本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ニッポン硬貨の謎」北村薫
ニッポン硬貨の謎
ニッポン硬貨の謎
  • 発売元: 東京創元社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2005/06/30
  • 売上ランキング: 15,864
  • おすすめ度 3.83


ご存じでしょうが、予習が必要です。
私が考える予習本をラストに挙げておきますんで、北村薫は好きだけど
エラリー・クイーンは知らない、と言う方、参考にしてみて下さいな。

この本に興味を持ったのは「競作五十円玉二十枚の謎」を読んだからだった。
若竹七海が実際に本屋でバイトしている時に出会った、土曜日の夕方に必ずやってきて、
五十円玉二十枚を差し出して「千円札に両替して下さい」という男。
彼は一体なんの目的でそんなことをしているのか?
この謎の解決編が雑誌で公募され、その入選作と、また法月倫太郎、有栖川有栖などの
豪華作家がこぞって書いた解決編も一緒に載せられた、変わったアンソロジー集だ。
北村氏はその謎が提示された場所にいたにもかかわらず、また某作家の書いた
解決編ではその犯人にまでされた!にも関わらず、そのアンソロジーには参加していなかった。
北村ファンとしては「そこまでいじられて何故書かない?」と不思議に思っていたが、
やっと北村薫が謎を解いたという。それがこれ、「ニッポン硬貨の謎」なのだった。

ここで北村氏はすごい離れ業をやってのける。ミステリ界の巨匠、エラリー・クイーンが
来日時にその謎を解いてしまう、というむちゃをやってしまうのだ。
経緯がまたすごい。創元推理文庫によく出てくる戸川氏が、北村氏に
「未発表のエラリー・クイーンの原稿が発見された、それを訳してもらいたい」と
依頼にやってくる。しかもそれは国名シリーズの未発表作、舞台は日本。
エラリーが日本滞在中に起こった事件を解決した実話だというではないか。
北村氏は嬉々としてそれを引き受け、10年の歳月をかけて翻訳、
出版されたという経緯をとっている。そして最初の文章を読むと、
まさに「読みづらい訳文」でエラリーと父親の警視との会話が語られ、
ちょっと前に「シャム双子の謎」を読んだ私が「またかよ」と思ってしまうほど
見事に「読みづらい」のだ。そっくりの文体。

しかしその経緯すら全て北村氏の創作なのだ。その読みづらい訳文すら、である。
いやー実に遊び心満載のなんともすごい本でしたよ。
このミステリがすごい!2006年版の「バカミス」一位に選ばれてしまったらしいが、
納得の内容ですよ。いやー、あほですよほんま。(大阪流褒め言葉)
読みづらい文体はしかし、やっぱり、特に北村氏みたいな美しい文章を書ける人には
苦しかったんであろう、だんだんと読みやすくなってきて、私もすらすらと読むことができた。

エラリー・クイーンが来日して、若手ミステリファンと歓談をする。
そこで女子大生小町奈々子がクイーンの著作である「シャム双子の謎」について
見事な推理を展開し、奈々子が気に入ったクイーンは翌日の通訳につける。
そして上野動物園に行くのだが、そこで連続幼児誘拐殺人事件に関わることとなり、
更にそれが奈々子が体験した「五十円玉二十枚の謎」と絡んでくることになろうとは・・

と、なかなかスケールのでかい話なのだった。
話の大筋はおいておいても、細かい描写とか、執拗についた注釈とかが
いちいち面白い。クイーンが日本を誤解している箇所が多々ある、それを苦心して
訳したという設定になってるので、「それ俳句ちゃうし」って激しくつっこみたくなる
ハイクがしかも警部の頭からでてきたり(日本人は誰でも俳句をひねってるわけじゃない)
奈々子がバイト先に「早く帰らせて下さい」と畳に三つ指ついて謝ったり、
それを「仕方ないなあ」って感じで訳してる北村薫の注釈が入ったりして、
その細かい気の配りようがけっこう笑えるのだ。遊び心満載。

そして、もちろんエラリー・クイーン論としても白熱。主人公、作家であり探偵でもある
エラリーが昔起こった事件を思い出すくだりが頻発する。
(特に「九尾の猫」が思い出深かったようだ)
著者北村薫氏の読書量のすさまじさは有名ですけど、ミステリにかける情熱は
やはり半端じゃないですね。ただのオタク?って言っちゃえばおしまいですけど、
名探偵が挑んだ数々の印象的なシーンをこういう風に本人に回想させる
そのさりげないセンスというか、その遊び心もすごく買いたいです。
エラリー・クイーンを全作読んでる人ならすごく楽しい本やと思いますよ。
読んでない私ですら、楽しそうやなあって思ってそれを楽しめましたもん。

そしてその、この複雑な事件をどう着地させるか、も読みどころの一つでしたが、
着地先はまた奇想天外な解決というか・・・東京からそこまで行きますか、普通?
ちょっと二時間ドラマ的な、えらい派手な展開と思っちゃったのは私だけ?
こういう奇想天外さもクイーン作品の魅力なんでしょうか?
ファンならほくそ笑むところなのかなあ。
言葉への先入観、をうまく利用した展開にはにやりでしたが。

そして、本全体への仕掛けに気づいたときにも、にやりでした。
読んでいたら、途中でどうしても最初についてる「リア王」の引用部分を
ページを戻して読みたくなる場面があるんですが、それを最後にもう一回やってみたら、
何か気づくことがあると思いますよ。私はだいぶあとでふと思い立ったんですが、
思わず膝を打ちましたねー

五十円玉二十枚の謎については、なるほど、こういう状況でこう展開してくれれば
納得できる内容でした。おそらく競作の中でも一番、筋道だった解決だったとは思います。
ただいかんせん展開が派手すぎて、現実に五十円玉二十枚を両替していた人の意図は
こうではなかったであろう、ことは明らか。もちろんそれは北村氏もわかってのことでしょうね。
こういう飛躍的発想もあるよー。という意味で、楽しませてもらいました。

しかし実際のところ、なんで五十円玉二十枚を両替してたのか?
事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、結局誰も想像のつかない、
でもひどく日常的な理由が潜んでるんだろうなあ、と思うと、ますます気になるのが
困ったところですね。本人が暴露してくれないかなあ。
トイレのティッシュ自販機をまるまる盗んで使い道に困った、ってのが
私としては一番推したい説ですが、なんで土曜日かは・・若竹氏が気に入った、としか
考えられないかなー。気になるなあ。きっと聞いたらくだらない理由なんでしょうね。

最後に、戸川氏のあとがき、書きたい気持ちはとてもわかるし興味深いんですが、
よけいだったかなあ。どうせだったら、本全体で「これは未発表作品を訳したもの」という
嘘を貫き通して欲しかったな。と私は思いました。

さて、予習本一覧です。

□必読本
シャム双子の謎」エラリー・クイーン
競作五十円玉二十枚の謎」若竹七海 ほか

□読んでおいた方がより楽しめる本
「シャム双子の謎」以外の国名シリーズ一冊以上 エラリー・クイーン
→「シャム双子」は国名シリーズでは異色の作品らしく、他の典型的な
国名シリーズとの「違い」から端を発して、「シャム双子」論が語られます。
他も一冊以上は読んでおいた方がいいんでしょうね。私は読んでおらず、残念。

九尾の猫」「緋文字」エラリー・クイーン
→「九尾の猫」は本筋とは関係ないですが、よく作中のエラリーが回想します。
「緋文字」はラストの展開を深く読み解くには必須なんだろうと思います。
どちらも私は読んでいません。

僧正殺人事件」「カブト虫殺人事件」ヴァン・ダイン
→「シャム双子」論を語る際にネタばれ込みで登場する2冊です。
このあと読むつもりなら少し用心を。私は(買ったくせに)読んでなかったですけど、
思ったほど比重は高くありませんでした。

クイーンの色紙」鮎川哲也
→「このミステリがすごい」では必読本としてあげられてましたが、
確かにちょっとにやりとはできますね、読んでると。でも本筋には絡まない気がします。

□あと、余裕があれば
エラリークイーン全作品 
国名シリーズ、エラリー・クイーン活躍のシリーズ、
更に「Xの悲劇」「Yの悲劇」あたりも。いわずもがなですがね。
| comments(8) | trackbacks(4) | 16:03 | category: 作家別・か行(北村薫) |
コメント
古典本格ミステリを読んでこなかった人(ぼく)には、ちょっとなんだかなぁの作品でした。
ざれこさんのおっしゃるとおり、最後まで、嘘に徹しきってほしかったですね。「廃用身」(久坂部羊)なみに。
| すの | 2006/02/11 6:49 PM |

すのさん
私も本格ミステリにはあまりなじみがないもので、「予習がいるのかよ」とちょっと困ってしまいましたが、でも北村氏が楽しんで書いたんだなあ、ってのがわかって、なかなか楽しかったです。プロは遊ぶ時も徹底して遊びますよね(笑)
確かに嘘に徹して欲しかったです。「廃用身」って衝撃的な内容だった気がしますけど、そうなんですか?読んでみますね。
| ざれこ | 2006/02/13 12:53 AM |

もぅ、難しいやら、可笑しいやら、感心するやら
大忙しの一冊でした。

北村さんの翻訳調、本物みたいで
わかって読んでいながらすぅっと騙されそうな気分に何度もなりました。

謎のご本人が名乗り出て謎解きをしてくれないかしら。
| ふらっと | 2006/02/13 8:43 PM |

ふらっとさん
そうそう、翻訳調、何度も噴出しそうになりました。面白すぎますよね。
謎自体が出てきたのがだいぶ前ですから、(15年くらい前?)ご本人はもうだいぶお年なのでは・・。ご自分のことが本になってるなんて知らないんでしょうねえ。(笑)
| ざれこ | 2006/02/15 1:11 AM |

ブログルポから来ました。

北村さんの円紫師匠と私だとか、いかにも小説な本は好きなのですが、他のはなかなか手がすすまず、これも読んだことがありませんでした。
でもこの記事読んで気になってきました。
しかも翻訳調ていうのが面白そうですね。
でも、本格古典とかが好きじゃないので予習かぁ。
悩みます。←いや、悩んでないで読めよw;
| 藤村 | 2006/03/01 8:33 AM |

藤村さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
この作品は円紫師匠の作品群とは少し雰囲気が違うので(でも探偵と女子大生のコンビではありますが)それを期待されるとどうかなあ、と思うのですが。
でも面白かったですよ。予習しないといけない分、達成感があります(笑)予習で挫折してしまったらあれですけど。好きじゃないなら無理はなさらないで下さいね・・
| ざれこ | 2006/03/02 12:37 AM |

こんにちは。
「ニッポン硬貨の謎」の記事をトラックバックさせていただきます。
私も苦労しました。
(「シャム双子の謎」を読まずに読んでしまったふとどき者!)
昔読んだ「五十円玉」や「悲劇」シリーズの記憶を思い出しながら何とか。
コメントやTB返しなどいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
| 藍色 | 2006/04/23 10:46 AM |

藍色さん
私は「シャム双子の謎」しか読まずに読みましたよ。確かに「シャム」読んでないときつかったでしょうけど、昔からクイーンを読まれてる方の方が結局楽しめるんじゃないかなと思いました。
TBありがとうございました。
| ざれこ | 2006/04/24 9:58 AM |

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