本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
<< February 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 >>
<< 「陽気なギャングが地球を回す」耕野裕子/伊坂幸太郎 | main | 「カタブツ」沢村凛 >>
# 「狐闇」北森鴻
狐闇
狐闇
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 800
  • 発売日: 2005/05
  • 売上ランキング: 2,454
  • おすすめ度 4


かなり面白かったのですが、あえて苦言を呈させて下さい。いきなりやけど。

私は北森作品は、蓮丈那智のシリーズと、この冬狐堂シリーズしか読んだことがない、
つまりは「民俗学とミステリの融合」だの、「骨董界の謎とミステリの融合」だのの
合わせ技、しか読んだことがなくて、だからいきなりこの主張はおかしい、と
自分でもわかってるんだけど、あえて。
民俗学や歴史を描くなら、人を殺すのはやめたらどうか、と。
ミステリならミステリ、歴史なら歴史、どっちかでいいんじゃないかと。
いや、ミステリと名乗ってても、別に人を殺さなくてもいいんじゃないかと。
これだけ魅惑的な歴史の謎が詰まっているこの本で、どうして人を殺す
必要があるのか、私にはわかりません。
ミステリでは人が死なないといけない、そんな定義もないはずなのに。
ミステリとはただ、魅力的な「謎」があったらそれで成立するんじゃないのか。

この作品では3人が死んでしまいます。その発端が、宇佐見陶子という旗師、
つまり店舗を持たない骨董業者である彼女が手に入れた一枚の鏡にあることは
疑いがなく、その事件に巻き込まれたがために骨董業を営むための資格「鑑札」を
剥奪される羽目になった彼女。絶望の淵から事件解決に乗り出すうちに、
民俗学者蓮丈那智や、鏡の研究家である滝という男と知り合い、
その鏡、なんと三角縁神獣鏡に秘められた謎を追っていくことになるのですが・・・。

明治の夭折画家村山槐多が出てくると聞いて、最近読んだ本「綺憚集」で
彼の名前を知ったばかりの私は「こりゃ読まねば」と手に取ったわけだけど、
彼はそんなにたくさん出てきません。そこで少し拍子抜けしたわけだけど、
三角縁神獣鏡の謎を解くのかと思いきや、明治時代の盗掘だの、征韓論だの、
だいだらぼっちだの製鉄だの(これは蓮丈那智のせいだけど)
突拍子もないところに話が飛んで、とっ散らかしてる印象でした。
えっと、今、何の謎を解いてたっけ?と思うときもしばしば。
でも最後に見事にいろんな諸説を纏め上げたのはさすがとしか言いようがなく、
その過程をぞくぞくしながら読みました。
いや、村山槐多は結局は、そんなに絡まないのだけども・・・。

でも、ここで殺人のことに戻るわけだけど、
現在の謎と過去の謎が密接にリンクしていて、過去の謎がなければ現在の殺人はない、
だから過去を調べる、それはいいんです、いいんだけど、
過去の謎があまりにも壮大で、北森氏が導き出す仮説があまりにでかいもんで、
それに茫然としてしまって、別に殺しの犯人がどうであろうが、もうどうでもいいわけ。

それに、横尾硝子というカメラマンが陶子の相棒なんだけど、骨董にも民俗学にも
縁が薄い彼女が一番現実的な見方をしていて、
「数百年も前のことを理由に人を殺すほど、人はロマンティックじゃない。」
まさにそのとおりで、だから実際、犯人達の告白を聞いても、
結局現実は卑小だし、過去を守るための大義名分かと言われたらそうでもないし、
なんか、殺人が異様に軽い。動機も犯行手順も犯人も。そこだけ抽出すると、
被害者も加害者も大したキャスティングじゃない、しょぼい2時間ドラマっぽい。
歴史の謎が壮大な分、相対的にミステリ部分は軽くならざるを得ないし、
そもそも過去と現在が融合してない、乖離してる。
殺人へ至る道筋と歴史的謎の関係も、理屈では理解できるんやけど
感情がついてかない。どうしても、別物に感じてしまう。

提示されてる歴史の謎は非常に興味深かった。大学受験で日本史を選び、
オタクレベルで覚えさせられた私だし、日本史は好きだったけど、
教科書には出てこない日本史というものにはさらに興味がある。
歴史というのは勝者が勝手に編纂したもので、本当とは全然限らない。
真の意味が、民俗学なんかの学問で明らかになったり、納得いく一つの仮説が
生まれることもままある。その中でもとても魅力的な仮説を、
北森氏は常に提示してくれる。その博識には舌を巻くし、
奇抜かつ理論に裏打ちされたその説たちはとても魅力的で、興味は尽きない。

だからこそ私はこの人の作品を読むわけだけど、
だからこそ余計に、もう人は殺さないで、と切に頼みたいわけだ。
どっちつかずになるのよー。惜しいのよー。もったいないのよー。
私は一つの謎にどっぷり浸かりたいのよ。中途半端な殺しならもういいよ。

前、蓮丈那智のシリーズでも似たようなことを書いたような気がしますが、
今回は長編で解決が壮大なだけに余計その欠点が目立ったかなあ。
別に、誰も死ななくても同じような流れで話を作れそうだっただけに、余計惜しい。
そう、蓮丈那智のシリーズでもフィールドワークに行くたびに確実に一人は死んでます。
トータル何人死んでるんやろ。ま、あのシリーズはその安っぽさもある意味好きだけどさ。

今度はこの人の純粋な歴史ものか、純粋なミステリを読もうと思います。

この本は、北森本の宣伝効果も非常に高いよね。
蓮丈那智が登場するシリーズの2作目「触身仏」は絶対セットで読むべきだし、
私はだいぶ前に読んで、今手元になくていらいらしてるくらい。
図書館で借りて読んで、文庫化したのに迂闊にも買い忘れている。あーあ。
朧な記憶でも間違いない、もう、見事にリンクしてます。台詞も覚えてる。
内藤くんもちゃんと出てきます。奴が今回非常にかわいそうなのは気のせいか?

そして陶子のいきつけの店が香菜里屋。ここのマスターが出てくるシリーズも
北森作品では人気ですよね。まだ読んでないのが、またもや迂闊です。
そしてこの本を最後まで読むと、「暁の密使」をむちゃくちゃ読みたくなるのでした。

もちろん、主人公の旗師、陶子の魅力についても語らねば。
骨董を愛し、骨董業という専門職でプライドを持って仕事をしている強い女、
でも一人で生きていけそうで、つい誰かに寄りかかりたくなる自分と
必死で戦っていってるような弱さも併せ持った、とても魅力的な人物。
彼女みたいにクールに、かつ人間的に、自分の仕事に誇りを持ってやれれば、
幸せだろうな、そんな気もします。同じ女として憧れます。
負け犬は、仕事に没頭するしかないですからね・・・・ああ、自虐。
冷徹な民俗学助教授である蓮丈那智も好きなキャラクターですが、
陶子の方により温かみを感じます。彼女が活躍するシリーズは、どれも読みたいな。

北森さん、自作を売るのうますぎないか?と思ってしまう本です。やめられんぞ。
| comments(0) | trackbacks(3) | 01:38 | category: 作家別・か行(北森鴻) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://blog.zare.boo.jp/trackback/510645
トラックバック
○「狐闇」 北森鴻 講談社 1900円 2002/5
本書『狐闇』は、古美術商宇佐美陶子(冬狐堂)を主人公にした『狐罠』の続編にあたる。本書の中では、前作よりも主人公陶子に対して罠、罠、罠が張り巡らされ、そういった意味で題名は『狐罠罠罠』にしたほうがよかったのかもしれないと、ふざけ気味に本気でそう考える
| 「本のことども」by聖月 | 2006/05/17 7:50 AM |
北森鴻(冬狐堂シリーズ)のことども
 ◎ 『狐罠』  ○ 『狐闇』  ▲ 『緋友禅』  ○ 『瑠璃の契り』 『北森鴻公認ファンサイト 酔鴻思考』も是非
| 「本のことども」by聖月 | 2006/05/17 7:51 AM |
『狐闇』
狐闇 北森 鴻〔著〕 旗師・冬狐堂シリーズ第2作。 前作の緊張感そのままに一気に読了。 きっかけは二枚の青銅鏡の落札。 その時から陶子の人生は一転してしまった。 馴染みの画廊から手に入れた水彩画が盗難にあい、しかも贋作作成の疑いをかけれれる。疑わしきは罰
| 読書の時間 | 2007/01/15 2:35 AM |
NOW READING
ざれこの今読んでる本
Selected Entry
Categories
Comments
Trackback
Mobile
qrcode
Profile
Search this site
Sponsored Links