本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「ハルカ・エイティ」姫野カオルコ
ハルカ・エイティ
ハルカ・エイティ
  • 発売元: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/10/14
  • 売上ランキング: 194,793
  • おすすめ度 5


私の祖母は83歳(くらい、忘れた)で今は朗らかに惚けている。
祖母は戦争で夫(つまり私の祖父)を亡くし、それから女手一つで私の母を育て、
多分かなり苦労したんであろうが、何もかも忘れてしまって惚けている。

祖母が元気だった時に聞いた話。
祖父との間に母が出来たあと、祖父は戦争に行った。母を無事出産して、その後のある日、
祖母は原因不明の熱に突然うなされた。何日も高熱が下がらず、布団は汗でびっしょりで
しょっちゅう取り替えた、というくらいの熱だ。
もうだめか、と周囲は思ったようだが、ある日、冗談みたいに熱が下がった。
うなされていた時に祖母は夢を見た。陸軍であるはずの夫が船に乗ってやってきて、
会いに来てくれる。そして「今から靖国神社に行ってくる」と言って去っていく。
そして、熱が下がって数日たって、祖父の戦死の知らせが届いた。
陸軍だが船で移送中に船が沈没したという話で、船が沈没し、祖父の遺品が
海から発見される時期まで、祖母は熱を出していたのだった。
「海の中はびしょぬれやからなあ、だから私も汗まみれになったんやわ」
祖母は普通にそんな思い出話をしてくれた。いやいや、すごい話やって。
戦争というと私の世代だったら、すごく特別なドラマのように思うけども、
祖母の時代だったら、戦争が日常だったんだよなあ、なんてことを、
この本「ハルカ・エイティ」を読んで思った。実感した。
そんなの当たり前なんだけど、戦争記ってなんだかすごく特別で、
波瀾万丈で、っていうイメージで今まで読んでいたのだ。
でもこの小説を読んでやっと、そんな実感がわいたのだった。

この小説の主人公ハルカも、空襲に遭ったり夫が戦地に赴いたりするけど、
それはその当時の当たり前のことであって、ハルカはすごく平均的な
日本の女であったと思う。ちょっと、背が高いだけだ(これは姫野作品の特徴だ)
最初、いきなりハルカは80代で登場するのだが、なんだか山田詠美作品に
出てくるおばあちゃんみたいで(つまりむっちゃカッコイイ)びっくりして、
どんな人生やねん、と思っちゃったけど、意外に普通やったな。

ハルカはちょっといい中学校(今の時代では高校)に通っていて、
革靴が8割のところハルカは少数派のゴム靴だったりしたのだが、
そこで豪邸に住む子爵のお嬢様とか、父が教授の才女とか、やたら美人の人とか、
そういう女子達とつるんでいて、彼女たちへのラブレターをいつも受け取って
仲介する側に回ってしまっていた。でもそんな中、自分を卑下もしないで、
身の丈にあった幸せを探そう、とハルカは自然に思うようになっていく。

ハルカは平凡な人生を歩むことになるんだけど、非凡といえばその、
身の丈にあった幸せ、をあっさり受け入れて前向きに生きていける、
そして人の長所を知らぬうちに探し出してしまいその人を受け入れてしまう、
そんなところにあるんだと思う。その性格がとても前向きで、
すごく好感の持てる人なんだよね。ハルカって。
まあだから、夫の浮気を「しょがない」って諦めちゃったりするんだけどさ・・。

身の丈にあった幸せってなかなか受け入れられへんよね。
自分の身の丈って所詮この程度、ってのは気づいちゃいるけど、
なかなか認めたくはないじゃないですか。この年になっても。私だけですかね?
夢はみたいんだよなー。玉の輿に乗るとか、起業して成功して金が儲かるとか、
誰もが思うところでは宝くじがあたる、とか。つい思っちゃうけど、
所詮自分ってこの程度よ、てのを前向きに受け止められたら、
人生楽になるのかもしれないねえ。

そんなハルカがたどった、波乱万丈でもあり平凡でもある人生。
妻であり母にもなったが、「女」にはなっていなかった30代のハルカが
夫以外の男と出会い女に目覚めるあたりの描写はさすが姫野さんだ。
「ツ、イ、ラ、ク」では中学生の性の目覚めを描き、ここでは30代。
いつの年でも関係ない、本当に恋をすることとはどういうことか、を
色っぽくも切なくもきっちりと描ききれる姫野さんの筆力、すごいの一言。
社交的じゃなくてニヒルな男をもってくるあたりむっちゃベタなんやけど、
狙ってんだろうかねえ。典型的不倫男だよなー。

そんなハルカの初めての恋が終わった時、夫と語りあうシーンがすごく印象に残ってる。
こんな夫婦ならいいじゃない?
夫も妻も不倫をしてる、そんな夫婦だからこれは語彙があるかもしれないけど、
理想、だよな。お互いがそうやって「しょうがなく」他の人と会ったりしちゃうけど、
大切なのは夫であり妻であるってのはお互いわかってるのだ。
そんな二人の時間を、最後の会話が示してくれる。
「そう、あれですよ、あれ」
「そうか、あれか」
この会話はうまい。胸にじーんと染みてしまった。
恋をしたわけでもないけど、大切な家族になった。そんな夫婦。

これ読んでからおばあちゃんをみてると、きっとおばあちゃんも、
波乱万丈かつ平凡な人生をたどって、今ここでにこにこと笑ってるんだな、と思える。
戦後すぐから、自分で働かないといけなかったおばあちゃんの苦労は、
恵まれた現代をなよっと生きてる私にはちょっと想像つかない。
こうやって、祖母の人生を顧みたくなってしまうこの小説、
派手さはないけども、心に染みいる名著。
姫野さんはどんどん、すごい境地に達していくなあ。

あ、でも出てくる人たちの個性を列挙すると、いつもの姫野さんっぽいかも。
いつも女性(α)がパラソルをさしかけてくれてる超大金持ち日向子の
はじけっぷりと、そのインテリ夫には笑わせてもらったし、
(ハルカがその夫を見て一番に思ったことは「犯人!」だったし。大笑い)
才女の由里子さん、悪い方にばっかり考える偏屈妹の時子も印象的。
女が強い、女が幸せになれちゃう、そんな本です。

※直木賞候補になるかな?本命、悲願達成と思われるH氏の傑作が
選考委員W氏の意地悪で落ちちゃった時に、ぽんと取っちゃうかも。
どっちも文芸春秋だから、W受賞はないような気もするし。
| comments(10) | trackbacks(7) | 21:14 | category: 作家別・は行(姫野カオルコ) |
コメント
ざれこさんのおばあ様の話…すごいです。なんだか梨木香歩さんの「西の魔女が死んだ」のおばあさんのエピソードもちょっと思い出してしまいました。

最後のイニシャルトーク、好きです。W氏…「メッタ斬り!」下半身ご意見番ですよね?
| なな | 2005/12/24 12:08 AM |

直木賞…いってほしいんですけどねぇ!!!
大好きなので…!
| chiekoa | 2005/12/26 1:02 PM |

ななさん
そう、W氏はあの人です。選考委員はW氏に限らずなんだか理不尽な感じなんで、H氏も最高傑作といえども油断はできないと思っています。って、なんだかえらそうですけど私(笑)

chiekoaさん
お薦めありがとうございました。いやあ、よかったです。直木賞いって欲しいかも。でもどっちにしてもまたいい本を書いてくれるでしょうし、次作が楽しみです。
最近の姫野さんには風格すら漂ってきた(今までは・・?)気がしますし。
| ざれこ | 2005/12/29 5:14 PM |

はじめまして。

姫野カオルコ処女三部作が、我がことの様に思われる30歳負け組です。ふ。

ハルカ・エイティ、2005年の読み納めにしようと思いながら、なぜかその時期、海外児童文学を怒涛のように読む事態に陥り、忘れてました。
今週末、図書館行ってしっかり予約してきます!

で、話は飛びますが、
姫野カオルコの短編の中に、「コキール」という洋風の料理が出てくるんですが、こないだ京都の「グリル小宝」ってお店に行った時、メニュー見たら載ってたので、頼んでみました。
姫野カオルコの描写そのまんまのノスタルジックな一皿でした。ほんとに、この人の文章表現はリアリティありますよね。

これから、書評ほかいろいろ、読ませていただきます。よろしくです。
| cactus | 2006/02/20 5:03 PM |

cactusさん
はじめまして。30歳負け犬には処女三部作はきついですよね。私も姫野さんにはやられっぱなしの31歳負け犬です。
この本はいつもと雰囲気違いますけど、でもやっぱりやられました。女の幸せって・・?みたいな。

「コキール」が出てきた短編は私は記憶にないのですが、ネットで調べたら美味しそうでした。私も食べたい。いや、つうか姫野さんの表現力の話でしたね(笑)
| ざれこ | 2006/02/22 11:50 AM |

ハルカを待ちながら・・・31歳負け犬になりましたcuctusです。
図書館で予約してほぼ2月、やっと私のところにめぐってきました。
こんだけ待ったんだから、用心してじっくりゆっくり味わいながら読まねば、と思ったものの、相変わらずの姫野節に、一気にページが進んでしまいます。
ハルカの感覚がまるでわが身の感覚のように、そうそう、そう(だった)よね〜と、電車の中で銀行の待合ベンチの上で、うんうんとうなずきながら没入しております。
この時点で、かなり姫野ワールド的キャラクターなのであろう自分を、なかば諦めの境地で眺めている春でございます。

さて、話は変わって『博士の愛した数式』原作を読まずに映画で見ましたところ、マイ・ベスト・フィルム(随時更新)5位以内にランキングいたしました。
原作を読んだら、感動ふたたび、思い出し泣き、でしょうか。
では。
| cuctus | 2006/04/25 1:42 PM |

こんばんわ。
最近、読了したのでTBさせていただきました。
面白かったです。
姫野さんの作品は初めてでしたが、もっと読んでみたいと思いました。
| 苗坊 | 2006/05/15 12:15 AM |

cuctusさん(今更ですが)
博士、よかったですよねー。私もベストフィルム(邦画)のベスト10以内に入ってます。
で、ハルカ・エイティ、共感できるところがたくさんありましたよね。でも夫婦っていいなあってしんみりした哀しい負け犬でございました(苦笑)

苗坊さん
姫野さんははじめてでしたか。面白いですよー。まっとうなところでは「ツ、イ、ラ、ク」あたり、はじけたところでは「受難」がオススメ。あ、また受難を薦めてしまった・・。かなり個性的なんで、気に入らなかったらごめんなさい。
| ざれこ | 2006/05/16 10:25 AM |

女性の生き方として、すごくいい感じの作品ですね。
作者が女性だからこういう書き方になるのかな、と思いました。
トラバさせていただきました。またよろしくお願いします。
| 濫読ひで | 2006/07/16 11:15 AM |

濫読ひでさん
こんばんは。そうですね。夫婦っていいなあって素直に思えるいい作品でした。姫野さんが描く女性はかなりリアルだなあっていつも思います。脇役も個性的でステキな人たちばかりでしたし。
| ざれこ | 2006/07/18 1:16 AM |

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