本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「黒と茶の幻想」恩田陸
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ちょっとかっこつけた感想ではじめてみる。

「黒と茶の幻想」、「Black and Tan Fantacy」と聞くとぴんとくるが、
デューク・エリントンの有名なナンバーのタイトルである。学生時代によく聴いたこの曲は、
トランペットとトロンボーンの、重々しく神秘的なメロディから始まり、
ドラムが刻む重々しいリズム、サックスの重厚な伴奏にのせて
妖艶なアルトサックスソロ、小粋なトランペットソロ、壮絶なトロンボーンソロが
奏でられ、そして厳かにエンディングを迎える、そんな曲だ。

この本もまさにそういう趣の本だった。
Y島(屋久島であろう)の樹木の重厚な伴奏の中、
4人の男女が一人づつ語り部(ソリスト)になり、それぞれの思いを奏でるのだ。
タイトルにぴったりじゃないか?

はい、かっこつけた感想終わり。
さて、たまたま知ってたからって、曲と本とがそうやってリンクしてるような
気がして勝手にほくそえむ私だが、この本それだけじゃない。
これは、「三月は深き紅の淵を」で語られる幻の本、「三月は深き紅の淵を」の
第一部、と考えるしかなさそうである。第一部のタイトルはずばり「黒と茶の幻想」、
そして、「三月は深き紅の淵を」で語られる第一部解説によると、
屋久島を旅する中年男女が、「美しき謎」を提示しあって、解けたり解けなかったりする
謎がありながら進行していく、それだけのストーリーらしいのだが、
その解説内容とぴったり一致する本なのだ。

(私の下手な説明じゃわからないでしょうから、皆さんは「三月は深き紅の淵を」を
先に読んだらいいと思いますよ。はい。)

さらにですね、中年男女が謎の中心においているのは、大学の時に消息を絶った
美しい女性、梶原憂理に何があったのか、だったりします。
憂理という女性は「麦の海に沈む果実」に重要な人物として出てきます。
その憂理とこの憂理が同一人物かどうか?それは謎だけど、でもそれらしき記述はあります。
ああいったいどれだけリンクしてるんでしょう。空恐ろしくなってきた。

(私の下手な説明じゃわからないでしょうから、皆さんは「麦の海に沈む果実」を
先でもあとでもいいので、読んだらいいと思いますよ。はい。)

Y島のJ杉めがけて歩きながら、4人の男女、利枝子と彰彦と蒔生と節子は、
それぞれの思いに沈みこみつつ、それでもいろんなことを話します。
彰彦が提案した、安楽椅子探偵紀行、「美しい謎」を皆でもちよって、
解いていこうという企画どおりに。そして、いつしか謎は憂理の謎にまで深まっていって・・・。
あとで考えたら驚くんですが、出来事としては、Y島を4人で旅している、その行程しかない。
そこで何か起こったりしてるわけじゃない、旅をして、ひたすら喋ってるだけで、
何にも起こってやしない。でもこれだけ読ませるってどういうことよ。
各登場人物が、仲間との会話によって自らの内面に深く深く入り込んで、
自らのルーツを探っていく、それだけのお話なのに、一級のエンターテインメント。
いや、解説ぱくったわけじゃないですよ、私もそう思ったのです。凄いな、と。

一人一人の視点でかたられるからそのミステリ的効果は高いのです。
だって、美しい謎って、他人の心ほど謎に満ちたもんなんか、ないです。
他人ってだけで私にとってはミステリです。それを非常に効果的に知らしめられました。
利枝子の視点、彰彦の視点で見ているときは、蒔生という人そのものが
私にとって最大に謎でした。こいつはどういう奴で何を考えてるのか、
全くわからなかったから。もちろん憂理の謎の真相を彼が知ってるから気になるのも
ありましたが、それでも蒔生の章を読んだときには、私にはこの本の謎が
全部解けたんじゃないかと思うくらい、終わったー。と思いました。
でも後半を読んでると、今度は利枝子や彰彦が謎に思えてくるんですよ。
今彼らが何を考えているのか、なんてことが。
さらに最終章は、どちらかといえば第三者的な節子に、バトンが渡されるわけです。
今まで自己の内面を語ってくれていた彼ら3人が全員私の謎になり、
そして節子がそんなことを思っていたなんて、なんてことまでわかって、
だから私の読む手は最後まで止まらない。

うまいんだなー。とにかく演出がうまい。たくさんの作品とリンクされてて、
それだけでもすごい魅力なのに、この本1冊だけ読んでもすごく贅沢な読書ができて。
恩田さんのサービス精神にはほんと、参ります。ありがとうございました。

屋久島、一度行ってみたいんだよねえ。一人で行きたいんだけど、
ガイドさんがついてくれるらしいから、ガイドさんと二人ってのも気まずいしな、
なんて困っている。屋久島の長い道のりをずっと喋ってられて気まずくない
友達が、今私には浮かばないのです。誰かと行ったらそれなりに楽しんだろうけど、
くつろげないかもしれない。この本の彼らみたいに、気も遣わずに
楽しく喋って、自己の内面を見つめさせてくれそうな、思索させてくれそうな、
そういう友達がすぐに思いつきません。
私自身も、誰かの「そういう友達」にはなれていない気がします。
それって寂しいよね。彼らみたいな友情が築けていたらなあ。
やっぱり、友達はいいよね。
| comments(13) | trackbacks(14) | 02:34 | category: 作家別・あ行(恩田陸) |
コメント
三月シリーズは、リンクの仕方が入れ子状態になっているかと思えば、
そんな単純なものではなかったりで、読んでいて空恐ろしいし、
妙に不安になってしまいます。
でもそこが好きだったりします。
屋久島は、私もこれを読んで行きたくなったのですが、
屋久杉までの行程ってかなりきついようです。
私は話すどころじゃなくなりそうです・・。
| june | 2006/04/23 11:41 PM |

「ありがとうございました」って気持ちよくわかります。
私もこの本を読んで屋久島に行きたいって思ったのですが、森絵都さんの「屋久島ジュウソウ」を読んで断念しました。
体力が老人なみの私には無理です。
縄文杉までたどり着けないと思います。
| なな | 2006/04/23 11:57 PM |

えー、なんかもうじゃぁいっそ皆で行きましょう!屋久島オフ…かっこえぇ!
| chiekoa | 2006/04/24 2:41 PM |

juneさん
そうですね。この本だって「三月は深き紅の淵を」の一部かと思うと、なんか全然違うイメージですもん。でも幻のすごい本の一部と言われても納得できるすごい作品でしたね。
屋久島、確かにおしゃべりどころじゃないかも、ですね。彼ら体力ありますよね。

ななさん
「屋久島ジュウソウ」も気になります。田口ランディさんも屋久島関連のエッセイを書かれてましたね、たしか。屋久島って文学としてそそるんだろうなあ。
私も老人並の体力だった・・誰かおぶってってくれないかな。富豪刑事が友達だったら自家用飛行機で縄文杉までひとっ飛びなんですけどね(笑)

chiekoaさん
オフ会を屋久島で、ですか。しかも「美しい謎」つき?すごーい。かっこいいー。でも誰も喋れなかったりして・・・
あ、そうそう、つい先日ですけど、ちえこあさんとゆうきさんと3人で合コンに行く夢見ましたよ(笑)オフ会じゃなくて合コンなのが微妙ですよね・・・すいません・・。
そのシチュエーションは強烈だったんですけど、お二人の顔はもう記憶になく・・でもいけてるお姉さん二人でしたよ。男どもはいけてない感じでした。くそ(いや、夢ですから)
| ざれこ | 2006/04/24 5:37 PM |

おぉ!合コン!(笑)。
リアルわたしは行ったことがないのに、ざれこさんの夢の中で行くとは…世の中不思議なものですね!でもざれこさんが東京に出てきてくだされば実現できそうな♪って、ゆうきさんのいないところで勝手に盛り上がるわたしたち…(笑)。

あ、もちろん相手はいけてるのさがしましょう!おー!
| chiekoa | 2006/04/25 12:36 AM |

他作品とリンクされてるんですね!知らなかった…。
恩田作品はシリーズ物を避けて気まぐれに手に取るだけなので、他は読んでないようです。他を読んでから再読するといっそう楽しめそうですね。二度おいしいかも。
また読みたい本リストが長くなる…うれしい悲鳴です。

屋久島合コン…いいなあ、私も夢の中でいいから参加してみたい(笑)
| chloe | 2006/04/25 12:45 AM |

ちえこあさん
えーオフなら女だけでいいっすよ、本も読まない初対面の男なんてうざいだけです(きっぱり)
あーこんなだからダメなんだよー。(笑)
東京は年に1回くらいは出張するようなしないような、です。前はけっこう機会があったんですけど、最近はあまり、です。むむ。

chloeさん
夢の中では普通の居酒屋で合コンしてました。屋久島じゃ汗と雨ではげてマスカラ流れて、それどころじゃないはず・・(笑)
三月シリーズの読む順番は「黄昏の百合の骨」で記事にしましたから、参考に読んでみてください。あ、試験が終わってからですね。悪魔のささやきでしたね、ごめんなさい。

| ざれこ | 2006/04/25 1:03 AM |

じゃぁ出張決まったら教えてください!
わーい、わーい、わーい、わーい!
あ、なんだったらGWに遊びに来てくださっても、全然(笑)。(旅費高いっちゅーの!)
| chiekoa | 2006/04/25 11:53 AM |

すごく楽しそうな夢ですね!
そんなメンバーだったら、きっといけてない男性はほったらかしで盛り上がっちゃいますよね。
本好きか、いけてるか、どっちかだったら仲間に入れてあげましょう(笑)
いつかきっとのオフ会、実現するといいなあ♪
| ゆうき | 2006/04/26 2:05 PM |

ゆうきさん
ごめんなさいね勝手に合コンさせて(笑)でも楽しかったですよ。
私は面食いじゃないので、顔がいくらいけてても本を読んでるか音楽やってるかで、話が面白い人でないとダメだなあ。って、具体的に好みを話してもどうなるもんではないですが。(笑)
| ざれこ | 2006/04/27 12:43 AM |

TBさせていただきました。
記事に纏めるにはフクザツすぎますよね。
私も書いていて一体どの本について書いているのか分からなくなってきちゃいました(^_^;
| こばけん | 2006/06/22 8:54 PM |

こばけんさん
確かに複雑すぎますね。この本の感想、って割り切らないとどうも大変なうえ、全部読んでも、三月シリーズの全貌をまだつかめてないような気さえしてます。すごい魅力あるシリーズでしたね。
| ざれこ | 2006/06/26 2:09 AM |

ざれこさん
少し前になりますが、ざれこさんにこの本を紹介していただいて、やっと読むことができました♪
三月シリーズの最後だったので少し時間かかっちゃいました。ありがとうございました★
いや〜、個人的には憂理がちょっとショックだったですかねぇ〜。もっと理瀬とは違う感じで生き残っていくと思ってたので、死んじゃうなんて・・・かなしい。

あ、ざれこさんから直接ではないのですがjuneさん経由で赤い竪琴読みました。なんだか本がリレーされているようで嬉しかったです♪
また何か良い本が思い浮かんだら紹介してくださいね!!
| やぎっちょ | 2006/09/25 4:26 PM |

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