本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「マークスの山」高村薫
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例によってサイトの過去記事をアップしています。

これ↓、読んだ直後に興奮して書いたため、ネタバレしてます。
読んだ方だけ「続きを読む」をクリックしたほうがよさそうです。
まあ、興奮して書いてるので意味わかんないけどね。

読み終わって茫然自失でした。凄いです。
感動が押し寄せる推理小説。
とだけ言っておきます(この紹介だけじゃ読まないか。)
そして。読み終わって、静寂が私を訪れた。
そこには雪が降っていて、世界は全て凍っていて、
そして目の前には真っ白な富士山。

マークスが最後にみた光景。
そこから私は、マークスの視点で事件を再度反芻し、
マークスが最後に吹雪の吹き荒れる山に登ったその理由を、必死に考えていた。

唯一自分を愛してくれた真知子が奴らの凶弾に倒れてから、
また訪れてマークスを操ったであろう「暗い山」のせいで養父母を殺害し、
それでもひたすら彼は北岳へと向かった。ろくに登山道具ももたない軽装のまま。

彼が「暗い山」に追い詰められて人生を狂わせるに至った両親の心中事件。
それは北岳で起こり、すぐあとに別の大事件が北岳で起こっていた。
その事件を知った彼はそれを自らの運命とつなぎ合わせ、異常な興味を持つ。
正気と狂気の間で次々と行われる凶行の中、結局彼はもがきながら、
暗い山から明るい山へと、頂上へと、登っていったのだろう。
そして最後に富士山をみて、一緒に来たかったであろう真知子のことを
思い出したのかどうなのか。明るい山は彼を包んだのか。
彼は結局幸せに死ねたのだろうか。
静寂の中私はそんなことを考え、心がしん、としたのだった。

そしてマークスの足取りを再度たどろうと、私はまた上巻を手にとりかける。
何度読んでも新たな感慨がわきそうな気がする。

殺人鬼「マークス」の影を、警視庁の合田刑事がおいかける、単にそういう小説だ。
もちろん上質なミステリであり、警察小説としてもすごいのだが、
一人の人間を描いた、もっと違うレベルでの小説だと思う。

描かれている警察組織が恐ろしくリアルであり、上からの圧力や組織の腐敗、
そういったものがとても汚らわしく描かれていて、その中でもがきながら真相究明に闘う
現場の刑事たちがとても人間臭く、読み応えがあった。

全員にあだ名がちゃんとついている。「ペコ」だの「雪の丞」だの「又三郎」だの「蘭丸」だの。
性格もそれぞれ特徴があっておたがいそれぞれの役割をしっかりやっている。
そして主役の合田、彼は一匹狼的要素をもちながらも仲間を大事にし、
やる気もあるようなないような、だが、なんだかんだで四六時中事件のことを考えている。
元家族だった地検検事との不器用なつながりといい、時折出てくる関西弁といい、
非常に魅力的な人物。彼の人間像も小説の魅力とつながっている。

そしてマークスが暴れる背景には、社会的地位も名誉もある人物達が
なんとしてでも隠しとおしたい過去の事件が絡んでくる。
そのため彼らは警察に有形無形の圧力をかけ続け、捜査の最前線を苦しめる。
その、刑事と有力者との対決、ともとれる内容で、それがまさに息もつかせぬ展開。
彼らと比較したからかもしれないが、人を殺しまくる殺人鬼マークスが真っ白で純粋で、
キレイな存在にさえ見えてくるから不思議である。

そしてまた、舞台が「山」である。マークスがずっととりつかれている「暗い山」、
事件があった山、合田が登る山。山に登るという、命がけの極限の状況が
人間を追い詰めたり癒したりする。主要登場人物は皆「山」にとりつかれたと言ってもいい。
そういう冬の、吹雪の山が、小説全体を暗示しているような気がする。

とにかく一気に読み尽くして、しばらくしーんと、マークスについてひたすら考えた。
これほどの影響力は久しぶりである。

高村薫が女だと言うのには、北村薫が男だというのと同様に驚いたのを覚えている。
女性とは思えないほど硬質で、簡素で無駄がないのに情景がありありと浮かぶ文章。
理性的ながらも時々訪れる感情の揺れが鮮やかで、ぐっと感情移入させられる。
そして魅力ある男性の描写。これほどの男が描けるのはやはり女だからか?
(北村薫がとても純粋な女性を描くのと同様)
高村薫の作品も数多く読んだが、いずれも文句なく面白い。

ところで文庫は全面改稿らしい。ハードカバーはどうだったのか。ああ気になる。
文庫の後半はほぼ合田の視点だったが、ハードカバーではもっとマークスが描かれているんだろうか。
ひたすら文庫化を待ち望んだ小説なのに、読んだら途端にハードカバーが読みたくなる。意味がない。

しかしそれよりも合田や加納検事がまた出てくるという「照柿」「レディ・ジョーカー」を借りるべきか?
ハードカバーは買わない私のたがが外れそうだ。嗚呼頼む、早く文庫になってくれよ。
・・・と思ったら職場の人が持っていた。「照柿」感想はまた今度。

蛇足だが、感想がいつもより硬い文章になったのはまだ名残が残っているからか・・・。

| comments(1) | trackbacks(6) | 00:43 | category: 作家別・た行(高村薫) |
コメント
はじめまして。

突然ですが、TBさせていただきました。

>彼は結局幸せに死ねたのだろうか。

私もそれを一番思いました。
文庫版の「マークスの山」も是非読んでみたいと思っています。

また、遊びに寄らせていただきます。
| そら | 2005/10/07 9:52 AM |

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(書評)マークスの山
著者:高村薫 南アルプスで16年前に起こった事件により、心に「暗い山」を抱えた殺
| たこの感想文 | 2005/08/09 2:50 PM |
「マークスの山」高村薫
タイトル:マークスの山 著者  :高村薫 出版社 :講談社文庫 読書期間:2005/03/23 - 2005/04/01 お勧め度:★★★★ 上巻 → [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 下巻 → [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 「俺は今日からマークスだ!マークス!いい名前だろ
| AOCHAN-Blog | 2005/08/10 3:20 PM |
「マークスの山」高村薫
一気に読んでしまいました。 意外に早く読み終わってしまったので、少し寂しくなりました。 ★★★★★ 昭和51年南アルプスで巻かれた犯罪の種は16年後、東京で連続殺人として開花した。 精神に暗い山を抱える殺人者マークスが跳ぶ
| 日だまりで読書 | 2005/10/07 9:48 AM |
「マークスの山」/高村薫(早川書房)
 「白熱の警察小説」「警察小説の金字塔」と銘打たれ、映画化もされたのでご存知の方も多いかと思いますこの作品。  「かるかや」の共同管理人の一人・にまめちゃんが薦めてくれなければおそらく手に取ることもなかったでしょう。まさかこんなに面白い作品だったとは
| 乱読家ノススメ | 2006/04/15 10:54 PM |
マークスの山 高村薫
マークスの山 この本は、日だまりで読書のそらさん、ディックの本棚のディックさんにオススメしてもらいました。ありがとうございました。 ■やぎっちょ書評 そらさんに「この本は単行本で」という指導を受けていたのでその通りに。 文庫を読んでいないからわから
| "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!! | 2007/04/09 12:35 AM |
マークスの山
マークスの山(上) 講談社文庫 高村 薫Amazonランキング:50359位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog マークスの山(下) 講談社文庫 高村 薫Amazonランキング:50867位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBook
| のほほんの本 | 2009/07/26 12:53 PM |
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