本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「桃」姫野カオルコ
桃
  • 発売元: 角川書店
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2005/04/01
  • 売上ランキング: 30,530
  • おすすめ度 4.33


わたしたちはさんざんいやらしいことをした。

図書館で借りたので帯がついてなくて幸いでした。
桃の写真にこのコピーじゃ、電車で堂々と読めませんって。

この表紙が全て象徴しているような気がする、そんな短編集でした。
「ツ、イ、ラ、ク」とセットになってます。これだけ読んでも読めるし、
これだけ読むといろいろ想像を膨らませる分、また情緒溢れる読み方も
できると思うけど、やっぱりセットで読んだほうがいいかなと思う。
で、「ツ、イ、ラ、ク」→「桃」→「ツ、イ、ラ、ク」に戻るのが
たぶん正解。私も手元にあれば即戻ってたと思うんだけど、
図書館で借りたからなあ。

「ツ、イ、ラ、ク」で描かれている女子中学生の恋、について
彼女や彼を取り巻く周辺の人々が語る、彼らの像。そんな連作短編。
だから、これ読んでまた「ツ、イ、ラ、ク」に戻ると、より分厚く、
この世界を堪能できる気がするわけです。
読んでると、自分の中学生時代がまざまざと思い出されて、
ちょっとしばし本を閉じて「穴があったら入りたいモード」に入ってました。
いえ、私は「さんざんいやらしいこと」はしてません、でも、
中学時代って人生で一番葬りたい時期です。
ものすごく楽しかったけど、自分はものすごくやな奴だった。
自分の長所短所があそこまで生々しく出ていた時代はなかった。
何にもくるまずに私は私でそこにいた。最高で最低な時代だ。
穴があったら入りたい。

そもそも学校に行かない子だった。明確な反抗心があって行かないならともかく、
面倒だから、寝坊したから、行かなかった。当時は私みたいな子を
入れるカテゴリがなかったから中途半端な立場でいたけど、
引きこもりって名前をつけてくれたら、心置きなくこもってたと思う。
でも、中学1年の中間テストで勉強してないのに学年1番の成績をとり、
以降学校そのものを完全になめてた。授業に出たらこそこそ小説を読み、
そもそも授業に出ず、好きなクラブ活動(吹奏楽)だけ熱心にしていた私だが、
それでも成績は落ちなかった。教師にとってもクラスにとっても
かなりいやな奴部類に入ってた。でも自分の痛さに気付いてすらなかった。

中3の時はかなり調子に乗って休んでた。(部活動が終わったからだ)
3日連続くらいうだうださぼったとき、友達が見舞いに来てくれて
ノートを渡してくれた。で、翌日行ったら、その子がなんか怒ってる。
「なあ、自分(私のこと)、学校さぼって勉強してるんやろ。感じ悪いわ」
「え、そんなん全然してへんで」
「なんでよ、じゃあ私が行ったとき何でめがねかけてたん?」
・・・それは必殺仕事人の再放送を見てたからだ、毎日見てるのだ、
鍛冶屋の政に惚れているのだ。
そう言ったほうがいいのか言ったら火に油を注ぐのか、
わからなくて私は黙ってしまった。っていうか今思えばあほすぎる自分。

そんな、鍛冶屋の政に恋する私だったから(世間は光GENJI一色だったが)
恋だの愛だのはマンガか小説の世界でしかありえないものだった。
初恋は小学校で済ませたがあんなのは子どもの遊びであり、
恋だの愛だのその先にある愛欲だの、当時は想像すらおぼつかなかった。
そんなお子様の私だったが、周りの吹奏楽部の友達たちは、なんだか
先輩に恋して泣いてみたり、同級生に恋して振り回されてみたりしている。
悩みを聞きながらも、彼女達の気持ちがわからない、伝わらない。
今となっては、好きなもんは仕方がないとわかってるけど、当時は
「あんな男のどこがいいんだ?」と常に思っていた。
でも彼女達はあんな男のために泣いている。なんだか取り残されている私。

「青痣(しみ)」を読みつつ、私はそんなことを思い出していた。
同級生が恋をして大人になっていく。自分の知らない世界に行ってしまう。
それを憎憎しく思い陰口をたたかずにいられないその心境、
でも彼女が気になって仕方がないその心境、当時確かに感じたことがある。
でも、先を行ってる同級生がうらやましいだなんてことは絶対に言えない、
自分がそう思ってることすら認めたくない、そう思ってることが恥ずかしい。
そう、なんだか恥ずかしいのだ。自分が恋をしたいと思っていることそのものが、
なんだか恥ずかしい。20歳過ぎると平然と合コンに参加したり
幹事したりしてるのに、当時はそんなことを思うだけで恥ずかしいのだ。

懐かしかった。つらくなってしまうくらい、そんな時代が懐かしかった。
多分「ツ、イ、ラ、ク」より、そういう意味では心に残る作品集。
私は中学時代は薄汚い傍観者だったから。

私みたいに、読んだら中学時代がフラッシュバックすることでしょう。
それも苦い思い出が、です。多分。

しかし、姫野さん、「不倫(レンタル」」なんかの処女3部作とか、
「受難」とかで、性についてはかなり独特の感性をお持ちだなあ、と
思ってたんだけど。どっちかっていうと性行為そのものを皮肉って
笑い飛ばすというか、なんというか、照れてるのかな、とすら感じてたけど。
・・・でもこの作品で描かれた性は本当にいやらしい。
正面切って書いたらこれだけいやらしいものが書けるとは。びっくりした。
「高瀬舟、それから」の官能に浸ってみてください。
今の日経新聞の連載よりやらしいんじゃないかなあ。読んでないけど、多分。
いい意味でですが。

そういう意味も含めてですが、「ツ、イ、ラ、ク」「桃」で姫野さんは
より一段深いところに降りていったような気がします。小説自体も、
本当に深くて、薄汚くてでも美しい、熟した桃みたいな濃厚な味わいに
なってきたような。えらそうですけど、そんな気がしました。
| comments(13) | trackbacks(9) | 02:39 | category: 作家別・は行(姫野カオルコ) |
コメント
「さんざんいやらしいことをした」の帯がついてなくても、「高瀬舟、ふたたび」を電車の中で読むときには、周りの人に文字が見えないよう細く細く本を開いて読んでしまいました。かなり怪しかったと思います。
私は「青痣」だったかな「人はその場所に集まった人たちの中での自分のランクが一瞬にしてわかる」見たいな文章があって、それがすごく印象深いです。
| なな | 2005/11/06 8:23 AM |

「ツ、イ、ラ、ク」と「桃」は、自意識過剰だった昔の自分が恥ずかしくなるんですよ。
痛々しいまでの客観性で書かれているからかなぁと思うのですが。
 
日経新聞の連載は、読んでしまった私と、陶酔している主役男性と作者が、恥ずかしくなるんですよ。
徹底したナルシシズムで書かれているので。
| オプト | 2005/11/06 9:27 PM |

>ななさん
確かに電車ではためらわれる内容でしたね。
すいてたんで助かりましたが私も電車で読みました。
「自分のランク」かあ。無意識にわきまえて過ごしてますね。
そういう心理描写も嫌になるほどリアルですよね、姫野さんって。

>オプトさん
http://www.nikkei.co.jp/honshi/20041206ta7c6000_06.html
日経の連載、ここでざっと内容読んで絶句。なにこれ。絶倫自慢?
っていうか朝から電車であれの挿絵がちらちら見えて
「なんでこんな濡れ場ばっかり」って思ってますけど。
すいません、そもそも比べるなって感じでしたね。
| ざれこ | 2005/11/07 9:18 AM |

>引きこもりって名前をつけてくれたら、心置きなくこもってたと思う。

これ、分かる。私も、不登校とか登校拒否という言葉を知っていたら、きっと不登校になっていたと思うもの。
名前って、すごく不思議な存在だと思います。
| そら | 2005/11/07 9:42 AM |

そらさん
ですよね。昔は不登校ってカテゴリがなくて居心地悪かったんですよ。
「わけわからんけど休んでる奴」みたいな。仲間の存在も知らなかったし。
今中学生やったら私はまずかったですね。安心して休んでます(笑)
「ニート」だって名前つけてもらってちょっと安心したんやろなあと思ったりします。
今は「負け犬」カテゴリにいます。居心地いいです…
| ざれこ | 2005/11/07 12:03 PM |

私は日経読者なんで、微妙。
電車で新聞読んでるサラリーマンって好感度大だったのに、今は日経持ってるのがスポーツ新聞に見えて・・・(T_T)
しかも、今は何だか内容も面白くないんだな、これが。
私は姫野カオルコと内田春菊に、桃が熟しきって果汁がしたたり落ちる時に放つ、あの独特の匂いを感じます。
| ☆すぅ☆ | 2005/11/08 11:27 PM |

中学時代って、本当に葬り去りたいくらい恥ずかしい時期でした。それをここまで書かれて痛かった・・。

「ツ・イ・ラ・ク」の中で、高瀬舟の読書会の場面が妙にドキドキして印象に残っているのですが、この後にこんな展開があったとは!ここまで書いてくれるなんて姫野さんに感謝です。

日経の連載は、たぶんいやらしさのツボが全く違うんだと思います。あれは男の人向けなのかなぁ・・。
| june | 2005/11/10 3:48 PM |

TBありがとうございます。
なんで中学時代って思い出すと恥ずかしい記憶って
言う人が多いんでしょうね〜。
そういう私もそうですが。(笑)
不思議なことに、小学生の頃ってそういう記憶はないのですよ。
中学生くらいの年齢って、一番自意識やうぬぼれが強くて
不思議な年齢なのかもしれないですね。


| みわ | 2005/11/23 10:22 PM |

☆すぅ☆さん(いまさらですいません)
桃の熟したにおいってなんかわかりますー。姫野さんの昔の本には感じませんが、長命中学の2冊にはすごく感じる。内田春菊さんもそうですよね。確かに。絵がもうね、いやらしいもん。いい意味で。

juneさん(いまさらですいません)
「ツ、イ、ラ、ク」の高瀬舟のシーン、私もこないだ図書館で立ち読み!してきました。「桃」でその後の展開を知っちゃっただけに、更にどきどきしちゃいました。この2冊、手元にあったら交互にずっと読み続けそう(笑)

みわさん
そうなんです、小学校もたいがい恥ずかしい子どもだったはずなんですが、いい思い出しか残ってないですね。また、高校になるとこれもまた恥ずかしい恋愛なんかをしてるのに、いい思い出なんですよね。
中学では特に恋もしてなかったのになんでだろうー。自意識過剰でむき出しな時期なんでしょうかねえ。
| ざれこ | 2005/11/23 11:25 PM |

「世帯主が…」もけっこう印象的でした。
姫野さんは女性なのになんでこんなにすごい男性視点で書けるんだろうと…。
しみじみすごかったです。
大黒柱とか、妻とか夫とかじゃなくて、世帯主って単語がすでにすごいですよね〜。
| chiekoa | 2005/11/25 5:14 PM |

世帯主・・ってあれですよね、夏目雪之丞ですよね。あれ強烈でしたねー
世帯主、確かにこんな言葉思いつきませんね。姫野さんってジェンダー的視点が強い気がしますが気のせいかな?性とはなんぞや、っていつも考えてる感じがするんですけど。それでこういう言葉になるのかもしれない、と私はちらっと思いました。
| ざれこ | 2005/11/26 2:22 AM |

あちこちでお名前は拝見していたのですが、はじめまして。
みわさんの所から、「桃」のトラバで飛んできました。
ざれこさんの記事を読んで、じーんとしました。
姫野さんは、本当に「恥ずかしい思い出」を引き摺りだす作家さんですよね。
恥ずかしい思い出の無い、健全な人には縁の無い小説かもしれませんが(でも、そんな人はいないのかしら)、自意識過剰で、恥ずかしい痛い思い出を持つ人間には、ぐっさりくる小説だなぁ、と思いました。
*「桃」、トラックバックさせていただきました。
| つな | 2005/12/13 8:41 AM |

つなさん
はじめまして。ご挨拶遅れてごめんなさい。ご訪問ありがとうございました。
恥ずかしい思い出のない人なんているんですかねえ。
いたらうらやましいような、でも人生損してるような気もしますね。
ではでは、また今後ともよろしくお願いします。
| ざれこ | 2005/12/16 2:07 PM |

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