本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「疾走」重松清
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まず気になるのは映画化だ。この作品の主演にジャニーズを据えるなんて、
SABU監督、いくらV6の映画撮ったからってそりゃないんじゃ?と思ってたら
主演の手越くんはSABU監督たっての要望で抜擢されたらしい。
イメージにあってたんかなあ。この主役の少年を演じるのは並の演技力じゃ無理だ。
しかし、映画の情報を知ってたもんだから、登場人物が演じる俳優とかぶり、
脳内イメージはかなり限定されてしまった。
だって、神父役のトヨエツ、そしてアカネ役の中谷美紀、あまりにもぴったりすぎです。
映画観ようっと。
さて、本の感想に戻る。今までに読んだことのなかった重松清。衝撃的。
いつも重松作品ではラストには温かさが際だつが、今回は違ったなあ。
なんとも切ないというか、やりきれなさが残る。
でも重松作品は温かいって言ったけども、現実の厳しさを容赦なく読者に
たたきつけるような側面は確かにあって、この上下巻ではその容赦のないところだけが
ぎゅっと濃縮されてしまったような気がした。
だから根底に流れるものは、きっと同じなんだろうけど。

二人称で語られる。主人公のシュウジを「おまえ」と呼ぶ存在が、
ずっとシュウジを俯瞰しているような形をとる。
教会が出てきて、聖書が重要なモチーフになっているだけに、「おまえ」と呼ぶ存在に
思わず「神」を思ってしまう。神、のようなもの。
運命を全て知っているけど、ただそれを眺めているだけの、一つ上にいる、存在。
過酷な運命に翻弄されていくシュウジを、そういった目で見ることで、
突き放したような冷たさと、見守る視線の温かさが混じる。
なんだろう、その目論見はきっと成功したのだろう、なんだか読んでる間、
ずっと自分の尻が落ち着かない感じがした。もぞもぞした。違和感。
誰か大きなものに私も見られてるような不思議な感覚。
宗教を全く信じない私すら落ち着かなくさせる、大きな存在を思う。

その感覚は最後には氷解するが、ほんの少しの「なんだ」って気持ちとともに、
感動が上乗せされた気がしたことは触れねばなるまい。

その存在が見守るシュウジは、「沖」と「浜」が対立する干拓の町で育つ。
幼い頃に鬼ケンというならず者とアカネという情婦にトラックに乗せてもらい、
干拓の町を疾走した記憶が薄れない。彼は陸上を始め、エリという同級生の
背中を見ながら走り続ける。エリのように、「ひとり」な存在になるために。
「ひとり」は、孤独でも孤立でもなく、孤高の存在。

そのシュウジを襲う運命は過酷過ぎた。家庭の崩壊、存在を消されるくらいのいじめ。
シュウジに優しく接してくれる神父の言葉も耳に届かなくなったシュウジは、町を出る。
面会した死刑囚の目が忘れられない。「暗い穴ぼこのような」目。
シュウジは過酷な運命に対して、感情を凍らせていくことで、自衛していく。
そして知らぬ間に彼の目は暗い穴ぼこになっていった・・

運命ってなんだ宿命って何だ。何でこんな目にあわせないといけないのか、
あまりにもつらすぎるし酷すぎる。彼が「ひとり」になることを熱望し、
つらい現実から身を守ろうとする姿は痛々しすぎた。
「孤高」の存在を目指した彼は、でも、壁に「誰か一緒に生きてください」と書く・・

15歳が背負うにはあまりにも酷い、だからそんな風に自衛するしかない、
そして彼は酷いこともするし酷いことも言うようになる。
見事に救いはないのだが、シュウジがどれほどの目にあっても失わない、
でもシュウジの友人の徹夫あたりは最初から持ってすらいない、
人間としての芯というか誇りのようなもの。それがぴーんと一本、
張り詰めた形であれ通っていて、その美しさが私の背筋も伸ばさせた。
ぎりぎりまで剥ぎ取られた人間が最後に残した、その芯の部分。
うまくいえないけど、そこに感動した。
それが失われないで、本当に良かったと思ったのだ。

しかし、それにしても、私はこの本がどーしても好きになれない。
文庫で言えば下巻の最初、新田が登場してからのあの衝撃的シーンが
どうにも不快でたまらないのだ。なんで、あそこまでしないといけなかったのか。
小説の展開上必要なシーンではあると思う、重要なシーンだとは思うが、
でもやりすぎだと思ったし、映画だったら映倫ひっかかるよねってグロさだし、
・・・すごく言いづらいんだけど重松さんって実は変態なんじゃ・・・?って
疑ってしまうくらいでした。
だって村上龍を平然と読める私、今更エロ描写に「きゃっ」なんて歳じゃないけどさ、
なんか凄く凄くいやだったもん。

でも、その後シュウジが東京に行ってからは、またなんだか違うテーマ、
つまり本来のテーマに戻ったと思うんですよね。
もちろん新田とのことでの後悔は、その後の展開にも暗い影を落とすんだけど、
でもやっぱりあのシーンは絶対浮いてると思う。うん、絶対浮いてる。

すごいいい小説だったのに、そこをピックアップして熱く語らないと
気がすまない、それは惜しいことだと思うし、私もなんだか悔しいよ。

| comments(7) | trackbacks(13) | 02:05 | category: 作家別・さ行(重松清) |
コメント
こんばんは。「疾走」読みました。凄い作品でした。他の重松作品=家族モノのイメージが強くて、とてもここまでの作品とは・・・読み終わったあとズッシリと重いものを感じています。
映像化の話があるようですが・・・大丈夫なんでしょうか?
あとでまたTBさせてください。
| 古木33 | 2005/11/06 6:04 PM |

すみません訂正です。

×映像化の話があるようですが・・・
  ↓
○映像化の話ですが・・・

大変失礼しました。
| 古木33 | 2005/11/06 6:06 PM |

古木さん
映画、不安ありますよね…。主演とか…(すいませんファンの方)
トヨエツのはまりっぷり、あと新田のシーンをどう描くのか、かなり気になります。
| ざれこ | 2005/11/07 12:06 PM |

私も新田の登場前後のシーンが、どうにも、浮いているような気がして、ここまで長くページを割かなくてもなーと思いました。
すっかりシュウジが急激に得体が知れないモノに変わったのかと思ったのに、その後の東京でのシュウジは、またもや淡々と少しずつ堕ちていく感じでしたから、一層、腑に落ちなくてね。
また、うちのサイトにも感想書きますが。
| オプト | 2006/05/19 11:02 PM |

こんにちは。ざれこさん。いつまで経っても【サヨナライツカ】に辿り着けない私であります。友人の強い薦めにより【疾走】&【嫌われ松子の一生】を最近読みました。コメントで2人称でと書かれていましたが、語り手は○○ですよね?私も下巻の中盤あたりまで『オマエ』とは自分自身○ュ○ジの事を指しているのか?と思って読んでいましたがラスト何ページあたりから○○による○ュ○ジの半生を語った物語なんだなぁ〜と思いましたが間違っていたのかな?神をも思わせる発言にはやはり○○ならではの観念からなのだったのか?と思ってしまいました。このコメントまずかったかなぁ〜(反省)この本を読む前に私のコメント見たら・・・・『えっ?』なんて思われてしまうのかな?友人のあまりに強い薦めがあったせいか。読み終えた直後の感想は、ん〜なぁ〜んかスッキリしない。言う程面白かったかぁ?と思ってしまいました。友人には勿論【うん♪とっても面白かった!】と言って本を返しましたが・・。(笑)私の方は嫌われ松子の方が良かったなぁ〜!と...
| kazu | 2006/09/04 12:46 PM |

kazuさん
その解釈はあってると思いますよ。私も少し、拍子抜けだったかなあ。
私も「嫌われ松子」の方が好きかなあ?意外ですけどこの2つの作品、並べてみると、キリスト教が出てきたりして、誰かが上から見守ってるような物語で、似ている感じがしませんか?不幸オンパレードってのも、なんとなく。
| ざれこ | 2006/09/05 1:38 AM |

たびたびお邪魔しています。青森県在住のサイアミーズです。個人的にはこの作品は大好きです。図書館で借りて読んだのですが、どうしても手元に置いておきたくて購入してしまいました。重松氏は、シュウジに性的、肉体的な苦痛を与えることによって、傍観者(=読者)に人間のおぞましさを間接的に体感させたかったのではないかと私は解釈しています。そのためには徹底的に残酷な描写にせざるを得なかったのかな、と。あの場面があることで、後のエリの境遇も幾分緩和されて感じられたし、ラストに描かれる救いも活きてくるんではないでしょうか。私はエリみたいな孤独で強くて堕ちていく美少女というキャラ設定に弱いので、そこからこの作品に対する評価が甘くなっているのかも知れませんが…。ところで、好きな女の子によく本を貸すのですが、この作品については迷っています。とりあえず、「自分としてはすごく面白かったけど、好き嫌いが分かれる作品だから、合わないと思ったら途中で止めていい」と言っておこうな。
| サイアミーズ | 2007/08/21 12:57 AM |

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