本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「動機」横山秀夫
動機 (文春文庫)
動機 (文春文庫)
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 540
  • 発売日: 2002/11
  • 売上ランキング: 7492
  • おすすめ度 4.5


4編収録の短編集。
横山秀夫ベスト3の記事と被りますが、やっぱり横山さんは短編ですなあ。
「クライマーズ・ハイ」ももちろんすごく良かったんだけど、
短編のキレのよさはまた格別。何が違うかちょっと考えてみたんだが、
あれやねん、長編やと、「オヤジの汗臭さ」を感じるんだけど、
短編は汗臭くないねん。ってこのたとえってどうなん、って感じなんだが
私の感覚を言い当てるのにかなり近いので、失礼を承知で書きなぐる。

そもそも私、「横山秀夫=オヤジ」ってうるさく書きすぎ?
でもやなオヤジじゃないんよ。汗臭いったって、悪いイメージじゃないんだが、
でも本当に汗臭いオヤジが実際いたらいやだから、難しいたとえなんだが。

えーと、オヤジの汗の話は一旦おいといて。

本作「動機」では4つの短編が収められている。
表題作「動機」はお得意の警察ものだが、
あと3つは裁判官、新聞記者、そして元犯罪者も主役になっている、
バラエティに富んだ作品集。
どれも構成が素晴らしい。職人芸やなあ。短編の見本みたいな。
起承転結、特に転、結の流れが素晴らしいし、残響や余韻も残る。
彼ら一人一人の過去や未来がフラッシュバックするような。
で、熱いんだけど汗臭くないの。短編だから汗を書く暇がないというか、
そう、研ぎ澄まされてる。
(この表現にたどり着くまでにだいぶかかった・・)

さて、感想を一個ずつ。どれもよかったので、多分長くなります。

「動機」
警察手帳一括保管を提案した矢先、警察手帳がまとめて盗まれた。
外部の犯行は難しい、内部犯行か?誰が、なぜ?
一括保管を提案した貝瀬は、こっそり事件を探るが・・・

やっぱり横山氏=警察小説、と言われるだけあって、働いたことあるみたいに
詳しい記述。短編なのに組織がわかる。
警察手帳を始終身につけ、警察官であること、が、職業ではなくって
その人の一生につきまとっていく、そんな現状を打破しようともがく
貝瀬の姿を通じ、「仕事って何だろう」と考えてしまう。それは
警察だけの悩みじゃないだろう、と思う。
警察官の父を持ち、父が定年を迎えたとたん精神を病んでしまった姿を
目の当たりにしている貝瀬の行動を見て、ますます深く、私にも
しみわたる、その実感。人間って40年もずーっと、働き続けるんだよね。
特に男って。なんだか、それだけですごいような気がしてくる。
貝瀬の家族の悲しさ、温かさが、父の発する言葉「やっ」だけで
見事に表現されているのがすばらしかった。短編なのにのしかかる人生の重さ。

他の警察官の描写も、些細な台詞に人生感じます。

「逆転の夏」
えーっと、「動機」を誉めそやしたあとですが、この短編が一番すごかった。
ちょっと異色で、わりと凝ったミステリというか。
女子高生殺人で服役し、出所して働く男。そこにかかってくる、殺人依頼の電話・・
それによって彼の黒い記憶も呼び戻される。電話の男は誰なのか?

女子高生殺しで逮捕されて人生を狂わされた男。女子高生とは刹那の出会いで、
一晩体を重ねて別れるつもりが、女に責められ、人生が狂う・・・
くだらない、ちょっとした人間の欲、油断、で引きずり落とされる人生。
そして加害者のその自業自得だけど哀しい、そんな運命も、
被害者の家族たちの憎しみも、どちらもじっくりと感じさせる、深い作品。
犯人とか怪しい人物はすぐわかるけど、そういうミステリじゃないから
気にもならないけど、それでもどんでん返しも見事だったなあ。

それにしても人生何が起こるかわからないねと普通に思った。
加害者になることだって、被害者になることだって、ありうる。怖いな。

「ネタ元」
新聞記者水島は、女であることで周りから認められずにすごしてきた。
そんな彼女に全国紙から引き抜きがかかるが、欲しいのは彼女なのか、
彼女がこっそり隠している重要な「ネタ元」なのか・・・

横山氏はオヤジですが(おい)、何故か女性心理を書くのもうまいんですね。
特に働く女の。女だからこういう風に見られる、悔しい、その悔しい気持ちを
ちゃんと書いてると思うんですよ、いっつも。
私は普段真面目に働いてないから悔しくもないけど、なんか、無能極まりない
上司が、男ってだけでぺこぺこされてるような気がすることはよくあるなあ。
まあ、そんなことはいいんだけど、仕事をしてる女の悔しさ、焦り、なんかが
すごくうまく表現されてて、「ああ頑張りすぎちゃって、やだよなこんな女」と
痛々しくなってしまうほど。でも、婦人警官を描いた「顔」でも
そうだが、女たちは痛々しいままじゃ終わらない。
焦って自分しか見えずに突き進んできた彼女達が、ふと客観性を持って
周りに目を向けて、そしていい意味で力を抜く、そんな部分もしっかり
描いてて、痛いだけじゃなくすがすがしくもなれる。
なんでこんなにわかるんですかね。不思議です。こちらも力が抜ける気がする。

「密室の人」
公判中に居眠りしてしまった裁判官。そのことを新聞に書かれそうになり、
クビを宣告されてしまうが、どうして自分が眠ってしまったのか?
突き詰めるうちに意外な真相が浮かぶ・・

これ、ラストの余韻が一番でした。これを最後に収録するってのは趣味がいい。
裁判官と、そして後添えの若い妻。この夫婦の複雑な愛憎が描かれ、
読んでてなんか怖かったな。ずっと一緒にすごしてもわからない二人。
ぴーんと壁をめぐらし、張り詰めてる、そんな夫婦の悲しさ。
ラストまで読んだら、ああ、もしかして恋愛小説だったのかな、と思って、
そういう意味では横山氏としては異色で、意外だったけど、切なかった。
| comments(6) | trackbacks(11) | 03:01 | category: 作家別・や行(横山秀夫) |
コメント
このキレがですねえ、『第三の時効』で極まれりですねえ。
これ読んだ頃は、まだ、ふ〜んって思って読んでたんですけど、『第三の時効』で凄いじゃんに変わったわけで。
人物描写とか、心理描写とかにキレがでてきたのかな。
| 聖月 | 2005/10/02 6:54 AM |

はじめまして。
TBさせて頂きました。

私もクライマーズ・ハイと短編の両方を読みましたが、
同じような印象を受けました。
汗臭さ、的を得た表現だと思いますよ。
個人的には汗臭さの少ない、短編の方が好きですね。
それと、「密室の人」を最後に持ってきたのは私も賛成。
ラストが綺麗ですし、本の余韻に浸れました。
| しん | 2005/10/02 11:57 PM |

>聖月さん
「第三の時効」は図書館で常に貸し出し中で読めないんですよね。すごく読みたいんですけど。短編のキレきわまれりですか。ますます読みたいですねえ・・

>しんさん
はじめまして。TBありがとうございました。
よかった、「オヤジ」だの「汗くさい」だの失言連発でしたが、
ニュアンスわかってもらったみたいで嬉しいです・・
「密室の人」良かったですよね。あのラスト、よかったです。
| ざれこ | 2005/10/03 5:22 PM |

横山秀夫=汗臭いオヤジ
イメージすご〜くよくわかりました(違うか^^;
横山短篇、いいですよね(^^v

ところで、
わたしの瀕死のPCでは
動くものの多いサイトは表示するだけで時間がかかったり固まったりで
なかなかコメントを書き込めなくてごめんなさい。
いまもここまでたどり着くのに30分はかかってしまいました┐(-。-)┌
新しいPCが欲しいです。

TBもコメントもちゃんと届いているといいんだけれど。
| ふらっと | 2005/10/04 7:40 AM |

ふらっとさん
たどりついていただいてありがとうございます。ちょっと軽くなるように直してみましたが、やっぱり重いですね・・懲りずにまたきてくださいねー
| ざれこ | 2005/10/05 5:04 PM |

足臭いオヤジよりましやなあと…(笑)
これまで短編ばかりを読んでいるので、
ざれこさんの横山論を楽しく読ませてもらいました。
| しんちゃん | 2007/09/28 5:54 PM |

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