂が出てきて、
「く、女王蜂め」とさらにゴキジェットをかけまくり、見事全滅させた。
ワンピース一枚でゴキジェット片手に勝利した母は、近所に自慢しに行った。
そして、近所のおばちゃんに言われる。「あんた、これ、スズメバチやで」
・・・・母はそのあと震えがきたそうだ。

「その日のまえに」を読んでしんみりし、「うちの母もいついなくなっても
おかしくないし、大事にしてあげないとなあ、あんなんだけど・・・」と
しみじみしていた矢先の出来事に、私はあきれ返った。
本当に、いつ何時どうなってもおかしくないな、うちの母は。
と、ここまで書いて私もまた寝込んだわけだ。土曜日から熱が出て寝込んでいた。
多分風邪だろう。夏だから熱が出ても部屋さえ締め切って冷房を消せば、
とたんに汗をかけてしまうからすぐ下がるに違いない、とびしょびしょで我慢したが、
なかなか下がらない。止まらない汗、下がらない熱。もう死ぬんじゃないか、と
私はふと不安になった。

まだ31歳だというのにへたれな私は、すぐに死ぬかも、と大騒ぎする。
31歳でガンが発症し33歳で亡くなった、奥山貴宏氏の小説を読んだときとか、
先輩がガンで亡くなったときとか、すぐに私は自分と重ね合わせ、
どこかでガンが大きくなってるかも、と妄想してうんうんうなるのが常だった。
こんな志半ばで死ねるか、と志もないのに思う日々、なのだが。

この本を読んでやっと、気づいたことがあった。
私が死ぬ前に、誰か、大事な人が死ぬ日が来る。どうやっても、くる、と。
私はそれを目の前にして、そしてそのあとも、生きていかなければならないし、
それはきっと何度も何度もあることだ。と。そんな当たり前のこと、
「東京タワー」(本屋大賞取ったほう)を読んでもそこまで染み入りやしなったのに、
この本でいきなり私はそれが肌身に染みたのだ。
そうか、私がガンにもならず元気にやっていったら、いつか家族が死んでしまう。
その日は来るのだ。

と、しんみりと家に帰ってきてみれば、母はスズメバチと格闘して勝ってしまう。
もしかしてあの女は実は死なないんじゃなかろうか。と別の不安がもたげるくらい、
見事な勝ちっぷりである。知らぬが勝ち。しかし無謀すぎるぞ。母よ。
しかし、どうしても暗く沈んでしまうこの本の感想が明るく転んだのは良かった。

さて、本の話。緩やかにつながる連作短編集。テーマはストレートに、死だ。
最初の方の短編では死は遠い。ひこうき雲みたいに、なんだか遠い。
同級生の、嫌われ者のガンリュウのお見舞いに行く「僕」の物語、
かつての教え子を前に死んだ夫を思い出す先生、その死は、
肉親のものでなかったり、かつて体験した死だったりして、なんだか遠い。
それが回を追うごとにどんどんこちらに近づいてくる、けれども、
自らの死を察して、昔小学校の頃に死んでしまった友人のいる海にくる男性、
母の病気を知って茫然とする少年。彼らにもまだ、死は近くに来ていない。
そして私にも。私にとってもその時点では、大事な家族の死は、
その高校生男子と同じくらい、頼りなく遠くにあるものだった。

そうやってひたひたと私たち読者を不安に浸らせておいて、残り三篇で
重松さんは一気に攻めてくる。いや、言い方変だけど、まさにそんな感じ。
「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」、タイトルを見ただけで、
覚悟を決めて読まざるを得ないじゃないか?

40代の夫婦、順風満帆とは行かず、それなりに苦労して今はそれなりの生活をしている夫婦。
妻を襲う病魔。夫婦はともに闘うが、「その日」は容赦なくやってくる・・
一方の死を前に、夫婦は思い出をたどり、いやというほど考え、泣いて、
考えて考えて、そしてその日を迎える。看護師が言う、「考えることが答え」と。
そのくらい、二人は考えて。家族の死の間際に家族が一つになって、
そして「その日」のあとでもやっぱり一つになって、一緒に母のことを息子達と思い出す。
考えて、考えぬけたことは、この家族の幸せだったのじゃないか、なんて思った。

そして読ませるのは「その日のあとで」だろう。家族が死んでしまうまでの
本なんていくらでもあるし、死んだら終わりなんだけど、本当は違う。
残った人は、死を、その人の不在を乗りこえて生きていかないといけない。
この最後の章だけがそれを語っているんじゃなくて、この本には最初から、
死を乗り越える人たちが描かれていたような気がする。
死んでしまった人が、薄らいでしまってもいいのだよ、と。
少しくらい忘れてしまってもいい、でも完全に自分の心から、
その誰かがいなくなることは絶対にないのだから、と。
誰もが経験するであろう試練を、温かい筆致で描いてくれたから、
だから私たちは誰でも、この本に涙できるんだろう。なんて思う。
最後の、和美からの手紙は、それを私たちに教えてくれてるんだろう。
でも、すぐにあれを受け取れるかどうかは、わからないけど・・・。

淡々と語られつつ底に熱いものを秘めた重松さんの文章に、
これを読んで誰も思い出す人もいなかった私でさえ、やっぱり泣いてしまった。
突然失った人は何人かいる。高校の同級生がバイク事故でいきなりいなくなったり、
職場の人が電車に飛び込んでいなくなったり。その直後は動揺したり泣いたり、
悔しかったりしたけど、やっぱり今は少し、忘れてしまっている自分がいる。
そんな人たちを思い出した。あまり近い存在じゃなかったから余計、
彼らはどこかで元気に生きている気がしてしまって、彼らの不在があまり、
実感できないでいる。それは、残念なことなのか、それでいいのか。よくわからない。

ゆるい連作短編なんだけれど、最後に一気にそれらがつながった感があって、
いつもだったら「うまい」と褒めるところなのに、今回は「うーん、うますぎる」と
うなってしまった。うますぎて首を傾げられるって気の毒だよな、って
気もするけど、うますぎたねー。全部の不幸がいっぺんに最後に集結、
した感が否めないのだ。和美さんだけで私はいっぱいいっぱいだったから、
ちょっと勘弁してほしかった。そうしたかったのは、わかるけど・・・

| comments(8) | trackbacks(12) | 08:08 | category: 作家別・さ行(重松清) |
コメント
夏風邪ですか?
このむしむしの時期に発熱はつらいですね。
どうぞお大事に。

そして、全快したのちには
このエピソ−ドのあとにどんな感想が続くのかたのしみにしています。
| ふらっと | 2006/07/10 5:03 PM |

ふらっとさん
ありがとうございます。夏で大量に汗をかいたので、熱は早くひいたんだと思いますが、それでもうんうんうなりました。へたれな私です。
感想はこう続きました。一応ちゃんと落としたかな、という感じです(感想なのに落とさなくても、という気も少ししますが)
| ざれこ | 2006/07/11 1:09 AM |

初めの方の物語たちは
その後に続く「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」への助走のようでもありますね。
少しずつ覚悟させられるような。

その日がクライマックスで、その日のあとのことはおまけみたいになっていることが多いけれど
その日のあとのことこそが生きている人たちにとっては切実な問題なんですね。

スズメバチ、
仕返ししにこないことを祈ります。
| ふらっと | 2006/07/11 6:54 AM |

こんにちは。

熱の出るときにあまり暑くすると、ヘタをすると熱中症で死にますからご注意を(^^;)。
今は「あっためて汗をかく」のではなくて、「涼しくして体を冷やす」のが正解だそうですよ。(寒気がしてガタガタ震えがくる熱は別)。
何しろ、季節の変わり目ですから体調には気をつけて。

ざれこさんの文章を読んで、20年ぐらい前の、まだ身内の死を経験していなかった頃の自分を思い出しました。
そう、身近な人の死、って想像しただけで怖いし悲しいですよね。

私もそういう時期にこの本を読んでみたかったかな…。(すでに両親ともないので。)

でも、この本を読んでみて改めて、自分は身内の死をきちんと受け止めていなかった、ということに気づいたりして。
心揺さぶられる本でした。
| かれん | 2006/07/11 11:57 AM |

ふらっとさん
まだいるみたいなんですよ、巣を失ったスズメバチたち・・・。復讐が普通に怖い今日この頃。
この本、そうですよね、その日のあとのことがちゃんと描かれていて、哀しかったけど、良かったです。

かれんさん
図らずも死ぬところでしたか私ったら(苦笑)まあ、クーラーもだいぶ壊れててほとんど冷えないもので、いくら冷やしても多分汗だくでしたが・・。死ぬほどの熱じゃなくて良かったです。以降、気をつけます。

私はまだこの本の感想を書くには早いような、いや、なんていうか、えらそうなことは書けないな、と思いました。まだ、その日が来ていないわけですから。死がいきなりやってくることは知ってますけれど、この本ほどの喪失感はまだないわけで、これから怖いけど、今は正直幸せだと思います。
大事な方を亡くされた人が読むと本当、辛いんでしょうね、この本は。でもそれでも、何か救われるような、いい本なんじゃないかとも思いました。
| ざれこ | 2006/07/12 12:39 AM |

おはようございます。ざれこさん。
私も、冒頭からすぐに覚悟を決めて読み始めましたが、完敗でした。
この事をモチーフにして描くのって、ある意味ずるいですよね(苦笑)
泣かざる得ませんものね。

これ以上のものは、もう重松さんの作品では出あえないような気がして、最近は少し離れております・・・。

TBさせていただきました。
| ゆう | 2006/07/12 9:37 AM |

ゆうさん
ほんま、ずるいですよ。でも「東京タワー」はまさにずるいって感じでしたけど、これはずるい上にうまいからさらに泣かされます。やられました・・・。重松さんには、やられっぱなしかもしれないです。
| ざれこ | 2006/07/14 12:50 AM |

たぶん・・・はじめまして だと思います。
花といいます。

ロムするためにここには訪れますが
TBさせていただくのは多分はじめてかも^^

重松さんの小説は重いけど感動することも多くてかなり読んでいます。
本作も「死」がテーマですがどこか あたたかいですね。

ざれこさんのようにいっぱい読書をして
またTBさせていただきますので
よろしくお願いします♪


| | 2007/03/23 11:08 PM |

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