本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「クライマーズ・ハイ」横山秀夫
クライマーズ・ハイ
クライマーズ・ハイ
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,650
  • 発売日: 2003/08/21
  • 売上ランキング: 7,781
  • おすすめ度 4.16


うわー泣いた泣いた。号泣。
こんなに泣いたのは「博士の愛した数式」以来。
いや、全然中身は違うんだけど。

なんで泣いたのか説明つかないんだけど、それもベタなシーンでばっかり
何度も泣いてしまって、「思う壺やな私」と思いながらも、
ぼたぼた泣いてしまった。いやーラストを家で読んでよかった。
心置きなく泣けたからねえ。気持ちよかった。電車だったら困ったよこれ。
日航機が墜落した事故はよく覚えている。まだ子どもだったけど。
生き残った少女とはたしか同年代のはずだ。だから彼女が救われるシーンも
いまだに映像に残ってるし。そういや、今年で20年でしたか。
最近ニュースでよく流れてましたね。
これ読んで改めて知りましたが羽田−大阪間の飛行機やったみたいで、
オトナになった今、出張でよく乗っている飛行機と知り、怖さが増しました。

群馬の地元新聞社で遊軍記者だった悠木、
会社の登ろう会で知り合った販売部の安西から、衝立岩に登ろうと誘われていた。
それは命を落とす人もいる危険な登山。
しかしその前夜、日航機が墜落、彼は全権デスクに任命され、約束を果たせず、
しかし安西も登山はしておらず、倒れたという連絡が入る。何故なのか?
安西を気にかけながらも、悲惨な事故の状況は次々入ってくる。
命がけで山をのぼり、必死で記者が取ってきた記事が上層部の思惑で載らない、
そんな矛盾と闘い、あっという間に7日間が過ぎる。そして悠木が得たものは。

新聞記者を経験した横山氏だけに、新聞記事が一日一日生まれていく様は
圧倒的な臨場感があった。日々原稿を上げて印刷して販売店に運ぶ、
毎日の仕事がそういう風に回っていって、そして一面が社内の思惑やら
政治の思惑やらで変わったり(福田、中曽根の出身地という設定だから
これがまた面白い)、いかにもありそうな感じで手に汗を握る。
各課の牽制やら派閥やら、これもいかにもありそうだ。それぞれの思惑が
交錯していく人間ドラマは読み応えたっぷりだった。

自分の片腕になってくれそうな人に子犬をもらってもらう、なんてこと
やってる人がいて、呆れた。
そんなやり方あるんだねえ。まさに「俺の犬になれ」ってことでしょ。
「犬は生きてるし、なついてくるし」としたがってしまう。
感情に訴えて部下を手なずけるとは・・・。すごいわ。

話がそれたが。
でも、登山と日航機、テーマが二つに割れた感じがずっと引っかかっていた。
だからテーマがぶれるたびに違和感を感じた。安西の容態はそりゃ心配だ、
でもやっぱり飛行機が落ちたんだからそれどころじゃないんじゃ?と、
読者としてやきもきしていた、部分があった。

後半にすべてがつながってくる。安西がどうして倒れたか、
安西の仕事に関わる上層部の派閥争い、あさま山荘事件を取材したことを
人生の糧として生きるしかない彼らのおろかな思惑、
そんなものが次々浮き彫りになる。
それに、ラスト、望月彩子という女性が持ち込んだ投書が、私の目までも醒まさせた。
重い命と、軽い命。大切な命と、そうでない命・・・日航機の事故で亡くなった方たち、マスコミの人たちの間では、すごく大切な命だったんですよね

安西のことをそれどころじゃない、と思ってしまっていた私だって同罪だ。

悠木は新聞記者として、遺族に接したり望月彩子に接したりすることで、
新聞とは何か、何を報じたらいいのか、ひとつの答えに達した気がする。
ラストの新聞社の大部屋での一体感、それはベタなシーンだったが
私は大泣きしてしまった。深い、重い、でも、すがすがしい。

はっきり言って油断していた。横山秀夫氏の作品だから、社会派だけど
所詮はサラリーマンが共感する、オヤジ受け小説だと思っていた節がある。
もちろん上質で面白いには違いないけど、オヤジでもない私が泣くはずがない、
そう思っていた。違った。
ただのオヤジ小説じゃないのよね、私が言うまでもないんだけど。
人間が何かに向かって生きていく。真摯に生きていく。そのすがすがしさを
もらった気がしたのだった。
生き様を見事に描いた、すばらしい作品だ。

悠木の家族の描写も見事だ。悠木は息子とすれ違っている。
家族が欲しかった、自分が欲しかったから作った、でも父としての新たな
苦しみを、彼は想像することができなかった、だから生ずる家族の溝を
彼は感じている。彼が息子や娘に発するしらじらしい褒め言葉、媚、を
わざとらしいくらい台詞に感じて、こんなオヤジ絶対嫌よな、と
思ってしまったあたり、リアルだったんだろう。
で、悠木と安西の息子燐太郎とのやりとりが哀しくも、またすがすがしい。
お互いがお互いの父や息子の姿を求めてるんだがそうできない、そんな切なさ。
それでもラストはすがすがしくまとめてくれる。いやー泣けた。気持ちいい。

悠木をはじめ、新聞社の部下、上司、一人一人の人間性がまた際立ち、
彼らの今までの生き様、彼らがこの7日間で得たもの、失ったもの、
そういう数々のエピソードが作品に深みを与えている。
正直言って悠木のエピソードだけじゃ弱かった。安西が絡んでも弱かった。
でも、事故現場を見てしまい人が変わった記者の神沢、悠木の腹心の部下で
常にいい仕事をする佐山、お茶くみをしていて記者になろうとしている
女記者の依田、彼ら印象深い人物達が過去も今も背負ってそこにいる、
ことが、この作品をより重厚なものとした。

そして何より日航機事件。これを深く知り得たことにもこの本に感謝したい。
犠牲者が遺した遺書を読んだ時も涙がこぼれた。本当にあったことだろうか。
堕ちて行く飛行機で「今迄幸せだった」などと書いている人の心中は
察するに余りある。そんな思いはしたくないし、私の大事な人たち
誰にもさせたくない、と思う。
あんな痛ましい事故が減りますように。冥福をお祈りいたします。
でも、そんな目に遭った時に、「今迄幸せだった」と誰かに遺せるよう、
いつも生きていたいと思いました。

余談ですが、坂本九さんの記述はなかったなあ。ちょっと意外。
| comments(9) | trackbacks(17) | 04:17 | category: 作家別・や行(横山秀夫) |
コメント
わたしも大泣きしました。
読書はほとんどお風呂の中なので
誰に遠慮することもなく泣けるのでした。

そうですか、救出された彼女と同世代ですか。
日航機墜落のとき、わたしはすでに一児の母でしたわ(´o`;
| ふらっと | 2005/09/04 8:42 AM |

こんにちは〜。
わたしはこれ、かなり前に読んだので記憶が曖昧になっているんですけど…
ラスト近くの投書、個人的には違和感がありました(^-^;)。
彼女がそう思うのはまったく間違っていないけれど、
それを新聞に載せるのは間違っているような気がして。
うまく言えませんが…。

それがちょっと興ざめだったんですよね(苦笑)。

日航機墜落事故に関しては本もたくさん出ていますよね。
わたしは野田正彰のノンフィクション『喪の途上にて』を読んで激しく動揺しました。
もし機会がありましたら読んでみてくださいませ〜。
| ちょろいも | 2005/09/04 10:55 AM |

>ふらっとさん
よかった、大泣き仲間が。
もう20年ですよねえ。年をとるはずです・・

>ちょろいもさん
私もそこは実は違和感感じたんです。「どうしても載せないといけないのかなあ」と。
主人公の、過去の清算というか、自分が納得すればそれでいいのかよ、
みたいな部分も感じましたけど(笑)、新聞報道のあり方に
こういう形で一石投じたのかなあ、ほかにやり方はあった気がするけど、
これはこれでありかなあ、と最後には自分なりに納得しました。
まあ、設定で突っ込みたいところも少しありましたが
(あんなスクープ、普通は・・・とか。他にもまあ、・・)
それを凌駕して泣いたのでそれでいいや、と。

日航機墜落事故についてはあの「沈まぬ太陽」を積んでるんで、
近いうちに読もうと思いました。暗いらしいです・・
「喪の途上にて」も気になります。ノンフィクションだと余計重いですけど・・
またチェックしてみますね。ありがとうございました。
| ざれこ | 2005/09/05 1:41 AM |

ざれこさん、再びこんにちは(しつこい)。

『沈まぬ太陽』は…うーん(苦笑)。
まあ、読みやすいので読み始めると一気読みだと思いますが、個人的にはあんまり評価してないんですよね〜。
かなり既刊の墜落事故関係本の切り貼りっぽい印象を
受けます。山崎豊子ならでは、という本ではけしてない。

でも、墜落事故に関して知識がない状態で読めば、
たぶんそれなりにおもしろいかと。
というか、墜落事故を含めた航空業界の内幕ものですね〜。

感想を愉しみにしていますね〜(*^-^*)。
| ちょろいも | 2005/09/05 8:17 AM |

>ちょろいもさん
「沈まぬ太陽」、そうなんですかー。かなり楽しみにしているんですが。
あまり前知識のない状態で読んでみます。読むのに気合いがいるので
いつ読めるやら・・・来月くらいに読もうかなあ。がんばります(なにを)
| ざれこ | 2005/09/05 9:50 AM |

私は『沈まぬ太陽』好きでしたよ。
好きというか…そんな軽いものではないですけど。
すごい衝撃でした。
この本の焦点は、事故そのものというよりも、
「なぜ事故を起こしてしまったのか」という
本質の部分なのかなぁと思います。

ちなみに、あの遺書はほんとうにあったものだと記憶しています。
新聞とかでも見たことありますし…。
いつどこで、何度見てもあの遺書には涙させられます。
そして自分もそれくらい立派にありたいと思います…。
| chiekoa | 2005/09/05 4:20 PM |

http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=16728

こんなものを見つけてしまいました…。う。
| chiekoa | 2005/09/05 4:24 PM |

>ちえこあさん
うわ、仕事中にみて涙しそうになりました・・・
本当にあったんですね。揺れた車内で書いたんでしょうね。
う、やば。泣きそう。

| ざれこ | 2005/09/05 4:56 PM |

こんにちは。
文庫化になったので、ようやっと読むことができました。
うわあ・・・・・・・・・・・・
読み終わったとき、涙ぐんでる自分に気付く、しみじみ、いいお話でした。
特に、遺書にはマジ泣きです。
横山作品の中じゃ、一番かもしれないです。

TBさせていただきました♪

| かずは | 2006/07/07 9:43 PM |

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