本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「壬生義士伝」浅田次郎
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何度も泣きました。ものすごくいい本でした。

新撰組隊士吉村貫一郎の生涯。
南部藩足軽として盛岡で過ごし、美しい妻と子を授かり、
文武両道にて足軽の身分で藩校の先生まで務めた人物。
その彼が、足軽なゆえに食うに食えなくて、妻子を食わせるために脱藩。
そして、そのころ権威をふるっていた新撰組に入隊。
人の嫌がる人殺しを「金のため」ひきうけ、鬼貫と恐れられても殺しまくって、
彼はその稼いだお金を国の妻子に送っていた。
衣装はいつもぼろぼろ、女遊びもせず、武士というのに笑顔がすばらしい。
とても弱そうに見えるのに、一旦剣をとったら誰よりも強い。・・・・そんな彼の生涯。

これだけ読んでいたら「金儲けばっかり考えている小物」みたいな
印象を受けるかもしれない。最後の武士の集団であった新撰組において、
彼は実際に蔑まれているのだ。
しかし読むうちにわかる。彼がどれだけ男の中の男であるか。
愛する妻子を養う、それだけがために生き抜いた男、
その単純さ。そのすごさが本気で染み入ってくる。

しかし切ないことに、その妻子は故郷の盛岡で、彼の金で幸せに過ごしたわけではない。
脱藩者の息子と思いつめた長男は、
父が「息子にはずっと血を吸わないまま持っていてもらいたい」と
命がけで送った名刀を持って、函館五稜郭の戦いにまで一人参陣する。
脱藩者の汚名をすすいで南部藩の最後の武士となるため、
そして、死んで大好きな父のそばに行くため。
それだけで泣かずにいられないわけよ。もうほんま。

更に出てくるのが貫一郎の親友大野次郎右衛門。鳥羽伏見の戦で深手を負って
大坂の南部藩の屋敷に転がり込んで命乞いする貫一郎に彼は切腹を命じる。
大野は藩を背負っていて、幕軍の彼をかくまうわけにはいかない。
そして貫一郎が切腹して果てるまでの一晩の彼の行動にはまた涙させられる。
親友を殺さなければならなかった、その理不尽さが彼の決定を変え、
その後の南部藩の運命を変える。

ああもうネタバレしまくってますな。あまりによかったので怒涛のように文章が浮かぶ。

その吉村貫一郎の生涯を、明治も半ばになってから70もすぎた新撰組の生き残り達、
また大野次郎右衛門の息子や貫一郎の教え子などが語っていると言う設定が面白い。
その出来事が各個人で客観化され美化され整理されて語られているという視点、
更に、聞きながら時折涙しているのではないか?と思われる聞き手も興味深い。
(誰だろう?新聞記者か?何故吉村を調べているのかは謎のまま・・・)

その中でも斎藤一の談話は読み応えがあった。
吉村貫一郎をその純粋さ、まばゆさから憎んでいたと言う彼と、
吉村の一時の交流にもまた涙。

すごいのは出てくる人たち誰もが、「吉村貫一郎を死なせてはならない」と
全力を尽くすところにある。彼を憎んでいたはずのライバル斎藤一でさえ、そうである。
それは彼が、新撰組隊士や、南部藩の人々の光だったから。
誰よりも一途なまっすぐな人生を生きていたから、まぶしかったから。

この本では、本当に男らしいとは、カッコイイとはどういうことか、考えさせられる。
そのぼろを着た吉村貫一郎は、土方歳三より沖田総司より、
他の新撰組の強靭な武士より、誰よりも、カッコイイ人だからだ。
何のための人生か、誰のための人生か、はっきりと悟っていた彼はカッコイイ。
自分の愛する妻子のためだけ、そのちっぽけな幸せだけを、彼は死を賭して守ろうとする。
国がどうとか、思想がどうとか、そんなことよりよっぽどカッコイイ。ほんまに。

久々に生き方を考えるいい本でした。
本気でハンカチを用意して、気合入れて読んでください。


ところで以下、余談だが、

その吉村貫一郎という人物は実在したのか?私はちょっとだけ調べてみた。
いたのは確からしいが、その素性は明らかではない、らしい。

更に調べてちょっと興味深いことがわかった。
司馬遼太郎の新撰組の名著「燃えよ剣」そして「新選組血風録」
このどちらにも吉村貫一郎はほんの端役でしか出てこない。
少なくとも、伊東甲子太郎とその一派を抹殺した「油小路の決闘」のくだり、
本著では吉村が重要な役割を果たすのだが、司馬作品には彼の名前はかけらもない。
あと、鳥羽伏見の戦いでの感動的なシーン、あそこも司馬作品では彼は出てこない。

そのことは私をちょっと驚かせた。だって、浅田作品に出てくる土方歳三、沖田総司などは、
司馬作品の彼らと酷似しているのだ。まあ土方や沖田には資料も多いだろうし、
人物考証を同じ角度で行えば、土方は「粋」になるし沖田は「朗らか」になるだろう。

その彼らの中で、浅田作品では鮮やかに、当然のように吉村貫一郎は存在するのだ。

まあつまり、そのくらいマニアックな人物なわけで、ほとんど何にもわかってないってことだ。
その人物をあれだけリアルに描く筆力にも脱帽。

あと、これこそ更に余談だが、龍馬にはちょっとうるさい私は一言書かずにいられない。
この作品では龍馬暗殺犯はかなり意外な人物。
龍馬に詳しい「龍馬を語ろう」というサイトでも
今回の犯人説は載っていないようだ。(まあ、黒幕としては同じような説が載っているようだが・・)
そういう細部も気にして読むと少し面白いかも。

少々、自らのやばいところを披露してしまったかな。この辺で。

映画の感想もこちらに書きました。

| comments(4) | trackbacks(3) | 17:09 | category: 作家別・あ行(浅田次郎) |
コメント
TBありがとうございました。
壬生は本当にいい作品で、浅田さんの代表作に
なりましたね。いい作家にあったと思っています。
これからも訪問させて頂きます。
| かんつ | 2005/07/29 12:30 AM |

かんつさん
はじめまして。TBありがとうございました。
浅田さんの本は数冊読んでますけど、泣かせるのがうまいですよねー
壬生義士伝は映画も良かったですよね。中井貴一も佐藤浩市もよかったですし。

またお越し下さいね。ではでは。
| ざれこ | 2005/07/29 10:58 AM |

この1冊は私の人生を変えてしまったものでした。とにかく次郎ちゃんが大好きで、彼は私のために小説を書いている思えるくらいはまりまくり、特に壬生は新撰組をこよなく愛した私にとってヨダレ物何度読んでもバスタオルが離せない!
そのころ20年も続けた仕事に行き詰まり何もかも捨ててしまおうかなどど悩んだ時期でもありました、そんなときこの作品に向き合い目が覚めました。なりふりかまわづただ家族のため働いて・・子供の笑顔を守ってそれだけでいい!それだけで充分なんだ!
そんな風に思えるようになりました。
挫折しそうになるたび思い出します、あの一粒のお米を吉村の口に入れようとする大野の姿、1晩中ナイヤガラの滝のような涙。
これからも次郎ちゃんは、この私の為に書き続けてくれると思います。
| 梅干姫 | 2006/11/03 11:48 PM |

武士が武士でなくなり、百姓が武士になった。そんな時代に「おもさげながんす」と生き抜いた男。浅田次郎ファンなら納得しますが、そうでない方が読んだ場合、この作家の腕にどれだけに人が感嘆したのだろう。
| larkfull | 2009/08/01 5:12 PM |

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浅田次郎
野球もない暇な日曜日の夜…いつか書こうと思っていた題材があるので、この機会に。題名の「浅田次郎」は直木賞作家です。代表作品には「鉄道員」「蒼穹の昴」「日輪の遺産」など。この方、若い頃はかなりアウトローな生き方をしています。ヤクザさんと馴染みがあり、綱
| かんつのひとりごと | 2005/07/28 11:12 AM |
読書感想「壬生義士伝」
読書感想「壬生義士伝」 壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2 壬生義士伝 下 文春文庫 あ 39-3 【はてなダイアリー】http://d.hatena.ne.jp/asin/4167646021 【評価】★★★★
| 三匹の迷える羊たち | 2005/11/14 11:46 PM |
壬生義士伝
かなり泣けました(*T^T) 貧しさのため家族をおいて脱藩 養う金と生きる為に勤める(人を斬る)生き様と 衰退する新撰組に義を貫く生き様と うっかり感情移入すると号泣です 松竹 壬生義士伝
| Screen saver☆ | 2007/06/17 1:40 PM |
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