本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「綺譚集」津原泰水
綺譚集
綺譚集
  • 発売元: 集英社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2004/08
  • 売上ランキング: 69,913
  • おすすめ度 4


同じ津原氏の著書「赤い竪琴」を読んだ際に、この作家さんなら「綺譚集」がオススメ、と
数人の方が口をそろえたので、ちょっと間があいたけど借りてみた。
すごい印象的で、よかったです。ありがとうございました。
装丁が印象的ですね。これ、写真なんですね。

装丁のせいなのかどうか、読んでいるといろんな絵画が浮かびました。
この本を読んでいて最初に浮かんだ絵は、確かルーブル美術館に所蔵されていた、
湖に女性が浮かんでいる絵。
あとで調べたら「若き殉教の娘」(解説ページ←リンクはらせていただきます)という絵らしい。
これは、ラファエロ前派とかそういう感じの絵が好きな友人が特に気に入っていた。
「すごく綺麗なんだけど死んでるんよ。そこがいいわ」とかなんとか言ってて、
私は基本的にはシュルレアリスム(マグリットやダリ)が好きだから系統は少し違うけど、
それでも美しいと思ったし、印象に残っていた。
その友人が年賀状でくれた絵も次に浮かんできた。
ウォーターハウスとかいう画家の代表作で「シャロットの女」 。
友達曰く「この絵な、この女の人、日の光を浴びたら死んでしまうんやけど、
外にかっこいい男がとおりかかって、どうしても会いたくなって外に出て行って、
だから死ぬ間際の絵なんよ。綺麗やろ?」
「うん、綺麗やけど、・・・なんで私の年賀状にそんな絵を?」
「いや、そのくらいがんばって男探さなあかんで、ってことで」
「でも、見つけても死ぬんやろ?」
「そうやな、ははは」
麗しき友情。・・・・。
友達の絵の解釈の真偽のほどはわからないが、そういう絵と言われればそう見える。
この絵も美しいと私は思った。

そういう美しさが、この作品集には漂っている。って、これで感想を終わりにしたいくらい、
私はこの作品についてうまく現す語彙を持たないんだけど、
死が限りなく私たちの世界の近くにあって、死者は当然のようにそこに住み着き、
そして、死は恐ろしいものなんだけども、限りなく美しい世界でもあり、
美しさと死が表裏一体というか、そういう世界。そういう本だ。
それがこの絵画たちを頭に浮かべた理由だと思う。

最後の方に、ゴッホの晩年の作品、「ドービニィの庭」を自分の家の庭として
執拗に再現しようとし、だんだん庭の魔力にとりつかれていく人々を描いた
幻想的小説があった。とても印象に残ったが、そうか、ゴッホか、と違うところで納得した。
晩年の彼の絵は、ただ風景を描いているだけなのに、空の色、糸杉の形、
まがまがしい黄色、に狂気を感じ、とても恐ろしく、でも引き込まれる。
自らの死期を知っていたであろうゴッホが、最後にたどりついた境地。
死と隣り合わせのその絵は、また、この作品集のイメージとぴったり一致したのだった。

そんな風に、まるで美術館で絵を次々眺めているような、バラエティ溢れる作品集。
ショートショートともよべる短いものから、比較的読み応えのある短編まで、
様々なバリエーションのストーリーが収録されていて、いろんな味わいがある。
ずぶずぶと入り込んでしまう世界で、必死で読んでいて降車駅を見逃した作品もある。

文章は完璧に構築された不安定さとでも言うのか、不思議な世界に誘われるような
独特の文体も多かったが、著者の不安定さからきたものではもちろんなく、
計算された不安定さ、それを感じた。
小説も芸術なんだな、と当たり前だが思った。この文章の美しさ、禍々しさ。すごいわ。

印象的だったのが、先述のゴッホの話ももちろんだけど、
村山槐多という実在の画家であり詩人であった人物を主人公とした話も印象的。
美しい人に接吻すると、その美を吸い尽くしてしまう、そしてそれをキャンバスにうつし、
吸われた本人はひからびて死んでしまう。そんな画家村山塊多の歪んだ愛情を描いて、
怪奇ミステリとも呼べるラスト。衝撃だったな。
そして、書道家の弟子の物語や、歯を抜きに行く話(←これだけ書くと面白くなさそうだ)、
子どもの幽霊達が怪物になってしまう話、なんかも印象的だった。
主人公が自らの記憶世界を掘り下げていき、真相にたどりついていくような、
ある意味ミステリとも言える作品が多くて、ずぶずぶとはまりこむような、読み応えもあり。
本当に、幻想的だけどあまり理解できない絵をただ眺めてるだけで終わってしまうかのような、
そんな短い作品もあったけど、理解できなくても、美しいのはわかる、そんな短編達だった。
多分しばらく印象に残るんだろうな。

村山槐多については、津原氏の中編も収録された作品集があるようです。こちら
描いていた絵についてはこちらのサイトさんでみることが出来ました。→がらんす倶楽部
「稲生像」がある・・・・。
| comments(7) | trackbacks(5) | 16:41 | category: 作家別・た行(津原泰水) |
コメント
うわー!この絵(シャロットの女)美しくて禍々しいですね。いきなり見てびっくりしましたが、この短編集に漂うものを、見事にあらわしてると思います。
(年賀状がこれって、ざれこさんのお友達、素敵ですね。あ、素直な気持ちで言ってますよ。)
そして、村山槐多って実在の人物だったのですね。知りませんでした。絵を上手くイメージすることができなかったのですが、この表紙を見て、納得できました。

それにしても、この世界を知っていて「赤い竪琴」を読んだら、疑心暗鬼になったでしょうね。赤は血の色?とか。
| june | 2006/05/12 11:16 PM |

juneさん
そのふとどきな友達、この本を読んだら多分はまると思います。彼女の好きな絵の世界そのままだし。そういやゴッホも好きなはず。エネルギッシュで死にそうにない(実際車で数回事故ってるのに無傷で生きてます)のに、人間わからないもんです。

村山塊多は、この本の巻末に参考文献で村山塊多の本が確か載っていて、「あ、実在なんだ」と驚いた次第で。乱歩に近い人物だったみたいです。イメージそのままですよね。

お互い、あとで「赤い竪琴」読まなくて良かったですね。最後まで、「いつから幻想世界に入るのか」と疑って読むところでした。普通に出会えてよかった・・・。
| ざれこ | 2006/05/14 4:04 AM |

こんばんは!

『綺譚集』のあとで『赤い竪琴』を読んだちょろいもです(笑)。
いやいや、ちゃんと素敵な恋愛小説として愉しめましたよ!(笑) まあ、こんな恋愛小説も書けるのか!と驚いたことは確かですが。

津原氏は本当に引き出しの多い作家さんだと思います。

| | 2006/05/14 8:46 PM |

ざれこさん、こんにちはー。
ちゃんと(未読はあるけど)刊行順に読んだ七生子です。
『綺譚集』のが、表の顔なんですってば(笑)。
ただちょろいもさんの言うように、引き出しの多い作家さんなんでしょうね。
『蘆屋家の崩壊』は個人的にだ〜い好きな作品なので、
ざれこさんの感想、楽しみにしています。

それはそうとざれこさんの感想を読んでいるうちに、
たまらなく『綺譚集』を再読したくなっちゃいました〜。
| 七生子 | 2006/05/15 10:49 AM |

juneさん(追記)
村山槐多の絵を見つけましたよ。塊多だと思って検索かけてたので出てこないはずです・・。あの本の表紙絵は違う方が描いたようです。失礼しました。
なんかちょっと意外な感じでした。稲生像があります・・・。

ちょろいもさん
そですね、引き出しの多さには驚いています。「赤い竪琴」とはだいぶ作風が違って。でも文章の美しさは一緒でしたけど。

七生子さん
ですよね、こっちが正しいのですね(笑)
『蘆屋家の崩壊』楽しみだなあ。ここの「赤仮面伝(難しい漢字を出すのが面倒くさい。笑)」みたいな感じでしょうか?けっこう好きな雰囲気でした〜
| ざれこ | 2006/05/16 10:34 AM |

あ、わたしも読む順番おもいきり間違ってます。「赤い竪琴」はこれから読むつもりなんですが…割と評判のよい作品みたいなので楽しみです。最新作の「ブラバン」も楽しそうだなーと思ってチェックしてますが、津原さんて本当に引き出し多い作家さんだなあとしみじみ。
| まみみ | 2006/09/23 9:55 PM |

まみみさん
え、「ブラバン」?ってブラスバンドのことですよね。普通の青春小説ですよね?この本を書いた津原さんが?え?(笑)
もうやばすぎます、絶対読みます。どうなってんだ。この人の引き出し。おかしいですよ。
「赤い竪琴」は最近読んだ恋愛小説の中ではダントツ1位だ、と言い切れる作品。切ない作品でした。是非。
| ざれこ | 2006/09/25 2:06 AM |

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