本を読む女。改訂版

関西弁でだらだらと本の感想書いてます。
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# 「明日の記憶」荻原浩
明日の記憶
明日の記憶
  • 発売元: 光文社
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2004/10/20
  • 売上ランキング: 2,379
  • おすすめ度 4.48


2005年本屋大賞ノミネート作。
恩田陸もノミネートされているのをすっかり忘れていた私は、
前評判とかでこの本が大賞に違いない、と思い先物読みのつもりで借りてみたのだった。
結果は2位。大賞は恩田陸。あたらずとも遠からず。まあ、そんなことはどうでもいい。

主人公は50歳になったばかり、広告代理店の部長。といっても中間管理職、
今が一番旬で働いていて、一人娘はもうすぐ結婚する。 そして孫もできようとしている。
そんな彼がだんだん、ひどい物忘れに襲われるようになっていく。
病院で若い医者が言った病名は「若年性アルツハイマー」。
彼は大切なものを忘れないように、と日記をつけ始め、メモを大量に取り、
必死に病気に抗おうとする・・・

こういうテーマを一人称で書いてしまう、その姿勢にまず参ってしまう。
怖いです。主人公が普段歩き慣れた道を忘れてしまう、いつも会っている人を
忘れてしまう、ビジネスマンなのに約束を忘れてしまう、そういう些細なことから
たちあがってくる恐怖。怖い。
そして彼が徐々に何かを忘れていくこと、彼は自覚すらしていないけども
それが読者に伝わり、彼からひとつ何かが消えていくごとに、
ことんと悲しみが落ちてくる。

また彼が書く日記が、だんだんとひらがな交じりになっていくのも切ない。
これって「アルジャーノンに花束を」的手法なんだけど、効果は絶大。
実際、病状がもっとすすんだら文体はもっと乱れていくだろうし、
漢字がひらがなになるだけじゃすまないだろうけど、
その前段階まで進んでいくのがわかってしまう。切ない。

そんな哀しい物語が、淡々と語られていく。
陶芸が趣味の主人公、陶芸をしているときだけは落ち着いていられたのに、
先生にも裏切られる。そして、どんどん過去の記憶にさかのぼっていく。
ラストの光景、陶芸の師匠と過ごす時間、は幻覚なのか現実なのか、
一人称で描かれているため私には判断ができなかったが、
それは主人公が徐々に忘れていく過去、彼の人生が、
ふっとたち現れたかのような、そんな美しいシーン。
忘れてしまっても、彼の人生はそこにあったのだ。

しんみりと泣ける佳作。
文章にも泣かせてやろうという意気込みがないし、なんていうか、
多分普段は相当ユーモア溢れる文体なんだろうな、と思わせる、
何気ないユーモア感覚が文章に溢れていて、
そこがなんだか温かみにもつながっているかのような。

それにしても物忘れって誰でもするからリアルよね。
私だってひどいときはスプーン取りに行って冷蔵庫あけて、
「あれ、何探してたっけ?」なんてこともある。
って、ないですか普通?やばいですか私?
| comments(12) | trackbacks(23) | 02:20 | category: 作家別・あ行(荻原浩) |
コメント
この話、怖すぎます。(*_*)
ちょっとした物忘れならいいけど、そうじゃなくなったらどうしよう!って思いながら読み続けました。
自分の記憶がどんどんなくなっていくって、自分自身の存在がどんどん無くなっていくようで怖いです。
| Roko | 2005/06/13 9:29 PM |

確かにこれはすごく怖かったです。最後はファンタジーみたいになって美しく終わって救いもありましたけど・・一人称で書かれてるのが本当に怖いと思いました。記憶がなくなっちゃったら私の人生も消えちゃうような恐怖がありますよね。
| ざれこ | 2005/06/13 11:12 PM |

TBさせて頂きました。
アルツハイマーを冗談で口にできなくなりました(^^ゞ。
| 早乙女 | 2005/06/18 9:57 PM |

私もざれこさんのような事よくやります。
みんなが「もしかして…」って思うところを書いたこの本すごいですね。

| なな | 2005/08/07 9:15 AM |

ざれこさん、こんにちは。
一人称のせいでしょうか。佐伯の思いが、
余韻を残してじわじわと広がってゆくように感じます。
あまりに切なく、しんみり泣けました。
トラックバックさせてくださいまし。
| ましろ | 2005/08/17 11:42 AM |

ましろさん
遅ればせながらトラックバックありがとうございます。
なんかねえ、一人称なのがつらかったですよねえ。
こっちは覚えてるのに主人公が忘れちゃってる、
そういうことがたくさんあって。
さりげなく出てくるんですけど、気づくたびに哀しかったです。
| ざれこ | 2005/08/19 4:17 PM |

買って長く放置していましたが、今日読み終えました。
私の母も若年性アルツハイマーです。
家族に患者がいると、この本はかえって泣けないもんですよ。
あとは「あーDHAがいいんだー」とか別の見方しちゃう。
私もそこまで高価じゃないけど、水晶の数珠とか買っちゃったし。
著者の家族に患者がいるんじゃ?と思うくらい、リアルです。
相当取材されたんでしょうね。
| 葉月 | 2005/09/23 11:32 PM |

>葉月さん
コメントありがとうございました。
そうですか、私なんか軽い気持ちで読んでましたが、
実際に家族にそういう方がいるとまたこれを読むのもつらかったんでしょうね・・
そういう方が読んでもリアルな本なんですね。
うちの祖母はアルツハイマーじゃないですが認知症で、母が頭がよくなる薬とやらを飲ませてます。胡散臭いんですが、飲むとちょっとましみたいです。何かにすがらないといけない気持ちはだからなんとなくわかるような気もします。

| ざれこ | 2005/09/24 2:37 AM |

私も何かをちょっと物忘れしたときに、軽い気持ちで「アルツハイマー」なんて言えないなぁと思いました。反省…。
| chiekoa | 2005/12/05 1:53 PM |

一人称というのがすごいですよね。日記だけではなくて、地の文章にも病気のなせるわざと思わせるところがするりと出てきたりして、スッと寒くなりました。

ちなみにこれを読んだ日、夕食はかぼちゃの煮物と、マグロにしてしまいました。
| june | 2006/02/08 10:44 PM |

juneさん
そうですね。地の文でもはっとするところがいっぱいありました。哀しかったり辛かったり。一人称でこれをやっちゃうのはうまいなあ、と。(なんかこの小説でうまい、とか言うのも切ないのですが)
かぼちゃの煮物とマグロですか。主婦の方だとそういう発想になるかも?私はこれ読んでから母の動向を気にかけるようになりました。ほんまに大丈夫か?ってたまに思うのです(苦笑)
| | 2006/02/11 12:45 AM |

↑私です。すんません。
| ざれこ | 2006/02/11 12:45 AM |

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