本を読む女。改訂版

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# 「イトウの恋」中島京子
イトウの恋
イトウの恋
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2005/03
  • 売上ランキング: 100,055
  • おすすめ度 3.67


祖父の部屋から「イトウ」なる人物の手記を発見した中学社会科教諭の久保耕平、
実働部員1名の郷土部の教材にそれを使おうと思い立つ。
イトウとは伊藤亀吉、通訳をやっており、明治時代にIBという女性探検家と
東北へ旅したの思い出や、IBへの淡い恋心、がその手記には綴られているが、
後半部分が存在しなかった。
後半部分を探すうち、劇画の原作を手がける田中シゲルがイトウの血縁だと判明、
久保は嬉々としてシゲルに連絡をとるが、30代の今時の女性であるシゲルは
なかなか興味を示さない。しかもイトウの孫娘、シゲルの母はシゲルが幼いころ、
シゲルを捨てて家を出ていたのだった。

と、現代の子孫達の物語、そして明治時代のイトウの淡い恋を交互に描いた小説。
最近読んだ「赤い竪琴」になんとなく似ている構成だなあ、そういや表紙の色まで
同じだ、この2冊を薦めて下さった人まで同じだ(七生子さんに感謝)
なんて思いながら読んでいた。中島京子氏、初読みである。
現在と過去の描き方がだいぶ異なっていて、その差を楽しみつつ読んだ。
現在では、妙齢の、でも男らしい女性、田中シゲルと、同年代の冴えない教師、
熱血はしてるが空回りしている教師の久保耕平の二人が、最初はお互い
全く話がかみ合わない二人なんだけど、過去の手記について二人で考えて、
一緒にすごすうち、なんとなくお互い居心地がよくなってくる。
二人のたたずまいも会話もなんだか飄々としていて、こちらも居心地が良い。

うって変わって過去のイトウの手記は、老人になったイトウが回想をしているがために
少し薄れてはいるが、それでも恋をしている者の切実さに溢れている。
IBと旅を続けるイトウは、英語というイトウにとっては異世界の言語で話しているが、
親密になるうちに、だんだんと二人だけの言葉が生まれてきて、例えば「鶏肉」と言ったときに
二人が美味しい鶏肉を食べたこととか鶏をつかまえようとした思い出が
一瞬にしてよみがえったり、というような、ただの言葉が二人のたくさんの記憶と
重なって深い意味をもつというような。そういう関係が築かれていって、
ああいいなあ、こういう絆っていいなあ、ってすごく思ったものだった。
二人は年齢が一回りも離れていて、生まれた国も文化も違うし、言葉まで違う。
でも人が惹かれあうというのはそういうことではないのだ、もっと深いところなんだ。
なんてうらやましく思う、そんな恋の顛末。

イトウの手記に出てくる、Dという女性の記述が興味深い。
後に連続殺人で捕らえられ、男をたらしこんだ「毒婦」と言われて、
処刑の後性器が取り出された女性。
彼女とイトウは、イトウが若い頃出会っており、現在有名になった「毒婦」の
イメージとは少し違う彼女の姿が描かれている。
それを読んで現在の田中シゲルは「女の愛欲ってなんだろう」的な、違和感を感じるんだけど、
現在でもシゲルの母は、父と娘を捨てて家を出ていて、手記を探すために
母の行方を捜すことになったシゲルは、よりそんなことを思うようになるのだ。
そして自分もそろそろ、「女」であり「母親」である自分と折り合いをつけよう、と。

なんかそのシゲルの気持ちは同年代として共感できるような気がした。
この本で描かれている女の情念、からっとした文体だからおどろおどろしくはないものの、
私も考えさせられる。
シゲルの母は「母になっても女をやめることができなかった」なんてことを言う人もいたけど、
「母」と「女」は両立できないの?
恋に溺れることが「女」の特質なの?男は違うの?女、って、なんだろう。
なんてことを思わず考えた。

IBとイトウの恋の顛末を読んでいた、シゲルの母は、何を思ったんだろう。
恋に生き、女だった自分を思い出しただろうか。

このイトウの手記、どうやら実在の歴史を参考にしたものらしい。
こういう、実在の人物をモデルとした小説というのは、虚構と現実の境界が
曖昧になって、もしや全部現実だったかも知れない、という夢を見られるから、
なかなかの浪漫なのだ。私、こういう系の作品好きなんだよなあ。

イトウのモデルは伊藤鶴吉(写真と紹介はこちら)、女性探検家イザベラ・バードとともに、
東北、北海道まで旅行した通訳者である。イザベラ・バードがのちに記した、
「日本奥地紀行」(この本で言う「秘境」であろう)にItoとして登場するのだ。
彼とイザベラとの間にこの本のようなことがもしやあったのか?と想像するのも、
なかなか楽しいではないか。

そして、イトウの手記に出てくる「D」なる人物のモデルは、高橋お伝という人物。記事はこちら
実際に当時横浜で、らい病の夫とともに暮らしていたようだ。そして、
本当に東大に性器がホルマリン漬けされてあるらしいです。性器を残してどうするのかねえ。
彼女の持っていた「女」の部分は、性器ではなくて心にあるはずなのに。
| comments(0) | trackbacks(2) | 14:08 | category: 作家別・な行(中島京子) |
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中島京子『イトウの恋』
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