本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「サウンドトラック」古川日出男
サウンドトラック
サウンドトラック
  • 発売元: 集英社
  • 価格: ¥ 1,995
  • 発売日: 2003/09
  • 売上ランキング: 7818
  • おすすめ度 3.5


最近、暑い。たまらなく暑い。
先日も、駅から20分くらい歩くところに出張に出かける羽目になり、
熱中症ってこういうときになるのかあ、とか思いながらだらだら汗かいて歩いて、
到着した先ではなんか、温暖化対策とかいって冷房がほとんど効いてない。
汗をしたたらせながら思った。
「地球はどーでもいいから今この瞬間のアタシを冷やしやがれよ」と。

いや、これ本の話ね。
そう思う連中がうようよいると、この本の世界みたいになるわけです。
熱帯、ヒートアイランドと化した真夏の東京を舞台に、この本の世界は
繰り広げられる。強烈な伝染病を持つ蚊がうようよいるので、死ぬほど暑いのに
長袖に長ズボン。なのにスコールが降る。最低です。クーラー温度は上げるべきです。
この本、真夏に読んで正解。不快さが読書を盛り上げる。

古川氏は初読。
133回直木賞に古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」が候補となり、
それを文学賞メッタ斬り!の二人が褒め称えていた。ちょっと過剰なほど。
だから図書館の「ふ」コーナーを眺めに行くと、ベルカ、は当然のごとく貸し出し中。
評判の高い「アラビアの夜の種族」は分厚い上にページをめくると明らかに難解。
横にあった本書「サウンドトラック」を手に取り、ページを繰ったら出てくる文字。
「ヒツジコ」・・・ヒツジコ?・・・?
これでこの本を読むことに私は決める。

でも分厚いなあ、読めるかな、と思っていたら、いきなり一行目から、

まばたき一回の間に父親は視界から消えていた。


え?みたいな。想像を絶する展開。いきなり船が遭難している。
父親が消え、6歳の息子が生き残り、無人島に流される。
そして、自殺を図った母とともに海に落とされた少女、奇跡的にボートにのって
その島に流れ着く。サバイバル術をたたき込まれていた6歳の少年トウタと、
4歳の少女。少女は「羊子」だったが、母に「ヒツジコ」と呼ばれていたので
そういう名前だと思っている。そして、無人島で地震が起こり、
ヒツジコは踊りを覚える・・世界を、覆す踊り。

二人は結局保護され、島で育てられていく。
私の中では最初はこの本は「コインロッカーベイビーズ」のように進んでいく。
コインロッカーでは産まれなかったけど、親の記憶を持たず、特殊な能力を持ち、
島で生きていく二人。その、破滅に向かうその感覚が、私にそれを思い出させた。

途中からそのイメージは消えていった。古川日出男の書く物語になっていく。
養女になり、東京に行くヒツジコ。そしたら養親に子どもが出来る。
赤ちゃんに愛情がうつるのを目の当たりにし、そのころヒツジコは目覚める。
破壊してしまいましょう、東京を。そしてヒツジコは高校で、踊り始める。
ヒツジコの踊りは見た者の欲望や本能をあらわにするもので、生徒や先生が
次々に消えていく中、ヒツジコの踊りの免疫体、とも言うべき数人の生徒と出会う。
この数人の個性的すぎる高校生達、彼女たちの描写が面白い。
遅刻ガール、元カツラガール、全身全霊ガール。
みんな世間の何かに怒っている。「オフピーク通勤」を推奨する電車の広告を
満員電車で見てキレたユーコ、「オフピーク通学」を決意し、毎日遅刻してきたり。
すごく勢いがあって、魅力がある。
彼女たちがヒツジコと出会い、世間とどうやって戦うのか?目が離せない。

トウタは6歳のころに歌をなくす。音楽を旋律として捉えられない。
そんな彼も東京で結婚式場の跡地で暮らしはじめ、巫女のピアスと出会う。
そこでヤクザを殺傷し、逃げてたどり着いた先で、レニ、という性別のない子供と出会う。
レニは鴉のクロイと心を通わせていて、クロイに見せる映像を撮っている。
その映像を見ると、人も鴉も心奪われてしまう。その映像を武器に、クロイの子供を
殺した地下組織と戦っている。トウタはその無音の映像に魅せられ、レニのそばに
いるようになる。

そこらへんから東京は暑くなる。ものすごく暑くなる。その暑さが東京を壊す。
そしてヒツジコの踊りが、女子高を壊す。トウタとレニが、東京の地下を壊す。

疾走する文体で一気にその破滅は描かれていくが、なんとなく、単に
彼らの孤独を描いただけの物語なんじゃないか、という気になってくる。
ヒツジコが島から去り、片割れを失ったトウタ。当然のように一人でいたけれども、
レニとの出会いがトウタを変える。レニも、当然のように一人でいたが、
トウタと出会い、・・・彼ら、社会から捨てられた彼らは当然のように一人で
サバイバルしてきたけど、彼らが自分が孤独だったことを思い出して、
ふとそうじゃなくなったことを知る。そんな風なことを考え始めたら、
ラストの2行がとてもとても、いい台詞に思えるのだった。
ヒツジコも一人だったから。ずっと。

ヒツジコの舞踏集団が実はあまり威力を発揮しないこととか、
東京が彼らが壊したのではなく勝手に壊れたこととか、エピソードが多すぎて
まとめきれてないとか、なんか当初の激しい期待と比べたら欲求不満な部分もあるけど、
この長いストーリーをぐいぐい引っ張っていく独特のセンス、人物造形のすばらしさ、
突然出てくる「ガール」なんて呼称の意外性、
そしてガール達はまるで舞城の「阿修羅ガール」みたいな思考回路してるし、
文体がすごく面白い。スピード感あって、一気に読ませる。
そこらへんを激しく買いたい私だった。
| comments(10) | trackbacks(9) | 16:29 | category: 作家別・は行(古川日出男) |
コメント
ぼくはこれ、出てすぐの頃読んだんですけど、筋なんてまったく理解できないまま読み進みましたからね〜。どんどんスピードアップしていく文体と、破壊や破滅の速度が相まって勢いで。

でも妙に引き込まれる作品なんですよ。
ぼくはこの作品、「まだ未完だよな」という理解なんですけど、続編なんて書く意思があるのかどうかは不明ですね〜。

| おおき | 2005/08/03 10:45 AM |

そうですね、確かにすごく引き込まれました。
これ未完だと思うとなんか納得いくかもですね。
でもあとは想像に任せちゃうのかな、とも思いました。
| ざれこ | 2005/08/03 4:30 PM |

古川日出男は、文体。

って、ふだんは物語が大好きと言ってるくせに、古川日出男には甘くなってしまう。ダメなぁ。
この物語に続編や、完結は不要。

ところで、ざれこさん、古川さんの文体にひきずられてませんか?ヒツジコの舞踏にシンクロナイズドするみたいに(笑
| すの | 2005/08/04 8:50 AM |

すのさん
確かにストーリーより勢いと文体が魅力ですよね。ぐいぐい引き込まれました。

今自分の感想を読み返してみて「うわ、なんかひきずられてる・・」と思いました(笑)
もともと読んだ文体はうつる傾向があるのですが、
古川氏のは特にインパクトがあり、長いこととどまっていたみたいです。
ヒツジコの踊りみたいにかあ。っていうかヒツジコの踊りと、
レニの映像みてみたいな、と思います。怖いけど。
| ざれこ | 2005/08/04 9:13 AM |

 どうにも最近暑いですねえ。
 と、何の関係もない挨拶から入ってみたり。僕はすのさんと同様、「この物語はこれで完結」なんだと思います。物語を紡ぐ才能、というのか、とにかく「物語り」の力は随一ですよね。文体的なことを除けば、個人的には池上永一さんにちょっと似ている気もします。
 古川さんは『アラビア』『ベルカ』もいいですけど、『沈黙/アビニシアン』もいいですよー。特に『アビニシアン』は村上春樹パワー爆裂な文体で、かなりすらすら読めます。9月には新刊も出るので楽しみ、楽しみ。
| street-kids | 2005/08/06 11:19 PM |

こんばんは。最近暑いですなあ。
池上永一氏は未読です。あちこちで名前はみかけるんですが、へえ、似てるんなら読んでみようかなあ(安易)。

「沈黙/アビニシアン」、確か文庫になってましたよね。買おうっと。村上春樹パワーですかあ。「サウンドトラック」からはあまり想像できないんですが(どちらかというと少しだけ舞城を思い出したかな)そういや村上春樹トリビュートもされてましたよね。古川氏。
| ざれこ | 2005/08/08 2:24 AM |

ざれこさん、こんばんわ。
暑い中これを読んで、思わずエアコン切りました。この辺は田舎なんで関係ないんですけどね・・。
文章の力に圧倒されて、えらく疲れましたが、読むことそのものが楽しかった気がします。最後の2行いいですよね。ちょっとじんとしてしまいました。
| june | 2006/08/04 10:14 PM |

juneさん
うちはエアコンぶっ壊れててあられもない格好で扇風機で過ごしてますよ。エコというより原始的(笑)でも熱中症でマジで死ぬかも、って日もありますが・・。
この本は圧倒的な文章で少し疲れますよね。でも暑い夏に読むと肌で暑さを感じるし、楽しい?読書だったんじゃなかろうかと。
| ざれこ | 2006/08/05 11:34 AM |

※古川さんも出演しますので、告知させて下さい。

★ 9/24(日) 古川日出男『朗読ギグ』@高円寺20000V

9月にイタリアからエクスペリメンタルなミュージシャン:Mattia Coletti 他を招いて、来日ツアーを行います。ツアー最終日 9/24(日) のスペシャルゲスト/スペシャルアクトとして、古川日出男さんによる『朗読ギグ』を企画しております。ライヴハウスで古川さんの朗読!ライヴ感&ドライブ感バッチリでお楽しみ頂けると思います。音楽X文学が臨界点突破する瞬間を目撃して下さい!
日曜の夕方からですので、お時間があるようでしたら皆様ゼヒお越し下さい。


◆◆◆ Mattia Coletti -Japan Tour 2006- ◆◆◆
http://www.towntone.com/mattia_coletti/


★ 9/15(金) 山形 @ Sandinista
http://www.sandinista.jp/
Open/18:30 Start/19:00 Adv/1500円 Door/2000円
w/ SHIFT, anyhowslip, about be(from about me), 歩行者

★ 9/16(土) 東京 @ 渋谷 O-NEST (6F CAFE&BAR FLOOR)
http://www.shibuya-o.com/o-nest.html
Open/18:00 ★入場無料(要1ドリンクオーダー)
w/ 秋山徹次, Anthony Guerra & Hisato Higuchi Duo

★ 9/17(日) 名古屋 @ KD Japon
http://www2.odn.ne.jp/kdjapon/
Open/18:30 Start/19:00 Adv/1500円 Door/2000円
w/ 黒澤コリン (from slow), automator9, manica camicia

★ 9/18(祝) 大阪 @ 難波ベアーズ
http://home.att.ne.jp/orange/bears/
Open/18:30 Start/19:00 Adv/1500円 Door/2000円
w/ サイバネ, クッダチクレロ, dOPPO

★ 9/19(火) OFF

★ 9/20(水) 福岡 @ Decadent Deluxe
http://www.d-deluxe.jp/
Open/18:30 Start/19:30 Adv/2000円 Door/2500円
w/ Himuro, Hard Off, accidents in too large field, ANTI AGAINST ANTI

★ 9/21(木) OFF

★ 9/22(金) 神戸 @ HELLUVA LOUNGE
Open/17:30 Start/18:00 Adv/1800円 Door/2000円
http://helluva.jp/lounge/
w/ オシリペンペンズ, 細胞文学, ムーノイジョン, mass of the fermenting dregs, サイバネ

★ 9/23(土) OFF

★ 9/24(日) 東京 @ 高円寺 20000V
http://www16.ocn.ne.jp/~k_20000v/
Open/17:00 Start/17:30 Adv/2500円 Door/3000円
w/作家:古川日出男(朗読ギグ), 豊田道倫(パラダイスガラージ), 赤い疑惑, 長沢哲&小沢あきDuo Ensemble, [DJ/ACT] Spastic Cucumber

西脇一弘さん(さかな)より素敵な推薦文を頂きました!
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あれほど意外性に満ちたアンサンブルでありながら、絶妙な調和を失っていない事はきっとなにかしら独自のフォーマットを築いているからなのだろうと感じます。
しかし僕には難しい事はよく分かりません。ただ音楽は意識的に奏でられた音や声そのものと、意図せずに鳴っている様々な音が混ざり合って出来ているんだな、と云う事に気付かせてくれる音楽でした。何度聴いても興味のつきない不思議な魅力があります。

- さかな 西脇一弘
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オーダーフォームより各公演のチケットがご予約可能となっておりますので、宜しくお願い致します。
http://www.towntone.com/mattia_coletti/
| TOWNTONE | 2006/08/29 8:11 PM |

トラックバックさせていただきました。


古川氏の文章は、
『読む』と言うよりは、
『観る』という表現が適切な感じがします。

> 疾走する文体で一気にその破滅は描かれていくが、
> なんとなく、
> 単に彼らの孤独を描いただけの物語なんじゃないか、
> という気になってくる。

何か僕もそんな気がします。

だからラストがとてもいいですよね。


それではまた、
ごきげんよう。
| T.Sato | 2007/11/11 9:49 AM |

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