本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「沼地のある森を抜けて」梨木香歩
沼地のある森を抜けて
沼地のある森を抜けて
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,890
  • 発売日: 2005/08/30
  • 売上ランキング: 101665
  • おすすめ度 4.17


なんか、30歳過ぎてからしみじみと、子どもが欲しくなった。
昔は自分に自信のない私は、自分そっくりの子どもができたらぞっとするわ、って
理由で欲しくなかったけど、最近はまあ多少似ててもかわいそうだけど仕方ないかな、と。
なんか、友達も産んでいくし、女だったら誰でもやっているはずのことを自分がやってないって
どうなのか、っていう焦りなのかな、って思っていたけど、
この本を読んでこの焦りが形になった気がする。これは、本能なんだ。きっと。
生命が生命であるためには、別の命と融合して新しい命を、
自らの種を後世に遺していきたいと思ってるわけだ。
それは、生命が始めの一つの細胞だったころから、ずっと息づいているわけだ。
そんな、本能のうずき、と言ってもいいくらいなもの、を感じさせられてしまった。
これは痛い。
負け犬だの言われても笑って過ごせても、やっぱりこれは痛いし、切実なわけで。
少子化対策だの児童手当だの言ってるんだったら、こういう本を読めばいいわけよ、
女も、もちろん男も。子どもを産むメリットデメリットを考える以前の部分で、
種としての本能みたいなものに突き動かされて、続いていくもんじゃないのかな。
そんな荘厳な気配すら感じる読書だった。

って、つまりどういう話なのよ、って感じなんだけど、ぬか床の話だ。
よりによってぬか床。
両親をなくして一人で生きる30代後半(と思われる)久美が、
亡くなった叔母時子からマンションの一室ごと、ぬか床をもらいうけることになる。
先祖代々ずっと持ち続けているそのぬか床は、本来久美の両親が管理していたが、
両親亡きあとまだ若い久美に渡すのは忍びないと叔母の時子がひきとったもの。
なんだか曰くありげな、と思いながらぬか床を毎日かき回す久美だが、
ある日、ぬか床から卵を見つけ、そしてそれが割れて、小さくて透明な男の子が現れた。

久美の思考回路が完全に負け犬のそれで、いかにも結婚できなさそうなんだけど、
でもしっかり自立して、人の面倒ばかりみてて、いきなり現れた子どもにも
全然びびらずにちゃんと面倒を見る(まあ、もうちょっとびびれよ、ってくらい
落ち着き払っている)キップの良さというかかっこよさが垣間見えて、
同じ負け犬としての痛々しさと、その潔さへの羨望が入り交じった
複雑な感情をもって読んでいた。フリオや光彦とのエピソード、
そしてカッサンドラ(ってなんて名前だよ)とのエピソードとかが痛々しくて哀しくて。
でも飄々としてて。とぼけた感じがなんとも魅力的で。

男性であることに嫌気がさして性別を捨てた、一見オカマっぽい男性風野さん
(しかもとんでもないペットを飼ってる)と出会って話してるうち、
どうしても性って何だろう、とか考えたりしちゃうわけで、
いきなり出て来たそんなフェミニズム的な話に戸惑いつつ読んでいたら、
そのうち、彼とぬか床のルーツを目指そうということになり・・・

それと並行して、同質のものである「僕たち」の集団が生きている謎の場所が描かれる。
そのシマは推進棒によって「移動」しているらしいのだが、何故移動してるかは誰も知らない。
そして、同質の中にあって異質なものとして産まれてきた「僕」は、水門を開ける
仕事を任され、馬で駆けていく。

前半は飄々と哀しい感じですごく好きな雰囲気だったが、
「僕たち」の世界が私には難しすぎ、現実世界とどうつながるのか全く見えなかったんだけど、
それが最後に融合して一つの物語となったときに、私は冒頭に書いたみたいな、
本能的とも言える何かに感情を揺すぶられる結果になったのだった。
完全に理解したとは到底言えない、梨木さん流の深い深い世界観だけども、
古代からずっと続いていく何か、をほんの少し感じられたような、そんな気がして、
底の方からにじみ出てくるかのような感動を味わった気がする。

久美の職業が菌とかを研究する化学研究所(だと思う、よくわかってないが)っていうのが
また面白さを増した気がする。ぬか床の成分分析とか、菌とか酵母レベルでいちいち考えてて、
不思議な現象も菌のせいにしてみたりして、その観点が面白い。
風野さんがまた、わけのわからない不思議な粘菌?を名前を付けて飼ってたりして、
びっくりしてしまうんだけど。そういう風にミクロの視点を受け付けてもらえたおかげで、
またラストの感動につながった気がしている。

森で樹木についている粘菌が、各植物間を栄養素を運んで行き来するなんてことも書いてて、
すごい共生よねえ、と生命の神秘を感じることにもなった。
みんな、ルーツは一緒なんだし、一緒に生きていったらいいよね。なんて。
それぞれの個はたった一人で孤独なんだけど、それでもつながることで、
ウォールをなくして融合することで、誰かと一緒にやってけたらいいなあ。と。

キノコ好きの友人に読ませたいな。粘菌とか好きって言ってたもんなあ。
きっと感動するに違いない。
すいません、生物学的知識皆無なもんで、あほみたいな感想だけど。

深くて難しいうえにちょっと怖い部分も相変わらずあるけど、
こういう、包み込むように温かい世界を紡ぎ出せるのはほんま、梨木さんならでは。
もう大好きだー。もうわからなくたっていい、この世界に浸れれば幸せ。
| comments(7) | trackbacks(9) | 01:35 | category: 作家別・な行(梨木香歩) |
コメント
正直に言うと、よく理解できなかったんですよね。ざれこさんのおっしゃるとおり、包み込まれるような生命のうねりは、きっと映像化したらキレイで、感動しちゃうんでしょうけど、どうも、その大いなる意志に飲み込まれてしまうことに違和感を感じるのです。
って、これはきちんと理解できず、断片で理解してるからでしょうか?ども、よくわからないのです、正直に。
| すの | 2006/06/27 5:54 AM |

>そんな荘厳な気配すら感じる読書だった。

>って、つまりどういう話なのよ、って感じなんだけど、ぬか床の話だ。
>よりによってぬか床。

読んでいないとここの繋がりは謎以外の何ものでもありませんね^^;

けれどもほんとうに、生命の根源の物語でした。
ぬか床なのに...。
ぬか床に生命の根源を見出した梨木さんに乾杯!
| ふらっと | 2006/06/27 6:47 AM |

なんか、子どもを産まない人生だってあるのだろうけれど、そうするとこの毎月来るアレなんかは私にとってはいったいなんの意味があるんだろうとか、実際のところそれは生命としてどうなんだろうとか、いろいろ考えてしまいました…。「産みたい」のが本音のような気がしますけど…って何こんなところで本気語りを、私ってば(笑)。いや、ざれこさんの感想を読んだらつい…。「結婚」「出産」からはマイナスのところにいる私ですがっ。
| chiekoa | 2006/06/27 12:42 PM |

子供を産むって完全に本能で、遺伝子にインプットされてしまっているように思えます。
だからこれも、スケールが大きくなって訳がわかんなくなりましたが、その大きな生命の流れの中に自分もいるんだ・・とただただ本能で反応してしまいました。
でも、そう思うと子供に感じる愛情も、実は遺伝子のプログラムを愛情と錯覚してるだけなのかしらんとも思えるんですよね。そう思うと人間って寂しいというかおめでたいというか・・。
| june | 2006/06/27 11:19 PM |

すのさん
ああ、私もよくわからなかったですよ(苦笑)ただ感じたことを書いただけです・・。私は長いものに巻かれるタイプなんであっさり巻かれて感動しましたが、俺は俺やし放っておいてくれって感想もありやと思います。個、を描いたのか全体を描いたのかどっちなんだこの作品は、と言われたら、どうも答えづらい気も。

ふらっとさん
ぬか床ってすごいんですねえ。うちにはないんですよね。母はそんなまめじゃないし。毎日かき混ぜてたら神秘的なものになるんでしょうか?中でうようよいる菌たちにまで愛を感じる本でしたね(笑)

chiekoaさん
そこいらの負け犬本より私にはよほどダメージでしたわ。パンチくらった感じです。ああ、子ども産まないとやっぱりダメなのかなあ、女って。みたいな。友達は冗談抜きで「男はいらんから子どもだけ欲しい」って言ってるし。気持ちはわかる気もしますし。

juneさん
実際産んでいる立場だとまた全然感想が違うのでしょうね。お子さんへの愛情が遺伝子のなせるわざとはそれはちょい寂しいかも・・・。私みたいに出遅れてるのもいれば、愛情をかけられない親だってたくさんいるわけですし、遺伝子の問題だったら全員がちゃんと幸せになれるはず、な気もしますけどそうでもないわけですし。遺伝子以上の何かがあると絶対思いますー。

あ、すのさんが感じている違和感もこれに近いのかもしれませんね。なんて今思いました。
| ざれこ | 2006/06/28 1:40 AM |

久しぶりに内容を理解できない本に出会いました・・・。
最初の部分は楽しめたのですが、後半は全然だめ。
ただ、この世界観は嫌いではないので、
いつか再読してみたいと思ってます。
| あおちゃん | 2006/08/28 9:23 PM |

あおちゃんさん
そうですね。難解でした。私だってなんとなく感覚で思ったことを書いただけみたいな感想です。はは。
梨木さんの本は口当たりはまろやかですが恐ろしく深い味わいですからねえ。実はいつも少し恐れつつ読んでいます。世界観は大好きなんですけど。私も、もし子どもができたら再読したいなあ。と思います。
| ざれこ | 2006/08/30 5:57 PM |

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