本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「空中庭園」角田光代
空中庭園
空中庭園
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 500
  • 発売日: 2005/07/08
  • 売上ランキング: 4,063
  • おすすめ度 4.22


あーちょっと暗い感想になったのですいません。最初に謝っておきます。

もうだいぶ前だが、彼氏が家に遊びに来たことがある。
母が「連れてこい」というので、無理矢理連れていったのだ。
そこで母はとんでもないことを言い出した。
「うちの娘は学歴だけは高いんですよ。あなたの学歴はねえ、
たいしたこと無いでしょう。それがねえ、後々気になってきたりするんじゃないかって。」
絶句。あーそれ本人を前にして言っちゃいますか。確かに私は学歴だけは「無駄に」高い、
だからこそ今まで婚期を逃していて、今回はそれを気にしない寛容な人をつかまえた、と
喜んでいたのに、それを言いますか。
もちろん大喧嘩。彼氏も激怒、そこから私の母とは冷戦状態に。

それからは、私は彼氏の話は家で一切しないけど、一見母とは友好な関係を続けている。
飼っているバカ犬を仲介して。犬を二人でかまって。一緒に暮らしてるから、仕方がない。
でも大げんかする前の私と母親の会話を聞いてた彼氏に、
「なんか奇妙に明るいなと思った」と言われたのが印象的だった。
私たち親子の確執はとっくの前からはじまってたのだ。でも奇妙に明るく取り繕って、
鈍感な人からみたら「仲のいい親子」に見えるんだろう。

そんな私がこの本を読んだら、ちょっとリアルすぎましたよ。
しばらく感想書けないくらいでした。

ダンチと呼ばれるマンションに住んでる、標準的な京橋家。
夫と、妻と、高校生の娘と、中学生の息子の4人家族。彼らは「隠し事をしない」
ことを信条に、例えば娘のマナが「ホテル野猿」というラブホで仕込まれたこととかを
あけっぴろげに話している、そんな家族。でも彼ら個人には一人一人、秘密があって。
透明な壁に阻まれた孤独な家族の姿を、それぞれの視点から描いた小説。

妻の絵里子。37歳。母はバスで乗っていける場所に一人で住んでいて、
しょっちゅう絵里子を電話で呼びつける。仕方なく絵里子は行くけれど、
母と絵里子の間にはものすごい確執があって、絵里子はいつになったらこの呪縛から
逃れられるんだろう、といつも思っている。
その確執は、何か決定的なことがあったわけじゃない。絵里子にとっては
強烈な思い出でも、誰の家でもありそうな、いかにも母が犯しがちな間違いだ。
そして母は「娘には申し訳ないことを」とは思ってるけど、そこまで娘が自分を
遠ざけてるとは気づいてもいないし、人間として母として、ちょっとおかしなところも
あるけど、すごく異常ってわけでもない、普通のおばあちゃんに思える。
その、二人の普通さ、それが少しずつ食い違って決定的な溝となっていく、
その普通さがなんだかとても迫ってきて、すごく怖かった。
自分と母との溝まで見せつけられたような気がしたのだった。

その絵里子は、高校卒業後緻密な計画的妊娠を遂げ(ホテル野猿で)、
出来ちゃった結婚をし、母から逃げ出す。
そして、自分こそは理想の家庭を作ろうとする。そして、隠し事のない、
子どもたちも素直な、一見理想の家庭が出来たような気になっている。が、
一人一人の視点でみてみると、その家庭は見事にぶっ壊れているのだ。
夫の不倫相手の三奈の視点から描いた一編でそれは浮き彫りにされる。
三奈も、かわいい子ぶりつつ醒めた目線で世の中を見ていて、彼女の人柄だけでも
興味深かったが、家族というものを全く信じていない彼女が、家庭教師として
京橋家に入り込んで、そこで、理想的に見えてどこか狂っている家族を見る。
家族の内側からの視点だけでは、この家族のおかしさ、この肌寒さは表現できなかったと思う。

それでも、理想的な家族と信じて、ベランダのガーデニングにいそしむ絵里子。
そのベランダは、外から見ても、常に美しくあらねばならない。絵里子が執拗にベランダを
いじる姿に彼女の狂気や闇を垣間見てしまう。美しい空中庭園。しかし。

家族それぞれの視点に立っていたけど、私はどの編を読んでも絵里子の感情が
浮き出てくる気がして、落ち着かなかった。最後の章、息子のコウの視点で
絵里子の母親が入院する。その時の絵里子の心情が、ちょっとした動作で
こっちに伝わってくるように描かれてる。母の入院、母はもう助からないかもしれない、
やっと母の呪縛から逃れられる、でも、といった複雑な心情が、迫ってきた気がして、
最後までずっと私は怖かった。とにかく、母と娘の関係性が、リアルすぎた。
家族が抱える闇、そしてなんだか、私自身の闇の部分にまでずけずけと
踏み込まれるような感じがしてしまったのだ。

価値観の違う母を疎ましく思い、自分以外に母の面倒を見る者がいないことに絶望すら感じ、
でもそんな母に育てられて影響を受けまくってるであろう自分への嫌悪感もあり、
物質的にも精神的にも逃げたいんだけど結局ずっと逃げられないという呪縛も感じ。
その反面、大事に育ててくれたであろう感謝の気持ちもあり、
素直に感謝できない罪悪感もひしめいていて、・・・暗い気分になってきた。

乙一じゃないけど、角田さんにも黒角田と白角田とがあるような気がしている。
「この本が、世界に存在することに」あたりは白い。「対岸の彼女」は灰色、
そして黒角田の最高傑作がこの本じゃ無かろうか。と私は思ったりもする。
小説としての完成度の高さは群を抜いてる。そしてこの救いのなさ。真っ黒。

しかしなあ。ここで描かれる男はなんて呑気なものか。絵里子の旦那なんて、あほすぎる。
でも男は気楽でいいよなあ、なんて、うらやましくも感じてしまう。
男が全員あほやと言ってるわけじゃないけど、違いはひしひしと感じてしまった。

同じような形式の、家族が一人一人視点を変えて語っていく小説に
「厭世フレーバー」(三羽省吾著)があるが、あの話はなんだかんだいって、とても爽やかだった。
男性作家が書くとそうなって女性作家が書くとこうなるのかな、とか、
極端な話だけど思ったりもする。角田さんが女性代表?とかつっこみは多々入ると思うけど、
わりとそういう傾向ってあると思うのだ。家族に対する、男と女の温度差。

最近のベストセラー「東京タワー」リリー・フランキー著なんかも
思い出しつつ読んだんだけど、同じ母と子でも、母と息子の構図と母と娘の構図では
なんか雲泥の差なんだよな。息子は母を素直に愛することが出来るけど、
娘はそうではない、ような。堂々と「お母さん好きだー」と言える男性陣が
私はなんだかうらやましいのだ。だって、本来そうあるべきなんだもの。
| comments(9) | trackbacks(9) | 16:59 | category: 作家別・か行(角田光代) |
コメント
オンナの怖さが浮き彫りにされている小説ですよね。
確かにリリーさんの作品と比べると
より明確に男性と女性の違いが分かるかも。

オンナ親って、結局のところ、
もっとも身近なライバルなんですよね。

私もこの黒角田にやられてしまいました。
まともにくらうとかなりの衝撃ですよね、この作品。
| のりぞう | 2006/02/18 3:10 AM |

のりぞうさん
うーあんな親がライバルとは認めたくないが、でもそうかもしれません。母が私を産んだ年を過ぎたなあ、なんてことを最近は思います。
そう、黒角田はちょっとねえ、体力がないときついですね。女には特にだと思いますけど・・。
| ざれこ | 2006/02/19 3:52 AM |

はじめまして。愛読させていただいてます。TBさせていただきました。私は角田光代の中ではこれが一番です。ここまで母娘の関係を踏み込んで書いてくれるのがうれしいです(苦しいけど)。

リリーさんのオカン本で泣けないのは、やはり息子と娘の違いかも、と思いました。父と息子、母と娘はライバルってことは、外国文学では結構普通に描かれているのでは、と思います(具体的には思い出しませんが)。日本では母信仰が強くて、どろどろとは書けないのかも。
| バーバママ | 2006/02/20 10:17 AM |

バーバママさん
はじめまして。コメントありがとうございました。
確かに日本では母親信仰強いですよね。なんかわかります。「おかん、うざい」って大声で言えない雰囲気があるような(笑)男社会だからかなあ。
ここまでどろどろと書かれた本は初めて読んだ、くらいですかね。強烈でした。でも好きです。この本。
| ざれこ | 2006/02/22 11:36 AM |

黒角田ってわかる気がします。
これは明るく書いてあるわりには、重たい内容ですよね。
TBさせてもらいます。
| みわ | 2006/02/25 1:40 AM |

ハチャメチャであっけらかんと重いテーマが見えてきますね。
でも面白くて、一気に読んでしまいました。
ホテル野猿は、ウチからちょっと行った所に
実在します(笑)
読み方は(やえん)ですけど。
読んでいて驚いちゃいました・・・。
| このみ。 | 2006/02/28 1:16 AM |

ざれこさん、こんばんは。以前、姫野さんの「桃」でトラバさせて頂きました、つなです。
「空中庭園」の絵里子と母の関係は切なかったです。ざれこさんも仰っているとおり、母と娘の関係は何だかとってもややこしいのはなぜでしょう。母と息子のようには、すっきりいかないのですよね〜。でも、端から見ると、絵里子の兄の言うように「仲良いでしょ」ということにもなるし。
私は角田さんを「対岸の彼女」とこれ一冊しかまだ読んでいないのですが、「対岸の彼女」でも白ではなく灰色なのですね。角田さん、これから色々読んでみたいなぁ、と思いました。
*トラバさせていただきました。
| つな | 2006/03/05 10:41 PM |

つなさん
そうですよね。母娘で仲のいい、そっくりな親子が歩いてたりすると、なんだか胡散臭く感じてしまう私です(笑)どこもいろいろあるんだと思ってしまうし、本当に仲がいい方が気持ちが悪い気がします。ま、息子がべったりでも別の意味で怖いんですけど(笑)。
「対岸の彼女」は、ぴりっと黒い部分もありつつ、読後感はとてもよかったですよね。黒い部分も飲み込んで前向きなラストに持っていった、すごくいい小説でした。私も角田さんはたくさん読んでいきたいです。
| ざれこ | 2006/03/06 1:59 AM |

ざれこさん はじめまして 愛読させて頂いてます。TBさせて頂きました。この作品確かにリアルすぎますよね。でも私もこの本好きです。また色々感想を教えてください。
| ジョンレモン | 2006/03/13 4:30 PM |

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